第30話 説明そして提案
コンコンコン
ス:「失礼します.」
ノックをした後,中からの返事を待たずに,スラ8号は木の玄関ドアを開ける.そして,メリー達に向かって手招きをし,中へ入っていく.
メ:(本当に入ってもいいんだ・・・.)
門の前では心躍っていたメリー.
実際に門をくぐり,きれいに整えられた庭やでっかな豪邸を目の前にして圧倒されてしまった彼女は,今ではすっかり(こんな私が本当に入ってもよいのだろうか?)と気後れしていた.
ト:「・・・行くぞ.」
そんなメリーの気持ちを知ってか知らずか,トモシビがメリーに声を掛け,中へと入っていく.
メ:「・・・うん.」
そうして,メリーも決心がつき,初めての豪邸へと足を踏み入れるのであった.
─────────────────────
メ:(・・・すごい.)
玄関に入った瞬間,メリーは声にならない感嘆を漏らした.
広かったからである.玄関ホールが.
正面と左には両開きの扉があり,右側にはどこまでも続く通路と二階へと続く階段が見える.
広い.すごい.これがメリーの最初に抱いた感想である.
そんな感動も束の間に,スラ8号は,さっさと左の扉の前に行く.
コンコンコンッ
ス:「メリー達をお連れしました.」
「ああ,ありがとう.ちょっと待ってくれ.」
今度は中から返事がある.低く,それでいて優しい青年の声だ.
メ:(この声ってもしかして・・・)
メリーが,その声の主を思い浮かべたと同時に,両開きのドアが中から開き,見覚えのある褐色肌の青年が姿を現した.
ハ:「あっ,おはようございます.メリーさん.昨日ぶりっすね.」
メ:「おはようございます.ハク・・・あっ,えっとぉ・・・.」
口止めされていることを思い出し,歯切れが悪くなるメリー.その様子を見て,ハクチョウも何に困っているのか察する.
ハ:「ああ,すみませんメリーさん.もう隠さなくて大丈夫っすよ.これからお連れさんにも事情を話すつもりっすから.・・・ええっと,あなたがトモシビさん?っすよね.初めまして.僕はハクチョウ=ミライって言います.」
ト:「トモシビです.こちらこそ初めまして.・・・えっと,失礼ですが,どうして俺の名前を?」
ハ:「ああ,そこにいるスラ8号から聞いてたんですよ.メリーさんにはトモシビさんっていうお仲間がいるって.」
ト:「はぁはぁ,そういうことでしたか.」
なるほどぉーという様子で頷くトモシビ.しかし,心の中ではあることに仰天していた.
ト:(スラ8号っ!!?何その変わった名前!!こいつそんな名前だったのかよっ!・・・て,いやいや表情に出すなよー俺.さすがに失礼だからな.・・・それにしても,なるほどな.そういえば,昨日路地裏でメリーと出くわしたとき,でっけぇ声で「トモシビだ!」って叫んでたっけ.そりゃ俺の名前伝わってるわな.)
ハ:「それじゃあ,ここで話すのもなんですから,中へ入ってください.ささっ,どうぞ.」
こうして,二人は促され,左の扉の奥へと入っていくのであった.
──────────────────────
扉の奥はサロンであった.つまり,客室である.向かい合って座れるソファー,その間には大きめの丸机が一つ.丸机には桜色の浴衣がたたんで置いてあり,天井にはシャンデリアがきらびやかにぶら下がっている.
そして,そのソファーの横に一人,立っている人物がいた.
それはふくよかな体型で,白く豪華な衣装を身にまとった男である.
メ:(あれ?この人どこかで・・・.)
「初めまして,私の名前はミラ=メイジアン.この姿でメリーちゃんと会うのは昨日の屋台通りぶりかな.」
その声には違和感があった.体型に見合わない力強い女性の声だったからだ.しかし,そんな違和感に浸る間もなく,「屋台通りぶり」という発言を聞き,メリーは思い出した.
メ:「・・・あっ!あの時の人か.」
そう.目の前の男は,メリーがケバブを食べ終えた時にみかけた4人組のうちの一人,眼鏡をかけたオールバックの男にへこへこされていた白服の中年男─マルガオ伯爵その人だったのだ.
メ:「あれ?でも,あの時ちらっと聞こえてきた声,今のミラさんの声と違ったような・・・.」
ミ:「フフッ,それはそうだろうね.あの時は声も作ってたから.」
メ:「声も?」
首をかしげるメリー.そんな彼女にミラは笑顔で説明する.
ミ:「ああ.私は変装と声マネが得意でね.今はマルガオ伯爵という方に変装しているんだよ.」
メ:「あっ!変装してるの!?そっか,潜入捜査の一環で.道理で見た目と声が一致しないと思った.」
ミ:「そういうことさ.この変装は一度解くと,同じ変装をするのにかなり時間がかかるから,変装した状態のままで君たちと話している,気を悪くさせるようなら申し訳ない.」
メ:「いえいえ,大丈夫よ.気にしないで.」
と,そのとき,メリーはもう一つ,スラ8号から感じた寒気に似た感覚をその4人組の中にいた二人の大男からも感じていたことを思い出した.
