第18話 ロウジーさん前編
タッ・・・タッ・・・タッ・・・
メ:「・・・こっちであってるのかなぁ.」
レンガの一軒家が立ち並ぶ路地裏.
どことなく暗い雰囲気のあるこの場所で,メリーは一人,あやふやな自分の記憶を頼りに大通りへと向かっていた.
メ:(空から見た時は確かこっちが大通りだったはずなんだけど・・・.どうしよう.全然人の気配がない.本当にこっちでいいのかなぁ・・・.
メ:「はぁ,・・・とにかく進むしかないか.」
メリーは深いため息をつきながら,前をむき,歩きつづける.
メ:「・・・.」
大通りの二回りは狭い道.
左右にはレンガ造りの家が立ち並んでいる.
ほとんどの家は,灰色のレンガで作られた塀に囲まれていて,なんだか,少し窮屈な感じだ.
大通りで見たのと同じ素材で出来ているはずなのに,色も少し暗く感じる.
大賑わいだった屋台通りとは対照的な,ひどく寂しく,静かな場所.そんな場所をメリーは歩き続けている.
メ:(・・・なんていうか.別世界に来たみたい.音がないだけで,こんなに雰囲気が違うんだなぁ・・・.)
そんな風に,メリーはある種の感心を抱きながら,無意識に足を緩めていた.そんなとき─
──ズズッ
メ:「!!誰っ!?」
突然,背後から寒気のような変な気配を感じたメリー.反射的に後ろを振り向く
「おおー,すまんすまん.驚かせてしまったか.申し訳ない.」
メリーの目に映ったのは,三メートルほど後ろで立っている髭の生えた白髪のおじいさん.よれよれの服を着た人畜無害そうな人だった.
メ:(・・・あれ?ただのおじいさんだ.さっき一瞬,変な気配を感じた気がするんだけど・・・.)
そんなメリーの懐疑心を尻目に,おじいさんは話を続ける.
「ワシの名はロウジー.そこの家の者での,ちょうど家を出たところでお前さんが通り過ぎるのを見かけてのぉ,こんなところに子供がおるのは珍しいなぁと思って声を掛けようと近寄ったんじゃ.」
メ:「・・・そうだったんだ.ああ,ええっと,私はメリーっていいます.わたしの方こそ,驚きすぎちゃってごめんなさい.」
おじいさんの申し訳なさそうな表情につられ,謝るメリー.その反応におじいさんは笑顔になる.
ロ:「いやいや,いいんじゃよメリーちゃん.・・・ところでメリーちゃんはこんなところで何をしとるんじゃ?」
メ:「ああ,ええっと今は・・・」
メ:(あれっ?わたし,今何をしてたんだっけ.・・・ええと,そうだ!わたし,今迷子になってるんだった!)
メ:「あのぅ,実はわたし,いま迷子になってて.大通りにはどういけばいいかわかりますか?」
ロ:「おお,なんじゃ.やはり迷子だったのか.それは災難じゃのう.・・・ええと,大通りの位置はじゃなぁ・・・.」
そこまでいって,ロウジーの口は動かなくなる.
メ:「・・・?どうしたんですか?急に黙って.」
ロ:「いや,どこじゃったっけって思っての.」
メ:「えっ!?おじいさんもわからないの!?」
素っとん狂な声を出すメリー.
ロ:「いや,わかるんじゃよ.わかるんじゃが・・・なんていうのかのぉ.この年になると口でよぉ説明せんから,行くことはできるんじゃけど・・・.うーん,・・・そうじゃ.いっそのこと,ワシが大通りまで案内するわ.」
メ:「えっ,案内を?いいんですか?」
ロ:「ああ.ちょうど暇しとったとこじゃしな.・・・ん?どうした?嫌か,ワシに案内されるのは?」
メ:「えっ!?いや,そういうわけじゃないんですけど・・・.」
メ:(どうしよう?彼に案内してもらった方がいいかなぁ.正直さっきの変な感じが気になるんだよなぁ.・・・うーん.でも,悪い人には見えないし,おばさん達に道案内してもらった経験もあるから大丈夫そうではある.・・・いや,そうね.いい人ならいい人で大通りに着けるわけだし,もしもの時は
メ:「いや,ごめんなさいロウジーさん.やっぱり大通りまでの道案内,お願いします.」
ロ:「そうかそうか.よし!それじゃあ案内してやるぞ.・・・して,行きたい大通りっていうのは,東門の方面でよかったかの?」
メ:「ええと,宿屋が西門の近くにあると思うから,西門方面の大通りに行きたいです.」
ロ:「おお,そうか.宿屋が西門方面にの・・・.よし,わかった.ついてきなさい.」
メ:「はい!ありがとうございます!ロウジーさん!」
こうして,メリーはロウジーの案内の下,大通りへと再び歩き始めるのだった.
