第6話



 私は、次にばーさんの部屋を訪れた。

このばーさんが良くできた人でね。

慰めになるのさ。

言ったっけ?

ここに住んでいる老人たちの事?

皆んないろんな過去っていうやつを持っている。

当然だ、人にはそれぞれの人生ってものがある。

大した事もない人生。

誰も経験できるようなものじゃない人生。

大した事もない人生でも、その体験をよく考えて生きて来た奴。

そいつは偉いさ。

それを経験って呼ぶんだと私は思っているよ。

誰も経験できるようなものじゃない人生。

こいつには幾つかの異論もあるがね。

要するに大なり小なりの体験を一生懸命に生きて来た奴。

それだけを本当の意味での経験と呼べるんじゃないかい?

私は、そう思っている。


 このばーさんは、そういう意味じゃ大したものさ。

しっかりとその体験ってやつを理解している。

そんな人がだ、どうしてここに居るのかと思うことがあるよ。

仕方ない、それぞれの家庭の事情ってやつがあるんだから、私には理解できないことであって、どうしようもできないことさ。


 社会の中では「はいはい」って何でもいうことを聞いていればいいんだよ、心の中ではどう思っても良いからね。

上手く生きた方が勝ちなんだよってね、言ってくれるのさ。


 こちとら、そんなことは百も承知しているよ。

ただね、このばーさんが言うと、どういう経験をして来たのかってね、気になるのさ。

そんなばーさんだね。

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