メ:「あっ,そうだ!それじゃあやっぱり,あの屋台で目があった熊みたいな男の人がスラ8号さんだったのね.」
ミ:「ああ,そのとおりだよ.私がスラ8号に君を追わせたんだ.その件は本当に申し訳なかった.」
ミラはそう言いつつ,頭を下げる.
メ:「そうだったんだ.・・・分かった.気にしないで.間違いなんて誰にでもあることだし.」
ミ:「恩に着る.」
ト:「・・・あのぉ,そろそろ説明してもらえないですか.あなたたちとメリーがどういう関係なのか.」
話について行けずやきもきしていたトモシビ.そんなトモシビに対し,誰よりも早くメリーが口を開いた.
メ:「あっ,そうよね.ごめんねトモシビ.えっとぉ,この人達は憲兵隊の人達で,この町での失踪事件を解決するために潜入捜査をしていたみたいなの.それでね,私がその犯人と間違えられて路地裏で殺されかけたってわけ.その時に,ハクチョウさんが真犯人を見つけたってことで誤解が解けて,今に至るっていう感じかな.」
ト:「はぁー・・・.なるほどね.」
ト:(殺されかけたって,さらりと言う言葉じゃないだろっ!?ほんと面白れぇな,メリー.)
心の中で激しい突っ込みを入れつつ,平静を装うトモシビ.
ト:「それで,情報が漏れたらまずいってことで俺に話せなかったってわけか.」
メ:「うん,そういうこと.」
ハ:「・・・僕たちは,この事件の犯人が魔女ではないかと疑ってたんす.そのせいで,何の罪もないメリーさんを危険な目に合わせてしまいました.メリーさんにも,トモシビさんにも重ねてお詫び申し上げるっす.申し訳ありませんでした.」
ミ:「私からも,本当に申し訳なかった.」
改めて,二人はメリーとトモシビに頭を下げた.
メ:「わわっ,もういいよ.頭を上げて.」
謝られ慣れていないメリーは,どうすればよいか分からずおどおどする.そんな彼女の様子を見るトモシビ.
ト:「・・・メリーがそういうんなら,俺から何かを言う筋合いはねぇな.・・・それで,そのことを俺に話したってことは,もう事件は解決したのか?」
ミ:「ああ,解決はした.だが,完全に解決はしていない.」
メ:「ん?どういうこと?」
ハ:「人攫いの首謀者自体はもう捕まえたんす.メルガネっていう副町長で,今はそこにお仲間さんと一緒に縛ってあるっす.」
メ:「えっ?」
ハクチョウの指す方向を見るメリーとトモシビ.そこには,猿轡をはめられ,縄でぐるぐる巻きにされて,力なくうなだれている5人の男の姿があった.その内一番手前の眼鏡をかけた男は,髪はぼさぼさになっているが,彼らの中でもっとも気品のある格好をしている.おそらく彼がメルガネであろう.
メ:(あっ,ほんとだ.全然気づかなかった.)
ミ:「ちなみに,この家も彼の家だ.」
メ:「えっ!?そうなのっ!?」
仰天するメリー.
ハ:「はい.・・・なんでも,彼はこの町でも有数のお金持ちの両親の下で生まれたらしくって,この家も3年前に他界した両親から相続したものらしいっす.」
メ:「へぇー,そうなんだ.」
ハ:「その後,ギャンブルにはまりまくって,闇金からお金を借りてたらしく,そのお金を返すために人身売買に手を出してたらしいっすね.」
メ:「そんなことが・・・.」
メ:(なるほどね.借金を返すために人攫いをしてたってわけか.・・・なかなかヤバい人ね.)
ハ:「二年くらい前から人身売買自体には手を出してたみたいっすけど,三カ月前に魔女が町に現れてからは,魔女のせいにできるのをいいことに活発に活動してたみたいっすね.」
メ:(なっ,なんて卑劣な人・・・.)
メリーはショックを受ける.
ト:「それで,まだ解決してないっていうのはどういうことなんだ.」
ミ:「・・・ああ,実は彼の話によると,月に一度,奴隷商がこの屋敷にやってきて,捕まえた人々を買い取ってたらしくってね.次にその奴隷商がやってくるのがちょうど今から五日後の夜なのだそうだ.奴隷の売買自体はこの国では合法だが,一般人を誘拐し,奴隷とすることは非合法だ.私たちは是が非でもそいつらを捕まえたいと考えている.」
ト:「なるほどね.つまり,その非合法の奴隷商たちも捕まえてようやく事件が完全に解決するっていうわけか.」
ミ:「その通りだ.」
メ:「そうなんだ.・・・私に手伝えることがあれば何でも言ってください.絶対に力になりますから.」
ミ:「ありがとう.そう言ってもらえると嬉しいよ.・・・.」
ミラは,お礼をいった後,しばし沈黙する.何か言おうとして,ためらっているようだ.そうして,少しの時間が流れた後,ミラは意を決したように口を開いた.
ミ:「この流れで話すのは本当に申し訳ないんだが,それに関連して,実は一つ,君たちにお願いしたいことがあるんだ.」
ト:「お願いしたいこと?」
ミ:「ああ.・・・私たちの代わりに,『ゲット・ザ・トレジャー』に参加してもらえないだろうか?」
ミラは真っすぐと二人を見据えながら,そうお願いするのだった.
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