4.本当は

授業が終わってすぐに荷物を持って教室から飛び出した。


急いで人の間をぬって歩き、建物の奥の方にある誰も使っていない教室に駆け込む。


ここはあおいが大学に入ってから見つけた誰も来ない穴場だった。


いつもここで昼食を取ったり勉強をしたりしていた。


教室の隅に座り込み膝を抱える。


「ふ…ぅ…ごめ、なさい…っ」


座った途端にさっきまで我慢していた涙が溢れてきた。


気を使わせてしまったこと、冷たい言い方しかできなかった事が申し訳なくて。


それでも、原因が自分だとわかっていても、仲間はずれにされていた事が辛くて。


班員が僕はみんなと仲良くなりたいと思っていないと思っていた事が悲しくて。


「…うぅ…っ…ごめ、なさい…僕のせいで…っ」


止めようと思っても後から後から涙が溢れてくる。


何よりも初恋の人に避けられてしまった事が1番辛くて、悲しくてあおいの胸を締め付けた。


ふと廊下からぱたぱたと足音が聞こえてきた。


押し殺していた声をさらに押し殺す。


その足音はだんだんと近づいてきて教室に入って来た。


幸いあおいは机の陰にうずくまっていて相手には気づかれていないようだ。


どうかバレませんようにと祈りながらじっとしていると誰かが声をかけてきた。


「東雲?…そこにいる?」


教室に入って来たのは九条だった。ディスカッションルームから追いかけて来たのか息が上がっている。


「…ひゅっ…」


びっくりして息を吸ってしまい慌てて口を塞ぐ。でも静かな教室内では隠せていなかった。


「東雲…?だいじょ…え?泣いてる?」


九条があおいがうずくまっていた場所まで来て上から覗き込んだ。


見つかってしまった事、泣いているのがバレてしまった事で焦ってさらに涙が溢れてくる。


「ぁ…っく…ごめ、なさい…うぅ…」


いつも冷たい顔をしてるあおいが突然ボロボロと泣き出し九条は焦って背中を優しくさする。


「どうしたんだ?何で東雲が謝るんだよ。俺が謝る事だろ?」


「でも、でもっ…」


「ほら、ゆっくりでいいから俺に話してくれないか?」


「…僕が…あんな言い方しかできないからっ…僕のせいで…っ」


九条にこんなことを言って何になるんだろう。自分で言ってて悲しくなってくる。


「東雲のせいじゃない。この前のは絶対に俺らが悪かった」


九条が心底申し訳なさそうに言うがそれに被せるようにあおいが言う。


「違う!…そうなったのも全部僕の言い方のせいだからっ…僕が悪いの…」


やっと涙が止まったあおいがそう言って鞄を持って立ち上がると九条が追いかけようとする。


「あの、ご迷惑をおかけしてすみませんでした。もう大丈夫なので…」


ぺこりとお辞儀をしてから去っていった。


九条はあのいつも冷めている東雲が泣いていた事と言い方に悩んでいたことに今更ながら驚いて、しばらく呆然としていた。

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