第22話 宿屋かまど

──つらくなったら、いつでも相談しろよ。俺はお前の味方だから。──



ト:「・・・.」


眠りから目覚めたトモシビは、しばらくボーっと、虚空を見つめる。

・・・ふと、トモシビは視界に映る天井に意識を向けた。

天井板が敷き詰められた木目の見える天井。

板ごとに木目の文様と色合いが微妙に異なるため、見ていて意外と飽きない。


ト:「・・・.」


ト:(何してんだ俺.)


ト:「ふぅ、そろそろ起きるか。」


そうして我に返ったトモシビは、よっこいせと上半身を起こし、そのままよじよじと硬いベッドから降りたった。


窓から差し込む日の光を右半身に浴びながら,トモシビは「うーん」と背伸びをし、身体をほぐす。


ト:「・・・腹減ったー.飯でも食いに行くか.」


そうして、机の上に置いておいたウエストポーチを腰に提げ、トモシビは扉を開き、自分の部屋から出ていくのだった.



───────────────



タッ、タッ、タッ・・・


ト:(それにしても、久しぶりだなぁあの夢みんの.まだあきらめきれてねぇのか?俺は・・・)


「あら、よく眠れたかい?」


階段を降りていると、ふいに下の階のカウンターにいた丸眼鏡のおばさんに声を掛けられる。


彼女はこの「宿屋かまど」の女将、御年50歳の少し丸目の叔母さんだ。


ト:「ああはい.よく眠れました.」


お:「そうかい,それはよかった.・・・ああそうそう、後でくるって言ってた女の子だけど、まだ来てないよ.」


ト:(女の子?・・・あっ,そうだメリー!)


ト:「まだ来てないんですかっ!?あれから結構時間たってますよねぇ?」


お:「そうだねぇ、もう夕方近いけどまだ来てないねぇ.」


ト:「そうですか・・・.」


ト:(・・・まじかよあいつ.もしかして迷ってんのか?それとも、初めての町に時間を忘れてはしゃぎまくってるんだろうか?くっそー、念のために一度宿屋まで来てから別れるんだったなぁ.この宿屋まで帰ってこれるのか心配になってくる.あいつ、行動力があるわりに意外とシャイなとこあるからなぁ.・・・ああーヤバい,なんかいつも以上にムシャクシャしてきた.腹が減ってて心にゆとりがねぇ.・・・まぁ、思い返せば二日近く何も食ってねぇもんな.眠る前はそんな気にならなかったのに、やっぱ眠気で空腹感が麻痺してたんだな・・・.まぁいいや.とりあえず,まずは飯食ってそれから後のことを考え──


──晩御飯は一緒に食べようね!ばいばい!──


そのとき、ふとメリーとの約束が脳裏によぎる.


ト:(・・・夕方近くってことは、もう晩飯の時間も近いのか.)


お:「・・・そんなに心配かい?連れの女の子のこと.」


ト:「えっ?」


お:「だってほらぁ、さっきから一歩も動いてない.・・・なんなら役所に電話して衛兵さんに探してもらおうか?」


ト:「えっ!?いや,ありがたいっすけどそこまでしてもらわなくてもいいですよ.それにあいつなら,なんだかんだ宿屋に来ると思うんで.」


お:「そうかい.そういうことなら役所に連絡するのはやめるよ.・・・どこか行くのかい?」


ト:「はい,ちょっとぉ・・・散歩でもしようかなと.」


お:「そうかい.気を付けていくんだよ.」


ト:「はい.」


タッタッタ・・・


そうしてトモシビは階段をかけおり,玄関から外の世界へと足を踏み出すのだった.

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