第2話 ママは異世界人
後悔してる。
めちゃくちゃ後悔してるよ。
家に帰ると、わたしは冷蔵庫の麦茶をがぶ飲みして、アイスを二本食べた。ソファに寝転がり、今日あったことを振り返る。あーあ、失敗したな。
スオウくんとケンカしたいわけでも、憎しみ合いたいわけでもなく。
ただ、すぃーっ、て。関係が終わるのを望んでる。
……関係が終わるって言い方だと、まるで付き合ってたみたいだけど。
スオウくんはさ、わたしがどう思ってるかなんて深く考えたことないんだろうな。話しかけるな、ってオーラ、ばんばん出してるのに、ああやって絡んでくるなんてデリカシーに欠けるっていうか自分勝手……まあひどいこといったのは、わたしのほうなんだけど。でも、関わらないで、って今日ははっきり伝えたから。
もう二度と話しかけてこないよね。
少なくとも学校では。
ううん、もしかしたら今後一切、話しかけてこないかも。
って。もしもそうなったら。
さっきのが最後の会話ってこと?
ちく、とした。胸をさする。
もうちょっとカワイイこといえばよかったな、なあんて。
ちぇっ。
寝がえりを打ち、八つ当たりでソファの座面をなぐった。
そういえば、このソファ、小三のときにパパが気に入って買ったんだっけ。運ばれてきた日も、スオウくんがうちに遊びに来ていた。
わあ、てふたりで新品のソファに並んで座った。ふたり寝そべってもまだ余裕があって、くすくす笑ったのを覚えてる。カバーの色は明るい水色。だからかな。スオウくん、「サンゴちゃんにぴったりだね」って。
あの頃は楽しかった。どうしてこうなったんだっけ……。
いやいや。熱くなった目をこする。
自業自得でしょ。わたしがスオウくんをさけてるからだもん。
くさくさしていると、サイドボードの上にある水晶玉がチッカチカと光った。跳び起きて近づく。紫色の小さなクッションの上に鎮座しているこの水晶玉。フードをかぶった占い師が使いそうな立派なものなんだけど。
「おばあちゃん、元気? おじいちゃんは?」
水晶玉には映像が。映っているのは、
『じいちゃんもいるよ』
おばあちゃんを押しのけ、どアップ。たっぷりした白いもじゃもじゃヒゲのおじいちゃんだ。二人ともファンタジー映画に出てくるような恰好をしている。おじいちゃんは金ぴかボタンいっぱいの白いジャケットだし、おばあちゃんは青色でフリルいっぱいのドレスだ。
この水晶玉は異世界にあるウミウミ王国とつながっている魔法道具。実はわたしのママがウミウミ王国出身で、そこのお姫さまだったんだ。
昔、海でおぼれたパパが海底にできた
ママは、パパから話に聞いていた地球に興味を持って、こっちに越してきて結婚、わたしが生まれたの。でも陸の魔法使いが魔法の水晶玉をくれたから、今でもこうやって異世界のウミウミ王国にいる家族といつでも会話ができる。
『サンゴちゃん、もうそろそろ夏休みだよね?』
ニコニコのおばあちゃん。おばあちゃんの目はピンク色でとってもキレイ。
ママも同じ色をしていて、それはわたしにも受け継がれている。少し黄色がかったピンク——サンゴ色は、わたしの名前の由来にもなった。
でもママとわたしも、普段は黒色になるよう、これまた陸の魔法使いからもらった魔法の目薬で色を変えていた。目の色のことも、異世界の話も、地球人だとパパしか知らない。もちろん、幼馴染のスオウくんにだって秘密にしている。だってこんな話、誰にもいえないでしょ?
「明日学校行ったら、夏休みだよ」
『だったらサンゴちゃん』とおじいちゃん。
『今年の夏はこっちで過ごさないか?』
『あなたのお誕生日パーティーをお城でしましょうよ』
おばあちゃんの言葉に、わたしは思わず笑顔になった。わたしの誕生日は八月だ。だからもうすぐ十五歳。
「パーティー、お城でしてくれるの?」
『そうよ、にぎやかにやりましょう!』
『ドーンと一か月、こっちに遊びにおいで』
それもいいかも。おじいちゃんたちとは頻繁に水晶玉で会話しているけれど、これまでわたしは一度しかウミウミ王国に行ったことがない。それも保育園くらいの頃の話だから、ほとんど記憶に残っていないのだ。
どうやって転移するかっていうと、意外と簡単。ママが地球に越して来てから、三年ごと、転移チケットってものを陸の魔法使いが発行してくれていて、ウミウミ王国と行き来が出来るようになっている。
そっか、ちょうど今年が三年周期にハマる年なんだ。
今までのほとんどは、ママがパパを連れて、数日間だけの里帰りをしていた。わたしがパパのほうのおばあちゃん家に泊まりに行ったり、スオウくんの家族に誘われて旅行してて家にいないときなんかに。
というのも、転移チケットは二名様限定だから。ママとわたし、それか、ママとパパって組み合わせになる。パパとわたしの二人で行くってのもあり得るんだけど、やっぱり向こうの家族はママに会いたいと思うから。
「ママと相談してみる」
これまではスオウくんと遊ぶこともあったから、そんなに長い期間、異世界に行こうなんて思わなかった。でも今年の夏休みは顔を合わすこともないだろうから、あっちでひと月過ごすのも悪くないかもしれない。
「じゃあね、またね!」
おばあちゃんたちに手を振って、水晶玉の連絡を切った。
夕方、ママたちが帰ってくるとすぐ、わたしはおじいちゃんたちの提案を話した。パパは少しさびしそうにしたけど——だってママとわたし、ふたりともひと月、あっちに行っちゃうから——楽しんでおいで、って賛成してくれた。
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