第20話 よこやり

ロ:「クッ・・・ソが・・・」


─バチャンッ


メリーによって身体を貫かれ,上半身と下半身が真っ二つとなったロウジー.倒れゆく下半身の上に上半身が落下し,そのまま地面にベチャッとなった.


メ:「・・・ぐッ.」


ロウジーの身体を通り抜けたメリーは空中で前転しながら身体を捻り,ロウジーの方を向いて地面に両足を付ける.


ダザッ


メ:「・・・っ.」


─激痛.歯を食いしばるメリー.

着地の瞬間に体重と共に肉を抉られた胴体の痛みが襲ってくる.しかし,メリーは決してロウジーから目を離さない.


ズザザザァー・・・


そのまま,メリーの身体は慣性に従って後方に滑っていく.メリーは両膝を曲げ,片手をついてなんとか倒れないようにバランスを取りながら,ロウジーをしっかりと見据える.


ロウジーの身体は下半身の上に上半身が乗っかっている状態で地面に倒れており,すでにその上半身がチョコレートのように解け始め,下半身とくっつき始めている.


メ:(まずい.やっぱり倒しきれてない.・・・でも,流石のロウジーさんもあの状態ならすぐには身動きが取れないはずっ.今のうちにたたみかけて、戦闘不能にしないと!)


ボワボワボワッ!!


メリーはすべりながらも,すぐさま無数の火の球を展開する.そして─


メ:「火弾ファイアーバレット!!」


自身の身体が止まるか止まらないかという瞬間にロウジーに向かって魔法を解き放った.


ブワァアアアアアッ・・・!!


無数の火の球は一直線にロウジーに向かって突進していく.ロウジーはというと,相変わらず下半身に上半身が結合している最中という感じで,トゲを放つ気配どころか,身体を変形させ,避けようとする様子もない.


メリーはその様子に,自身の攻撃の成功を確信する.その時だった.


アアアアアア/!!


メ:「なっ!?」


驚くべきことが起こった.


火弾の動きが止まったのだ.全ての火弾の動きが止まったのだ.さっきまで意気揚々とロウジーに向かっていた火弾すべてが突然ピタリと止まってしまったのだ.


自らの,メリーの意思とは関係なく,ふいに止まってしまったのだ.


無数の火弾は,そのまま一秒と経たぬ間にその場で力を失ったように霧散していく.


メリーはその光景に訳が分からないと言った様子で,否,訳は分かるが信じられないといった様子で目の前の光景を,急に目の前に現れた一人の男を見つめている.


その男は,褐色肌で,タンクトップを身に付けているその男は,ロングソートを振り下ろし,片膝をつけ,屈んでいる状態でロウジーの前に立っている.


ロングソードを振り下ろし,片膝をつけ,屈んでいる状態でロウジーの前に立っているのだ.


そう,つまりは斬ったのだ.斬られたのだ.

メリーの放った無数の火の球は,急に電光石火のごとき速さで空中から現れた目の前の男の一閃によって側面から縦に真っ二つにされたのだ.


メリーは信じられなかった.理解が追いつかなかった.魔法が斬られて防がれるなんて予想だにもしなかった.


「・・・ふぅ.」


謎の男は,ゆっくりとその場に立ち上がる.


その瞬間,メリーはハッと我に返る.


高等治癒ハイ・ヒール!!


メリーはすぐさま魔法を発動し,身体がエメラルド色のオーラに包まれる.胴体の血が止まり,さきほど抉られたばかりの生傷がふさがっていく.この魔法はトゲにくし刺しにされていた時に使ったものと同じ魔法.治癒ヒールよりもさらに深い傷を治せる上級魔法である.

普段は魔力の消費量が高いためおいそれとは使えない魔法であるが,現在のメリーはポチとの戦いの後のように何故だか魔力が回復していっている状態であるため,迷わず使用できる魔法である.


メ:(火弾が斬られるなんて・・・.あの人が何者なのかは知らないけど,味方でないことは確かなはず・・・.とりあえず,今のうちに回復できるだけ回復して,どう対処するか考えないと・・・)


謎の男は,そのまま流れるような手つきで剣を腰の鞘に戻す.そして─


「・・・お」


メ:(お?)


「おっ・・・しゃーーーーーー!!!」


両腕でガッツポーズをしながら,空に向かって歓喜の雄たけびをあげるのだった.




─────────────────────




「きれたきれた!魔法が斬れた!!まさか本当に斬れるなんて.・・・ありがとう,ミラ先輩.俺感激っす・・・.」


謎の男は,前半は両腕でのガッツポーズ,後半は胸の前で両手を握り,目に涙を浮かべながら喜びをかみしめている.


メ:(なんなの?この人・・・.一応敵・・・何だよね?)


メリーは初めて見るタイプのその人物にただただあっけにとられている.


「いやぁー,分かります!?僕の気持ち.」


メ:「えっ!?」


予想外に話しかけられ,動揺するメリー.そんな彼女を尻目に褐色の男は話を続ける.


「僕,ミラ先輩に『今の君ならできる』『今の君ならできる』とは一応言ってもらってたんすよ!でも,魔法を斬らなきゃならない状況ってそうそうないじゃないっすか!?確かめる機会がなくて,今の今まで魔法が斬れるのかどうか半信半疑だったんす!でも,今回斬ることができて・・・いやぁ,マジ感激っす!今まで鍛錬続けてよかったぁ―――・・・!!」


メ:「は,はぁ・・・」


メ:(何だろう,なんか子供っぽい人だなぁこの人・・・.)


「・・・ふぅ.・・・いやぁ,すみませんね.急に喜んじゃって.」


表情豊かにはしゃいでいたその男は,ふいに深く息を吹いて,落ち着きを取り戻す.


「この喜びをすぐにでも誰かと共有したくって,ついわき目もふらず喜んじゃいました.・・・さて,そんじゃひとしきり喜んだことだし,一応確認なんすけどぉ─


ぞわっ・・・


その瞬間,男の目つきが変わった.


─あなた,人を襲ったことありますか?」


メ:「・・・っ!!」


空気が一変.

メリーは一瞬自身が身震いしたような感覚に襲われる.

その感覚は,紅熊と対峙したときにも,ポチと対峙した時も,ロウジーさんに敵意を向けられた時にも感じなかった感覚.明確な恐れの感覚だ.


つけこむすきの無い冷たい目つき.低く,それでいて感情の起伏も感じさせない無機質な声による問いかけ.身体全体をひりつかせる威圧感.


目の前の男が,本当にさっきまで子供のようにはしゃいでいた人物と同一人物なのかと疑いたくなるほどの豹変ぶりだ.


さっきまですっかり毒気が抜かれ,肩の力を抜いていたメリーの気が一瞬にして引き締められる.


メ:「・・・いえ,ないわ.」


メリーは背中に冷汗が滲み出るのを感じながら,目の前の男に向かって答える.そのとき,メリーはようやくあるモノの存在に気づいた.


メ:(あれ,あのペンダント.魔力を感じる.もしかして・・・魔道具?)


「・・・そすか.なるほど.それなら─」


ツカツカツカ


男が近寄ってくる.左手を腰の剣柄に当て,ゆっくりと近づいてくる.


男との距離が縮まるにつれて,メリーの緊張感が極限まで高まる.


メ:(来る.こんどこそ仕掛けてくる.やはり敵だった!魔力はまだ回復していってる.何かを仕掛けてくる前にこっちから攻撃─


─バッ


メ:─を?)


「この度は,ほんっとに申し訳ございませんでしたぁあ―――!!」


男は,いきなりメリーの目の前で上半身を90度に曲げ,全力で謝罪するのだった.

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