─────────────
─あれから10分弱.
メリーはロウジーの背中に従って,メリーの首くらいの高さがある塀に囲まれたさらに狭い路地裏へと来ていた.
メ:「・・・.」
メ:(なんだろう.どんどん狭くなっていってる気がする.本当に大通りにつくのかなぁ・・・.)
メリーは現在,若干の不安に襲われていた.
ロウジーとの間に二、三歩ほどの距離を開けながら,後ろについて行っている.
ロ:「・・・ところで」
ふいにロウジーがメリーの方に振り返り,口を開いた.
ロ:「メリーちゃんはどうして浴衣を着ておるんじゃ?」
メ:「はい?」
ロ:「ああいや,別に深い意味はないんじゃ.ただ,この町では浴衣は普段着ではないからの.ちょっと不思議に思ったんじゃ.」
メ:(ああ,そういえばお店でもそう説明されたっけ.)
ロウジーの疑問に納得したメリー,答え始める.
メ:「ええと,わたしの普段着はもともと別のがあるんですけど,今は服屋さんに預けてて.それで,代わりにその服屋さんで貸してもらってるんです.」
ロ:「ほー,なるほどのぉ.服屋さんで借りたのか.・・・なかなか似合っとるのぉ.」
メ:「ありがとうございます.」
ロ:「ええのう,浴衣・・・.いっそのこと普段着にしたらどうじゃ?」
メ:「ハハハッ,そうですね.ちょっと考えてみます.」
ロ:「・・・いやー,しかし,旅先でその地域の伝統衣装を着るとは,旅を楽しんでおるのぉ.微笑ましい限りじゃわい.」
メ:「ありがとうございます.・・・ロウジーさんは旅をしたことはあるんですか?」
ロ:「わしか?・・・うーん,旅という旅をしたことは無いのぉ.まぁ,王都に行ったことはあるんじゃが─」
メ:「えっ!王都っ!?王都ってどういうところでした?やっぱりすごかったですか!?」
ロ:「お,おお,そりゃあの.」
予想外の食いつきに若干押されるロウジー.「コホン」と咳ばらいをして,気を取り直す.
ロ:「・・・そりゃあもちろん,すごいところじゃったよ.なんたってこの国─ナンダルシアの首都じゃからのぉ.町は活気にあふれ,いつも大賑わい.中央にあるお城は壮大で,城の庭園には生き生きとした草花と美しい彫刻の数々.お城の中は王室の肖像画やシャンデリアで彩られ,床はつやっつやの大理石っ!その美しさたるや,本当にこの世の者とは思えんほどじゃっ!食べ物は美味しいし,娯楽はたくさんあるし,兵隊さんはカッコいいし,まさに首都と言うにふさわしい場所なんじゃよっ!」
徐々に熱を帯び,前のめりでまくしたてるロウジー.想定外のその反応と勢いに,今度はメリーが若干押された.
メ:「・・・へぇー,そんなにすごい場所なんですね.王都って.」
ロ:「まぁの.おまえも行ってみたらそのすごさがわかるぞ?」
メ:「へぇー.・・・そっか,王都か.」
メ:(いつかは絶対行ってみたいなぁ・・・.ご年配の方がこんなに熱く語れるくらいいい場所なんだし.王都なら美味しいものもいっぱいあるだろうしね.・・・王都か,・・・あれ?)
