第17話 魔女仮面,参上!
メ:(それにしてもほんとにきれいな町だなぁ.)
赤茶色の建物や白い建物だけじゃない,清涼感のある水色の建物も見かけるし,向こうには城壁と同じ灰色の塔も見える.カラフルで見ていて楽しい町並みだ.町ゆく人も,村とは違って一人一人違う色,形の服を着ている.すべてがメリーにとって刺激的.ただ歩いてるだけで,メリーは感心,感動しっぱなしであった.
メ:(このままだと,今日一日ずっと散歩して過ごしちゃいそう・・・.まぁ,それも一つの旅の楽しみ方か.・・・よし!今日はとことん町を見て回るぞー!)
メリーが心の中で決意を決めたそのとき,
メ:(・・・あれっ,なんだろう?あの人込み・・・.)
ふいに目の前に現れた,道のかたわらの人込みが目に留まった.
「レディースエーンドジェントルメーン!!」
突然,人込みの中からはきはきとした男の声が聞こえ始める.
興味を持ったメリー.人込みへと近づいていく.
「わたしの名は『ベニス』.旅する孤高のマジシャンです.今からみなさんを不思議な世界にいざないましょう!」
そこでメリーが見たのは,ベネチアンマスクで顔を隠したタキシードの男.手には何やらシルクハットを持っており,男の手前には小さめの段ボール箱が口を開けている.この人込みはどうやらその男を囲うようにしてできているようだ.
メ:(マジシャン?何をするんだろう.)
聞きなれない単語,人々が奇抜な格好をした男に注目している状況にメリーは目を離せない.
ベ:「さて,まずは一つ目のマジックです!この帽子をよーく見てください.中に何も入っていませんよね.ただのイカしたシルクハットです.」
喋りながら,帽子の中身を皆に見せる.・・・真っ暗だ.確かに何も入っていない.
ベ:「私は今からこの帽子におまじないを掛けます.いきますよぉー.」
ベニスは帽子の穴に手をかざし,滑らかに上下させ始める.そして,
ベ:「・・・ワン,トゥー,スリー!!」
バサバサバサッ・・・!!
メ:「!!?」
驚きの光景だった.
ベニスがセリフの言い終わった瞬間,シルクハットの中からいきなり無数のハトが飛び出してきたのだ.
「「おおーーーー!」」
見物人はみな一様に歓声を上げる.それは,メリーも例外ではなかった.
メ:(すごっ.魔力を感じなかった.確実に魔法じゃない.なんで?どうしてハトが出てきたの?)
頭の中が,なぜと面白いでいっぱいになったメリー.はしゃぎながら,前のめりでマジックを見つめる.
ベ:「ハハハ,どうです.すごいでしょう.これがマジックです!少しでもいいなと思っていただけたなら,手前に置いてある段ボール箱の中にお金を入れて頂ければなぁと思います.」
ちゃりん,ちゃりんちゃりん.
ベ:「ああ,ありがとうございます!ありがとうございます!これで今日もなんとか生きれそうです!」
ベ:「あっ,次のマジックに行く前に,一応確認しておきますけど,さっきわたくしが使ったのはまじないですからね!魔法ではないですからね!魔女みたいにみなさんに危害を加えたりはしませんから安心してくださいよぉー!」
「「ハハハハハハハハハハハハハハッ」」
─もやっ・・・
笑顔から真顔になるメリー.
せっかくのいい気分が台無しである.
少しモヤモヤするが,今は仕方ない.いずれ魔女はいい奴だってわからせてやる.とメリーは心に誓う.
ベ:「それでは次のマジックに参りましょう!次のマジックは──」
「ミーニャッ!!」
ベニスが次のマジックを披露しようとした瞬間,急に少年の大きな声がその場に響いた.
─────
メリーとその場にいたモノ達は聞こえてきた声の方を反射的に振り向く.
バシャバシャッ
見ると,そこには広めの水路があり,水路の向こう側で男の子が,泣きじゃくりながら手を必死に伸ばしていた.
