第4話 人食いアプリ

人食いアプリ


そのカラオケ屋は、俺の元バイト先であり全国展開しているチェーン店でもある。

オールすると言うのであればフリータイムがおすすめだ。

基本2時間以上いるのならフリータイム、1時間で帰るならば30分ごとの課金制。

俺は一応会員になっているので割引も利く。


「いらっしゃいませ~」

「画面を見てお選びください」

「友人は先に来てるのか?」

「ちょっと待ってて…」

「17号室だって」

「どうする2時間以上にするかそれとも…」

「時間割で」


フロントに行って17号室に参加させてもらうにはフリータイムにしなければいけないようだ。

俺はそれならば別の部屋を2人で取って17号室には少し顔を出せばいいのではと進言してみた。


「そうかそれいいかも」

「じゃあそうしよう」


どんな友人かもわからないのに、朝まで一緒に居ることなど考えられない。

入室したのは12号室入室時間は11時少し前なので、俺は元アルバイトの同僚に話し1時間で帰ると告げた。

基本1時間だと2千円未満で済むのと学割も利くので二人で5千円まではかからない。

部屋に入るとすぐに一番安い食べ物を注文し、17号室へと訪れた。


「きたきた!」


大音量で騒ぐ若者達 人数は8人、カップルばかりと言う事だが6人はカップルだが2人が女子同士。

これは少しきな臭い感じがしてきた。


「そんじゃ最初に1曲!」

「歌え 歌え!」


どうやら酒が入っている様子、歳はそれほど変わらないと見受けるが。

女子5名は山口さんと同じ雰囲気、いわゆるヤンキーに近い。

でかい音量の中そのヤンキー風女子と山口さんはなにやら話し合っている。

聞き取りずらい会話だったが耳を澄ませると…

(話が違うじゃん!)

(仕方ないじゃん、見つかんなかっただけだし~)

(でもあんたの彼氏だっせ~)

(そんで?何酒飲んでんの?)

(久留実の彼し23だから~だいじょうぶっしょ)

(フーン)

(じゃああんたも来たことだし始めよっか)


そこから始まったのは定番の大様ゲーム、よくある話だ。

そして負けたら酒を飲まされると言うのも、よくある話だが俺は飲酒を拒否した。

こういうゲームは大抵インチキであり、俺たち2人を貶める為に仕組まれた罠だ。


「あんだよ ガキ見て―ジャン」

「まだ18だからガキみてーなもんだろ」

「おまえ少し生意気だな」


どいつの彼氏だか知らないが、いきなりチョッカイだしてきてしかも何もしていないうちに俺の腹へと蹴りを入れて来た。

勿論俺は暴力反対の人であり、逃げる事を優先するのだが…


「グッ!」

「ドン!」

「おら!」


悪いことにこいつはそのまま俺の胸倉をつかむとソファに押し付け背中越しに腕を極めてくる。

それを見て山口さんが男に食って掛かる。


「あにしてんだよ!」山口

「あ?なんだと」


そして今度は他の女子全員が山口さんを押さえにかかる。

最初抵抗していた山口さんだが、他の7人に抑え込まれればこの狭い部屋の中、分が悪いなんてものじゃない。


「おースマホもらっておけよ」

「やめろ!」


俺のスマホは一応パスを打ち込まなければ表示されないはずなのだが、何故か待ち受け画面がすぐに表示されていた。

俺のスマホを手にすると何故か表示されたのはあのアプリ、もちろん課金などしていないが何かの拍子に課金了承されてしまったのか、俺は抑え込まれていながら財布の中身を計算していた。

(マジか3000円、今日の日給千円かよ!)


「オーなんだこれ、AI写真変換アプリ?」

「パシャ!パシャ!」


そこまでは何ともなかったのだが、問題はその後だ。


「トイレ」

「あたしも」

「えーじゃあいっしょに行く」


女子が5人まとめてトイレへ行く為、荷物を持ってそそくさと部屋から出て行く。

いままで押さえられていた山口さんも、女子が慌てて出て行った隙に男2人を振り払い見事な蹴りと正拳を相手の男の胸や腹に数回、叩き込む。


「なんだ、こいつ!」

「バキッ!ドスッ!」

「おまえもだ!このやろー」


俺も上に乗っていた男が一瞬ひるんだすきに頭突きをくらわせ、スマホを取り上げるとすぐに部屋を出た。

男3人は酔ってはいたが多分半分はそのフリでもしていたのだろう、俺を抑え込んでいたやつは鼻をへし折られ鼻血を出しながら、俺達2人が部屋から出るのを見送ることになった。

俺と山口さんはすぐ自分達が最初に入った部屋に戻り荷物を手にフロントへ。

そしてこのことを元バイト仲間告げると、山口さんを連れてさっさと帰る事にした。


これは後日聞いた話、女子5人がトイレに行った後。男子3人は中々帰って来ない女子を見に行ったと言う。

荷物もすでにトイレへと持ち込んだらしい女子5名はその後、忽然と姿を消していた。

男達は自分達を置いて女子がバックレたと思い込み、仕方なく支払いを済ませると帰って行ったのだと、元バイト先の同僚から話を聞いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る