メ:「お城って一般の人も入れるの?」
ロ:「ん?なんじゃって?」
メ:「いや,ロウジーさんお城の中の話してたでしょ?一般の人でもお城の中に入れるんだなぁってちょっと気になっちゃって.」
ロ:「・・・.」
ロウジーは歩く方向を向き,しばし沈黙する.
ロ:「・・・まぁ,そうじゃの.・・・今はわからんが,昔はお金を払ってお城の中を見学することが出来たんじゃよ.」
メ:「へぇー,そうなんだ.」
ロ:「・・・.」
メ:「・・・.」
二人の間に,しばし沈黙の時間が流れる.
ロ:「・・・ところで,話は変わるがメリーちゃんは一人旅なのかい?」
メ:「ん?いいえ,一人旅じゃないわ.二人旅よ.最初は一人旅だったんだけど.」
ロ:「ほー,そうかそうか.仲間がおるのか.・・・連れも女の子なのかの?」
メ:「いえ,男の子よ.」
ロ:「男の子っ!?・・・ほぇー,男の子なのか.意外じゃのう.・・・どこで知り合ったんじゃ?」
メ:「ええっとー,うーん.ちょっと一緒にトラブルに巻き込まれたことがあって,そこで仲良くなって,一緒に旅してるって感じかな.」
ロ:「ふーん,そうか.一緒にトラブルにか.青春じゃのう.・・・もしかして,その男の子とは恋仲だったりするのか?」
メ:「えっ!?いや,全然そんな仲ではないよ.しいていうなら,友達かな.」
ロ:「男女二人旅なのにぃ?恋仲じゃないなんてことがあるのか?」
メ:「もう,わたしとトモシビはそういうのじゃないって.」
ロ:「ふーん,そうなのか.・・・つまらんのぉ.魔女は恋をせんのか?」
メ:「いや,別にそんなことはないと思うけど.わたしとトモシビはそういうのじゃないってだけで・・・.」
メ:(あれ?)
このとき,メリーは,背中を向けて発言するロウジーのある言葉が不自然であることに気づいた.
メ:「なんでわたしのこと魔女って─」
─そのときだった.
ブワッ!!
いきなり,さきほど感じた変な感じとともに,ロウジーの後頭部から突然水色の鋭いトゲが,メリーの首を貫かんとものすごい勢いでこちらに伸びてきたのだ.
メ:「!?」
突然の出来事に一瞬たじろぐメリー.
ツッ
反射的に上半身を捻り,鋭利なトゲを右頬にかすませながらもなんとか躱すことに成功する.しかし─
─ブワワッ!!
間髪入れず,今度はロウジーの両太ももから,カタツムリのツノのようにメリーの首めがけてトゲが伸びてきた.
メ:「くっ.」
─土壁!
メリーはすぐさま,魔法を発動.土壁を踏み台に後方へとジャンプし,この二本のトゲも身体に当たるすれすれで躱した.そして,
─
そのままメリーは,空中で身体を翻しながら二発の石の塊を瞬時に形成,発射する.
ボッ!ボッ!
水の中に石が放り込まれたような音を背に,空中で軽やかに一回転し,少し離れた場所に着地したメリー.
顔を上げ,目に映ったロウジーの姿に,メリーは警戒心を募らせた.
ロウジーの身体は,異様なものとなっていた.後頭部と両太ももから,長く,先の鋭いロードコーンのようなとげが生えており,身体にはぽっかりと二つのへこみが出来ている.輪郭としてのロウジーの身体は保たれているものの,異形の姿に変わりなかった.
メ:(あの姿・・・明らかに人間じゃない.魔物なの?人の言葉を話す魔物なんて聞いたことないんだけど.それにこの寒気に似た変な感覚.・・・そうだ,思い出した!あの男の人,屋台で目が合ったあの人と似てるんだ.)
ロ:「・・・まさか,今のも躱されるとはな.もう少し近づかせてから攻撃を仕掛けるべきだった.」
振り返りながら,心情を吐露するロウジー.伸びていたトゲはゆっくりと引っ込んでいき,身体のへこみもゆっくりとふさがっていく.そして,
コトッコトッ
腰の辺りから,二つの硬い物─メリーの放った石弾がゆっくりと出て来て,そのまま重力に従い,地面へと落ちた.地面に転がる石弾はそのままむなしく霧散していく.