男の手を伸ばす先,水路の中央辺りでは水しぶきが上がっており,一匹の白猫があっぷあっぷとおぼれている.少年の慌てかたから考えると,おそらくあの猫は少年の飼い猫なのだろう.
少年の手は猫に全く届いていない.あのままでは,おぼれ死んでしまうのも時間の問題だ.
周りに通行人がいるが,みな見ているだけで身体を動かすものはいない.
メ:(たいへんっ!)
状況を理解した瞬間,メリーは反射的に助けに行こうと身体を動かした.
しかし,それと同時に,理性がメリーに危険信号を出す.
─今助けに行けば,みんなに魔女であることがばれてしまう.と.
周りが山に囲まれ,浅い小川で川遊びするくらいしかしたことがないメリーは当然泳げない.というか,泳いだことがない
猫を助けるには,
こんな場所で,大勢の人が見ている中で飛翔を使えば確実に魔女だってばれる.だからといって,猫を助けないなんて選択,メリーにはできない.どうする,どうすれば・・・.
そのとき,メリーは目の端に再びマジシャンの姿を捉え,閃いた.
(マスクっ!!)
さいわい,周りの人達は男の子に気を取られ,メリーの姿を見ている者はいない.
その瞬間,メリーは走りながら,顔に右手をかざし,魔力を集中させた.
──────────
「ミーニャ!ミーニャ!」
「ニャッ・・・ぶにゃっ・・・.」
(くそっ,僕があのとき,あんなことしなければ・・・.)
猫の飼い主の少年ーキットは目に涙を浮かべながらなんとかして水路に溺れてしまったミーニャを救い出そうとしていた.
そもそも,ミーニャが水路に溺れてしまった原因は,水路の反対側にいたミーニャを呼びかけてしまったことだ.
キットの声に反応したミーニャは水路を飛び渡ろうとし,失敗して落ちてしまったのだ.
まぬけだ.そんな間抜けなところがミーニャの可愛い所なのだが,今はそんなこと気にしている場合ではなかった.
キ:「ミーニャ!」
キットは必死に手を飛ばすが,ミーニャには届かない.
水路が深いことを知っているキットは怖くて泳いで助けに行くこともできない.周りに大人たちがいるが,みんな心配そうに見つめるだけで,誰一人ミーニャを助けようとしてくれる人はいない.
いったいどうすれば・・・
そんなときだった.水路の反対側から一人の人物が,勇敢にも水路に飛び込んだのだ.
キ:(えっ!?)
いや,違う.よく見たら違った.飛び込んだのではない.飛んでいる.その人物は宙に浮かんでいるのだ.
顔をベネチアンマスクのような土の仮面で隠し,ピンク色の浴衣を身にまとっているその人物は,髪と浴衣をはためかせ,水路の上すれすれを滑空する.そうして,「バシャッ」とミーニャの胴体を抱き上げると,そのまま水路を渡り切り,キットの傍へと軽やかに降り立った.一切無駄のない流れるような動きだ.
キ:「・・・.」
その非現実的な光景に驚きを隠せず,ミーニャを助けようと膝をついている状態のまま,傍らのメリーを見上げている.
メ:「はい.この子,あなたの猫でしょ?」
そんな彼にメリーは優しくミーニャを差し出す.
キ:「・・・はっ!ミーニャ!!」
「にゃぁ・・・.」
キットは我に返り,すぐさまミーニャを抱きかかえる.
毛皮はずぶぬれで,身体は小刻みに震えている.そうとう怖い思いをしたのだろう.
キ:「よかった・・・.本当によかった・・・.」
泣きながら安堵するキット.
その様子を見て,心が温かくなるメリー.無意識に笑みがこぼれる.しかし──
「おい.今のって・・・.」
ふいに一部始終を見物していた一人が声を出し始めた.
「今さっき,あの人飛んでなかった?」
「ああ,飛んでた.あれは明らかに飛んでた.」「あきらかにジャンプとかじゃなかったよね.」
「じゃあ,やっぱり・・・.」
徐々に騒がしくなっていく.その声は,猫を助けたことを称賛する声ではない.メリーに対する疑問,違和感に関する声だ.
