5.思い込み(九条視点)

東雲の最初の印象はとにかく感じが悪いやつだった。


自己紹介をした時もディスカッション中も、とにかく目線が冷めていて言葉も最低限しか言わないようにしているように思えた。


ただ、東雲の言葉で空気が悪くなった時に少し不安そうに目を泳がせているところを見て、何となく緊張しているのかもしれないとは思っていた。


東雲はいつも真っ先に部屋から出ていくためいつも5人で少し話してから解散していた。



ある時5人で週末に遊びにいこうと言う話になった。


東雲にも声をかけるかどうか聞いたが他の4人は渋い顔をして、東雲はそういうの行きたがらなさそうと口々に話した。


結局その週末は東雲以外の5人で駅で遊ぶ事になった。


大体周りたいところに行き終わって外で話していたらふと視線を感じて後ろを振り返った。


こちらを見ていたのは東雲だった。片手に荷物を持ってもう片方は胸の辺りを握っている。


明らかにショックを受けた顔で立ちすくんでいて咄嗟に話しかけようと思ったが、その瞬間に走って自分たちとは反対側の方に行ってしまった。


他の班員も東雲の姿をチラッと見たのか若干申し訳なさそうにしている。


結局次の授業の時に直接謝る事にしてその日は解散した。



次の授業の日東雲はいつもより暗い顔をしていた。


流石に申し訳なく思い、みんなで口々に謝る。しかし、東雲の回答はやっぱり冷たいものだった。


いつもだったらやっぱり感じ悪いなと思ったが今日は東雲の様子がいつもと違うように感じた。


授業が終わってすぐ逃げるように部屋から出る東雲の背中を見て何故か妙な不安に襲われ急いで追いかける。


行ったと思われる方向に走り、使われていない部屋を覗く。


最後の1番奥の部屋で声をかけると驚いたように息を吸う音が聞こえた。


音が聞こえたところに行き上から覗き込むと、東雲はボロボロと涙を溢して泣いていた。


慌てて背中をさすりどうしたのか聞く。あの東雲が仲間はずれにされたぐらいでこんなに泣いているとは信じられなかった。


理由は思っていた事とは少し違ったし、東雲の印象が一気に変わった。


いつもあんなに冷たい言い方をしているがそれをずっと気にしていた所。


東雲にひと声かけなかった九条らが悪いはずなのに自分を責めてしまう所。


その日は東雲が九条の手を振り払って帰ってしまったため、家に帰ってから連絡した。


ちゃんとこの前誘わなかったことを謝りたかった。


〈昨日はごめん。もしよかったら明日駅で会えない?〉


正直良い返事が来るとは思わなかったし、断られると思っていたから返信が来た時は驚いた。


〈僕こそ迷惑をかけてしまってすみません。明日は予定がないので大丈夫です。〉


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