メ:「・・・あなたはいったい何者なの?もしかして,あなたが門番さんの言ってたこの町の失踪事件の犯人?」
ロ:「・・・なぜ,おまえからそんな発言が出て来るのか理解に苦しむ.・・・まぁいい.いずれにせよ・・・.」
ロ:「貴様は俺が拘束する.」
ブワッ
言い切ると同時に,今度はロウジーの腹の辺りから,先ほどよりも太いトゲが一直線にメリーに向かって伸びてくる.
メ:(またきたっ!!)
─土壁!
バガアアンッ!!
メリーは防御のために土壁を発動するも,鋭いとげの勢いを抑えることは出来ず,いともたやすく粉砕された.
メ:「くっ.」
メ:(やっぱり防御は出来ないみたいね.・・・それなら!)
ブウウウッ!!
メリーは側転して,トゲの通り過ぎる風の音を右の方で感じながら回避し,再び攻撃を仕掛ける.
とそのとき,
─ズズ
メ:「!?」
メ:(まさか・・・土壁!)
変な気配を足元から感じたメリー.瞬時に攻撃から回避に意識を切り替え,足元に土壁を発動.その瞬間─
─バリィッ!!
舗装された地面を突き破り,二本のとげがトラばさみのように足元からメリーをくし刺しにせんと襲い掛かった.
ガガッ!!
メリーは間一髪のところで,土壁を踏み台に真上へジャンプし,回避することに成功.メリーの代わりに踏み台となった土壁が無残にも左右からくし刺しにされる結果となった.
ロ:「むっ,この攻撃まで避けるのか・・・.」
メ:(危なかった.地面を突き破って攻撃を仕掛けて来るなんて・・・!!ほんとに拘束する気あるのあいつ!)
メ:「石弾!!」
メリーは心の中で悪態を突きつつ,空中で再び魔法を発動.無数の石弾をロウジー目掛けて発射する.しかし─
ボボボボッ・・・
またもや,水の中に石が放り込まれるような音.石弾はロウジーに全弾命中し,ロウジーの身体に無数のへこみを作ったモノの全く効いている素振りはない.
メ:(やっぱり効いてない.ゼリーみたいな身体で衝撃を吸収してるんだ・・・!!)
ロ:「・・・その攻撃は,俺には効かん.」
ブワッ!
腹のとげをひっこめていたロウジー.そのトゲの付け根から,またもや新しいとげを空中のメリー目掛けて伸ばしてくる.
メ:「くっ!」
メ:(まずい.空中じゃ,身体をひねっても躱せない.・・・それなら!)
ダダッ!
風弾を自らの両肩に当て,急速に落下することでなんとかトゲを回避するメリー.しかし,風弾の衝撃により地面にものすごい速さで着地することになる.
ダァンッ!!
メ:(・・・あっぶなー.って,こんなことしてる場合じゃなかった!)
両手をつき,危うく地面にキスしそうになるも,何とか落下によるダメージを負うことは防いだメリー.すぐに顔を上げ,追撃に備え急いで立ち上がる.
ロ:「・・・まさか.今のも避けられるとはな.」
しかしロウジーは,そんなメリーの姿をじっと見たままま,伸ばしたとげを身体へと戻していくのみだった.
メ:「はぁ・・・はぁ・・・.」
メ:(あれ?追撃してこなかった.体勢を崩してて,攻撃する絶好のチャンスだったはずなのに.トゲを身体に戻す方を優先してる.・・・もしかして,攻撃ができなかったってこと?・・・いや,そうだ.そうじゃないとこの状況が説明できない!やっぱりあのトゲは,身体を変形させたもので,そのトゲの攻撃に使える身体の体積の量には限りがあるんだ!それで,さっきは限界まで使用していたから,追撃できずにトゲを身体に戻さざるを得なかったんだ・・・!!)
ロ:「・・・ときに.」
メ:「ん?」
ロ:「お前はどうして,あの時ネコを助けたのだ?」
急に戦闘とまったく関係のないことを聞かれ,メリーは少し混乱する.
