3.素直になれない

次の授業の日の朝は最初の授業があった日よりも最悪な気分で迎えた。


先日の駅前で見た光景が登校中に何度も頭をよぎる。


やっぱり仲良くなんてなれないんだ。


毎日、今日こそは明るくいこうと思っても、また嫌われてしまうのではないか、冷たい言い方になってしまうのではないかと考え緊張してしまう。


九条は初めて出来た好きな人だから余計に緊張してしまう。


どんなに緊張をほぐすように深呼吸しても、話す言葉を決めていても。


いざ目の前に立ち話そうとすると頭が真っ白になり全部忘れてしまう。


あおいが席に着いた途端に気まずい空気が流れる。


どうやらあおいが駅前にいた事は5人全員が知っているようだった。


5人を前にするとまた先週末の光景が思い浮かび胸が苦しくなる。


潤んだ瞳を隠すように俯いた東雲に九条が声をかける。


「東雲、ごめん。決して仲間はずれにしようとか思ってたわけじゃなくて、東雲が帰った後に遊びに行こうって話になったから。」


班員も流石に申し訳なく思っているのかみな誤っていた。


「東雲くん、ごめんね。誘った方が迷惑かなって」


「東雲、すまん。君はそういうのが好きじゃないと思って」


「東雲、すまない。ひと声くらいはかけた方がよかったな」


「東雲くん、本当にごめんね。」


誰もあおいが一緒に行きたかったと思ってるとは思っていないような口ぶりだ。


やっぱり僕は誰とも仲良くなんてなれない。こんなんで九条くんのことが好きだって思ってるなんて馬鹿みたいで笑えてくる。


「みなさん、好きに遊べばいいんじゃないですか…別にどうでもいいです」


さらに場の空気が悪くなる。九条がとりなそうとした所で授業が始まった。


本当は僕の事は気にしなくていいから、5人でで遊んでいても大丈夫ですと伝えたかった。


気にしていない訳がないが、少しでも気まずい空気を無くしたくて気にしていないから大丈夫だと伝えたかった。


気を使おうとした事でさらに空気を悪くしてしまい、あおいは授業中一言も喋れなかった。


終始気まずそうにこちらをチラチラと見ている班員を見て申し訳なくてさらに泣きそうになる。


机の下で手をぎゅっと握りしめながら心の中でずっと班員たちに謝っていた。


(ごめんなさい。僕がいつも冷たい言い方しかできなくて、空気悪くしちゃうし、気を使わせちゃうし…ごめんなさい…。何であんな言い方しかできないんだろ…)


こんな自分が嫌で、気を使わせてしまうのが申し訳なくて机の下で握った手がずっと小さく震えていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る