メ:(これ以上,ここにいたらまずいわね.)
メリーはすぐに危険を察知し,飛翔で身体を浮かせる.
キ:「・・・あっ,まって!」
メリーがこの場から離れようとしていることに気が付いたキット.とっさに顔を上げ,呼び止めようとする.しかし,
ブワッ!
すでに逃げることに考えをシフトしていたメリーは,すぐさま上空へと急上昇.周りを見渡せる位置まで浮き上がった.
メ:(身を隠せそうな場所は・・・.)
「おい!あいつやっぱり魔女だぞ!」「まじで魔女じゃねぇか!」「おい!衛兵を呼べ!さっさと呼びに行け!」「それよりもまずは弓矢だ!弓で射るぞ!」
メ:(悠長にしてる暇はないわね.とりあえず建物に隠れながら飛んで,ばれずに降りれそうなところで降りよう・・・.)
これからの方針が決まったメリー,その場から離れていく.
「あっ,あいつ飛んでいきやがったぞ!」「むこうだ!向こうの方へ行きやがった.」「妹の仇・・・絶対に逃がさん!」
バタバタバタバタバタッ・・・
メリーが建物の向こう側へと飛んで行ったことを受け,周囲の人々は慌ただしく動き出す.
キ:「せめてお名前だけで・・・も・・・.」
そんな状況の中,キットの声はもう空の向こうへいなくなったメリーの背中に向けてむなしく響くのだった.
──────────
メ:(もう足音は聞こえない・・・ね.)
─
メリーは,耳を研ぎ澄ましながら,慎重に人影のない路地裏へと降り立つと,壁にもたれ,肩の力を抜いた.
メ:(ふぅ.なんとか逃げ切れた・・・.みんな死に物狂いで追ってくるから本当に参っちゃうよ.わたしがネコ助けてるところ見てくれてたはずなのに,あそこまで鬼の形相で追ってくるなんて・・・.・・・まぁあの人達から見たら魔女は悪者なんだし.仕方ないっちゃ仕方ないんだろうけど.)
メ:「・・・はぁ.魔女の名誉を挽回するためにも,もっと頑張らないとなぁ.」
メ:「・・・.」
メ:(・・・そういえば,仮面付けてるんだった.)
メリーは土の仮面に手を伸ばし,顔から取り外す.土の仮面は,腕が胸より下の位置に行った瞬間,手の平の上でボロボロと崩れた.
メ:(・・・仮面をつけるって発想は,付け焼刃にしてはいい作戦だったな.これからも人前での人助けは仮面で顔を隠しながらやろっか.・・・てか,今思えば町中で人助ける時のこと全く考えてなかったなぁ・・・.今まで関係ない人に見られながら人を助けるって場面に遭遇したことがなかったせいなのかもしれないけど,さすがにこれからはもう少し深いところまで考えられるようにしないと.)
メ:「・・・.」
メ:「ところで,ここってどの辺なんだろ?」
────────────────────────
「ヒュー,ヒュー・・・.」
ハジメ町のある路地裏,一人の男が横たわり,辛そうに息をしている.
スキンヘッドの大柄な男だ.全身が生傷だらけで,血まみれ,もう間もなく死んでしまうだろう.
そんな男のそばにもう一人男がいる.長身の剣の切っ先を地面に突き刺し,屈んでいる男だ.褐色の肌に黒いタンクトップの男,胸にはペンダントをたらしており,北国よりも冷たい目で大柄の男を見つめている.
剣刃はよく見ると,鮮血に濡れている.おそらく大柄の男のものだろう.
「よっこいせっと.」
褐色の男は立ち上がると,ピッと剣を振って血を落とし,腰に掛けた鞘に戻す.
「・・・口硬かったなぁこの人.おかげで思ったより時間かかっちゃった.・・・まぁ,いいか.犯人の目星は大体つきましたし.」
軽い口調でそういうと,男はまだ明るい空を見上げた.
「・・・ミラ先輩,ほめてくれるっすかねぇ?」
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