メ:「・・・ねこ?」
メ:(猫を助けたって・・・用水路で溺れてた猫を助けた時のことよね.・・・えっ,あの時からわたしのこと付けてたの?)
ロ:「どうした.質問に答えろ.」
メ:「・・・理由なんてないわよ.純粋に助けたいと思ったから助けただけよ.」
ロ:「・・・なるほどな.」
言い終わると同時に,トゲが完全にロウジーの身体の中に戻る.そして,
ロ:「・・・偽善者ぶりよって,人さらいの魔女めっ!!」
突然激昂し,いきなりこちらに左手を向けてきた.
左手は,メリーに向いた瞬間に先がトゲの先端のように変形し,次の瞬間にはロケットのように,こちらを貫かんと伸びてくる.
ブワッ!!
メ:「うわっ!」
怒涛の速度で伸びてくるトゲを右半身をひねって避けるメリー.しかし,攻撃はそれだけでは終わらない.
ブワッ
メ:(なっ!?)
伸びた左手から側面から,枝分かれするように,避けたメリーを貫かんとトゲが伸びてきたのだ.
メ:「くっ,ふっ,土壁!」
その枝分かれは三度続く.
メリーは二度目までは身体の捻りと軽やかな足捌きで回避.三度目は流石に魔法を使わないと避けれないと判断し,土壁を発動,踏み台にして後方へと距離をとる.
メ:「わたし,人をさらったことなんてないんだけど.」
ロ:「ほざくなっ!!」
憤慨するロウジー.左腕を枝分かれと共に引き戻し,完全に元の一本に戻した瞬間に,今度は左腕の先端付近をうねり曲がらせ,
ズガッ!
レンガの舗装をものともせず,地面へと力強く潜らせていく.
ガガガガガ
メ:(くるっ!)
バガガッ!
そして,一拍置いて地面を突き破り,左右後方の三方向から,トゲが一直線にメリーに向かって伸びてきた.
─土壁!
地面から現れる前に,左右後方から寒気に似た気配を感じていたメリーは,冷静に魔法を踏み台にし,前方へと一回転しながらそれらのトゲを避けることに成功するのだった.
ロ:「ちっ.」
舌打ちをするロウジー.三本のトゲがするすると地面に引っ込んでいく.
メ:「・・・ふぅ.」
着地したメリーは,背中越しにトゲが引っ込んでいくのを感じながら,再び分析を始めた.
メ:(なんとか避けれた.トゲが向かってくるとき寒気に似た感覚を感じるから,避けること自体は難しくなくなってきたな.問題はどうやって攻撃するかだけど.・・・あれ,なんだろう?なんだか,彼を倒すことを考えるのを躊躇してる自分がいる.いまいち真剣に攻撃しようって気が起きない.・・・あっ,そっか.彼を倒しても魔女の名誉挽回に繋がるわけじゃなさそうだから,戦いたくない自分がいるんだ.・・・どうしよう,逃げる?・・・いや,町の中で彼から逃げるのは難しそう.それに,また不意打ちされでもしたらやっかいだし.・・・そうだ.説得できれば!)
メ:「あの,わたしからも質問していい?」
意を決したメリー.左腕を身体へ戻し中のロウジーに向かい話しかける.
ロ:「・・・なんだ?」
メ:「あなたはわたしが人さらいの魔女だと思ってるから襲ってきてるんだよね?」
ロ:「・・・それ以外に何がある.」
メ:「わたし,ほんとに人さらいの魔女ではないの.」
ロ:「ふん,そんな言葉信じれると思うか.」
メ:「・・・でもロウジーさんも見たんでしょ?わたしが猫を助けたところ.大勢の人達が見てる中で,人さらいの魔女が猫を助けると思う?絶対に違うと思わない?」
ロ:「・・・.」
ロウジーは沈黙する.
メ:「ほら,やっぱりロウジーさんもおかしいと思ってるんでしょ?さっきわたしに確認してきたくらいだし.だからさあ,ここは一旦戦うのやめない?まずはしっかりと人さらいの犯人が誰なのかつきとめようよ.ロウジーさんがいってる人さらいってこの町で起きてる行方不明事件の犯人のことでしょ?わたしも協力するからさ.一緒に─」
ロ:「だまれっ!!」
メリーの提案をロウジーはぴしゃりとはねのけた.
