第46話 変装のお買い物

変装のお買い物


ゆっくり机の奥から引き出しを引いてみると、いくつかの書類と帳簿らしき書類が出て来た。

そして邪神教の使う儀式用の布と印章が刻まれたペーパーナイフ。

これが何を意味するのかは俺には分からない、だがそれらは聖女の集めた証拠なのだろう。

(聖女が俺と同じこの世界に取り込まれた人間ならストレージに入れておけばいいのに?もしかして攫われること自体がクエストの条件?)

どっちにしても、このクエストは俺に課せられた使命の様だ、全く面倒な事をやらせてくれる。


「何かわかりましたか?」

「邪神教と言うのは分かった、聖女が管理している孤児院ってどこか分かるか?」

「それなら王都の西マーカス領ですが、あそこの領は入国が厳しいと言われています」

「そんなの王様の一言で変えられないの?」

「それが隣の領は宰相であるバルボッサ・マーカス公爵様の領なので王様でもすぐに命令できないのです」


公爵でしかも宰相の位にいる、要するに国王の次に偉い人物、独自に運営している領は治外法権を認められていたりする。

その中で虐げられていた子供達を救うべく聖女は動いていたが、多分聖女は目を付けられてしまったのだろう。


「口封じだな、すぐにマーカス領に行こうと思うけど」

「あそこの領は簡単には入れないですよ」長官

「なんで?」

「もとは小国だった場所で、現在はブリュッカス王国に併合された形ですが、今でも自治権が有るので、うまくやらないとすぐにつかまって牢獄行きになります」

「長官でも?」

「はい」


何ともおかしな話だ、王国に併合させておいて自治権はそのままとは、確かに無駄な戦争をするよりはましだと言っても、これではいずれ王国があちらに乗っ取られてしまう可能性がある。

しかも今回聖女は向こう側につかまっているのだ、人質として国を明け渡せと言われたらどうするのだろうか。


「入り込む手立てとかは?」

「定期便で入り込むことはできますが、その服装では…」

「あー確かに勇者セットはありえないな、何処かに洋服屋は?」

「それならいくつかございます」


聖女の残した証拠をストレージへとしまうと、長官の後を付いて洋服屋もしくは武具屋へと向かう。

既に夕方5時を過ぎ辺りはゆっくりと日が陰ってきたが、聖教会の聖堂から10分と少し馬車で移動すると商店街が見えて来る。

変装の為に外見を変えないとどう考えてもすぐ怪しまれてしまう、どうやら勇者セット自体がすでにこの国では認知されているようで、どの町へ行ってもすぐにばれてしまうらしい。


「着きました」


そこは洋服屋と防具屋が隣り合わせにお店を構えており、どちらも同じ人物が運営しているように見えたが。


「カランカラン」

「いらっしゃいませ」


中に入ると貴族が着るような服が並んでいる、仕立てはかなり良さそうだがデザインは少し古い。


「服を探している、こちらのノブユキ様に合う服は無いか?」

「かしこまりました、少々お待ちください」


持って来たのは制服のような感じだが、形はスーツに近い、3ピース構造なのだがパンツは何故か現代の素材に近い伸びチジミする奴だ。


「お色は?」

「色?選択できるの?」

「はい工作魔法や縫製魔法の中に染色魔法と言うのがございます」

「そうなのですか…なるほど」


細かい設定は魔法やスキルと言う形で簡単に変更できるようにしているらしい。


「では黒で」


そう指定すると店主の魔法でアッと言う間に色が変化する。


「マントはいかがします?頭を覆う事も出来ますが」

「じゃあ青いマントを」

「かしこまりました」


3ピース構造のスーツとシャツそしてマントとブーツ、結局外見は全部変更する。

勇者セットのバフは捨てがたいが、こうしないと潜入できないと言われてしまえば仕方がない。

ちなみにスーツもマントもDEFやATが上がるバフは全くない。


「まいど有難うございます」

「こちらでお支払いしても宜しかったのですが…」

「いいえそれは聖女を救出した後で」

「ではそうさせていただきます」


長官には西のマーカス領へと向かう定期便の馬車が出ている停留所を教えてもらうと、俺はすぐに出立すると告げた。

本来ならば本日はここに逗留するはずだったのだが、クエストが有ると思うとなぜかすぐにそれをクリアしたくなるのだから、アプリゲームをするのはいい加減にしておかないといつの間にか中毒になってしまいそうだ。

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