第5話



 初めてじーさんと話した時のことを簡単に言ってみよう。

そう、簡単に言えば船乗りだったらしい。

当時の船乗りたちと言えば、そりゃもう荒くれ者ばかりだったらしい。

多分、港にもよると思うのだが。


 じーさんは、そんな荒くれ者たちを相手にしながら暮らしていたらしい。

もちろん負けなしの勝者であったと言っている。

本人が言っているんだ、信じてやろうじゃないか。


 歳をとって船乗りを引退してからは、どこかの大学の近所で喫茶店を経営していたらしい。

そりゃそうさ、どんなに喧嘩が強くても相手が年齢となれば、ね、歳には勝てやしない。

じーさんの船乗り人生の終焉ってところさ。


 そんなどうでも良いような、じーさんの話を聞いてやっていたのさ。

そして、じーさんの話は過去のものではなく、現在と未来の話になっていくんだ。

もちろん、今のじーさんの暮らしは文句ばかりさ。

体が痛い、たまには外へ出たい、出てくるコーヒーが不味いなど、文句ばかりだね。

ただ面白いのは、この施設から一歩も出たことのないあんたが、なんでそんなことを知っているんだい?って話さ。


 つまり、この国は支配され始まっている、って事らしい。

可笑しいね、笑えるじゃないか、じーさんの頭は国際情報でいっぱいって事さ。

どこの誰だか分からないが、そいつらが国の乗っ取りを完了したら無法地帯の始まり、って事になるらしいんだ。

私は腹を抱えて笑ったね。

いや、実際には歯を食いしばって笑いを堪えたね。


 どうもじーさんの頭の中は、国際情報だけではなく、裏社会の情報もカンカンに詰まっているようだ。

笑っちゃいけない、他に何の楽しみもない老いらくの人生なんだ。

真面目な顔をして、最後まで聞いてやろうじゃないか。

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