ロ:「魔女の戯言など聞きたくもない!お前はそうやって俺をだますつもりなのだろうが,そうはいかん.俺は魔女が意地汚いゴミどもであることを知っている.貴様は,絶対に拘束する!」
眉を吊り上げ,断言するロウジー.その反応に,メリーは説得が無理であることを悟る.
メ:「・・・.」
メ:(これは・・・無理っぽいな.考えが凝り固まっちゃってる.戦うしかないのか・・・.仕方ない.)
パンパンッ
決心のついたメリー.両頬を叩き,覚悟を決める.
メ:「・・・あなたの考えは分かった.ここからは,あなたを本気で倒しに行くから.」
ロ:「・・・ふん.俺を倒すだと?どうするつもりだ.お前の攻撃は俺には効かんぞ?」
小馬鹿にするような態度のロウジー.しかし,メリーは動揺しない.
メ:「・・・もちろん今までのわたしの攻撃は効いてないみたいだけど,だからってわたしの攻撃があなたに効かないって決まったわけじゃない.私はまだ全ての属性の魔法をあなたに使ってはいない.」
ロ:「・・・ふん,減らず口を・・・.それなら─」
ロウジは両腕を掲げる.そして,
ロ:「─試してみるといい!!」
ブワァアッ!
メ:(!!細い分,さっきよりも速い.)
ツッ!
メ:「
メリーは,トゲに頬をかすられながらもなんとか左半身をそらして躱し,矢継ぎ早に魔法を放つ.
ロ:「ぬっ・・・!!」
ブワァッ
ロウジーは,動揺したような素振りを見せつつ,魔法が身体に当たる前に瞬時に左半身に穴を作る.
パシャンッ!!
メ:「!!」
風弾がロウジーの顔面に命中.頭がはじけ飛んだ.しかし,火弾は身体の穴を通り過ぎ,空を切る.
メ:(風弾が効いてる!?いや,まだ早計,一応他の魔法も試さないと!)
メ:「
メリーが次の魔法を発動しようとしたそのとき,今度は
ブワァア!
メ:(くっ.・・・でも,さっきよりも精度が高くない.顔がないから,見えてないんだ・・・!!)
ブウウウウウウッ
メ:「
メリーは,右半身を少しそらし,その攻撃を難なく避けると,再び魔法を放った.
パシャッ パシャンッ!
ロ:「ちっ.」
二つの魔法は見事に命中
頭の部分を口まで再生できていたロウジーは舌打ちをする.
水弾が当たった箇所には何の変化もないが,やはり風弾の当たった箇所,右胸付近が弾けている.しかし,
メ:(!?)
頭と違い,右胸付近の穴はすぐに塞がっていく.それに,ロウジーもイラついてはいるようだが,焦っている様子はない.
メ:(・・・もしかして.)
メ:「風弾!火弾!」
確信にも似た直観.
ロウジーが右腕,左腕を身体に戻していっていることから,追撃の可能性は少ないと判断したメリーは,すぐさま次の魔法を放った.
ロ:「・・・.」
メリーが魔法を放った時には,左目はまだだが,右目の部分まで再生できていたロウジー.魔法が迫ってきていることに気づき,今度は迷いなく,瞬時に身体の右側,次いで左側に穴をあけ,左側から来る風弾,右からくる火弾を躱すことに成功するのだった.
メ:(・・・なるほどね.)
その瞬間,メリーは確信した.
ロウジーの頭は,完全に元通りになり,両腕も元に戻っている.
メ:「分かったわ.あなたの弱点.」
ロ:「何?」
メ:「あなたの弱点,火でしょ?」
ロウジーの目を真っすぐ見据え,メリーは言い放った.
───────────────────
ロ:「・・・なぜそう思う?」
ロウジーは,静かに聞き返す,まるで心の動揺を悟られまいとするように,
メ:「だってあなた,火弾を優先的に避けてるじゃない.最後の攻撃,私はわざわざ風弾から先に放ったのに,あなたは火弾の当たる方から身体を変形させてた.それって,火弾に当たるのを怖れてたってことでしょ?風弾で頭が弾けた直後だっていうのに.」
メリーのその発言を受け,ロウジーは少し時間を空けた後,ニヤリと笑う.
ロ:「・・・なるほどな.しかし,それだけで俺に火が弱点と判断するのは─
メ:─
そんなロウジーに対し,メリーは間髪入れずに二発の火の弾丸を形成し,解き放った.
ロ:「なっ!?」
ブワッ
ロウジーは突然の攻撃に仰天しつつ,瞬時に自らの身体に大きな穴を作る.
ジュッ・・・
火に少しかすりつつも,ロウジーは何とか避けることに成功した.
ロ:「このっ・・・危ないじゃないかっ!!会話中に攻撃するとは卑怯だぞ!」
激昂するロウジー.しかし,メリーはいたって冷静である.
メ:「ほらやっぱり,火が弱点なんじゃん.ジュッって音なってたし.」
ロ:「くっ・・・.」
メ:「さてと,それじゃあこれからは遠慮なく,火の魔法で攻撃させてもらうわ.ロウジーさん,一応伝えとくけど,戦いを止めるなら今よ,どうする?」
二度目のメリーからの提案.しかし,今度はメリーに弱点を見破られたうえでの提案である.そんな提案にロウジーは
ロ:「・・・『どうする?』だと?」
乗る気配がなかった.
メ:「・・・ロウジーさん,私はもうあなたの
ロ:弱点を見破ったくらいで,何だというのだ?たったそれだけの理由で,俺が魔女風情の提案に乗ると本気で思っているのか.」
メ:「・・・分かった.それなら─
ロ:「フッ,それと,勘違いしているようだから言っておいてやる.」
ロウジーは,さっきまでと打って変わって,余裕のある態度で,メリーを見据える.
ロ:「お前は俺の弱点を知り,勝機を見出だしているんだろうが,お前が勝つことはあり得ない.」
その言葉に,ロウジーのその自信満々の態度と言動に,ハッタリで言っているのではないことを感じ取ったメリー.
メ:「・・・どうしてそう思うの?」
ロ:「なぜなら,お前が気づけていないからだ.」
メ:「何にっ?」
メリーのその言葉にロウジーはにやりと笑った.
ロ:「─今に分かる.」
─バガァッ!
そのときだった.
突然地面を突き破り,左右からトゲが一直線にメリーの脇腹目掛けて伸びてきたのだ.
メ:(なっ!?土壁!)
今まで,変な気配を頼りに攻撃を予測していたメリー.急に現れたトゲに動揺するも,メリーは咄嗟に魔法を発動,踏み台にして後方へ回避することに成功する.しかし─
─バガ!
(な!そこからも!?)
避けた先で,矢継ぎ早にまたもや左右の地面からトゲが!その攻撃はその後も続いていく.
バガバガバガバガバガバガッ!!
土壁土壁土壁土壁!
死に物狂いで後方に避け続け,立て続けに左右から伸びてくるトゲのくし刺しになることを何とか防ぐメリー.
ふいに,さっきまで出て来ていたタイミングで左右からトゲが出なくなり,ようやく終わったのかと一瞬安堵する.しかし─
─バガッ
またもや地面の割れる音.今回は左右からの音ではない.ましてや前方でも.これは─
(!!?後ろから!)
ズウンッ!!
土壁で後ろに避け続けていたメリー.急に後ろから真っすぐと,背中に向かって伸びてくるトゲに身体が反応できない.
(くっ!・・・風弾!!)
ベキッ
メ:「ぐっ….」
なんとか風弾を発動し,右わき腹に着弾させたメリー.骨がきしむイヤーな音を感じながらも,無理やり体の進む方向を変え,トゲのくし刺しになることを回避する.しかし・・・
ダァン!
メ:「カハッ…!!」
いきおいそのままに側面の硬い塀にぶつかる結果となり,鈍痛に苦しみながら地面へと落下することになってしまったのだった・・・.
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