第12話 再会
ポ:「ガ・・・ヴガ・・・」
─べチャンッ
辺り一面に大量のどす黒い血が飛び散る.
身体を横一直線に貫かれたポチの身体が力を失い,そのまま岩文鎮の重さに耐えきれずあっけなく潰れてしまったのだ.
メ:「はぁ・・・はぁ・・・.」
メ:(やっと・・・)
─ドッ
激しい戦いが終わり,アドレナリンの切れてしまったメリー.今まで意識していなかった身体,特に足の疲れがどっと押し寄せる.すでに魔力も底をつきかけており,気力も限界のメリーには泣きっ面に蜂.しんどさが頂点に達し,熱中症の時のように意識が朦朧としている状態である.
メ:(終わっ・・・)
ふらっ
メ:「・・・くっ.ガァッ!!」
メ:(ダメよメリー!まだ山賊たちも残ってるんだから!)
背中から倒れる寸前,重心を前にして何とか根性で踏ん張ったメリー.自身に喝を入れる.しかし・・・
メ:「はぁ・・・はぁ・・・.」
そうはいっても,もう二本足で立っているのもやっとの状態.身体中から嫌な汗が出ており,さすがにもうこれ以上は戦えないことはメリー自身にも分かっていた.
メ:(・・・もう激しい動きはできそうにない.
メ:「・・・あれっ?」
そのとき,メリーの身体に不思議なことが起きた.
徐々に楽になっていくのだ.
体力が回復していっているのではない.身体には力が入らないままだ.
この感じ,覚えがある.お母さんに
メ:(魔力が・・・回復していってる?)
クリ:「・・・何でだ.」
メリーが自身に起きている不可解な現象に首をかしげていたその時,不意にクリケが,メリーに声をかけた.クリケはいまだに両手両足を縛られ,うつ伏せで倒れている.
メ:「ん?」
クリ:「何でポチに襲われそうになった時,俺を助けたんだ.」
メ:「・・・どうしてそんなこと聞くの?」
クリ:「意味がわかんねぇからだよ.あんたに助けられる義理がねぇ.俺は山賊だ.お前と同じくらいの子どもを売ったこともある.ただの罪人,悪人なんだ!それなのに,それなのになんであんたは俺を助けたんだ!」
メ:「・・・死にたかったの?あのまま.」
クリ:「・・・っ.それは・・・.」
しどろもどろになるクリケ.そんな彼にメリーはゆっくり口を開いた.
メ:「・・・あなたはあの時,生きたがってた.救いを求めてた・・・.わたしはね,無抵抗な人間が殺される様なんてみたくないし,大人数で寄ってたかって一人をバカにして,笑っている状況を看過することもできない.あなたは悪い人かもしれないし,そうなっても仕方ない人間だったのかもしれないけど,わたしにとってそんなことはどうだっていいの.わたしは,自分の人生に後悔したくないし,自分を嫌いにもなりたくない・・・.明日も気持ちよく生きるために,わたしはあなたを助けたの.」
クリ:「・・・.」
ガチャ:「・・・いやー,いい考え方だなぁ!嬢ちゃん!」
突然,メリーとクリケの話に遠くからガチャクが割って入る.見ると,山賊たちを引き連れてぞろぞろとこちらに近づいてきているところだった.
ガチャ:「まったく共感できねぇが,自分の人生に後悔したくねぇってとこだけは共感できるぜ.」
確認できる限りで8人程度の山賊たち.全員サーベルを持っており,何人かは松明を掲げている.
その様子にメリーは警戒心を募らせる.山賊たちが武器を構えていたからではない.目の前にいる山賊たちの数が少なすぎるからである.
メ:(ポチと戦う前に数えた時は30人以上いたはず.)
メ:「残りの山賊たちはどこにいるの?」
身構えたメリー.語気を強める.
ガチャ:「・・・へぇー,気づいてなかったのか.他の奴らはみんな殺されたよ.こいつにな.」
ガチャクは左手を後ろに伸ばし,クイッとする.すると,奥にいた山賊─クルエルが,山賊たちの影に隠れていたある人物を乱暴に前にだした.
メリーは,両手を背中で組まれ,首元にナイフを突きつけられているその人物の姿を見て驚愕する.
メ:「!!?トモシビっ!?」
ト:「すまねぇなメリー.調子に乗っちまった・・・.」
メリーとトモシビの様子を見て,ガチャクはニヤリとする.
ガチャ:「やっぱり仲間だったみたいだな.・・・こいつはなぁ,俺たちがお前の戦いに夢中になってる隙に俺の大事な仲間を半分以上殺しやがったんだ.挙句の果てに俺の首まで狙ってきやがって,全く胸糞悪いったらありゃしねぇ.」
メ:(トモシビが山賊たちを!?どうしてそんなことを・・・.いや,そもそもどうしてここにトモシビが・・・.いや,今はそんなことどうでもいい.まずは・・・)
メ:「トモシビを離しなさい.あなたたちただじゃおかないわよ・・・!!」
ト:「メリー・・・.」
ガチャ:「ガッハッハッハッハ・・・!!いいなぁいいなぁ.予想通りの反応だ.そりゃあ正義感のつえぇお前はそういう反応するよなぁ.・・・だがなぁメリー.・・・そんな強気でいいのかよっ!!」
バキッ!
メ:「!!」
・・・・ぽたっ・・・ぽたっ
トモシビの鼻から血が流れる.ガチャクの裏拳を顔面にまともに食らったのだ.
ト:「ぐっ・・・ぶふっ・・・.」
メ:「・・・」
メリーは握った拳をわなわなと震わせる.しかし,震わせるだけで魔法を発動しない.発動できないのだ.まだ魔力が十分回復できていないからではない.怖いからだ.自分が山賊たちを倒す前に,トモシビが殺されるかもしれない.それが怖いのだ.
ガチャ:「・・・そうだよなぁ.攻撃できねぇよなぁ?もしお前が魔法を使えば,次の瞬間にはこいつの喉がナイフで掻っ捌かれてるかもしれねぇもんなぁ?・・・その通りだぜ.お前が少しでも攻撃する素振りを見せれば,このガキを殺す.そういう風に部下たちに命令してある.」
メ:「・・・どうしたら,トモシビを解放してくれるの?」
メリーの静かな言葉.その反応に,ガチャクは再びにやりとした.
ガチャ:「・・・大人しく俺たちに殺されろ.そしたら,このガキは解放してやる.」
メ:「・・・わたしが殺されたら,トモシビは解放してくれるのね.」
ガチャ:「ああ,・・・約束するぜ.」
ト:「・・・そだ.」
ト:「嘘だ!騙されるんじゃねぇメリー!こいつらはメリーを殺した後,どっちみち俺を殺す!・・・そもそも,捕まっちまったのは俺が出しゃばっちまったことが原因だ.俺にかまわず,こいつらをやってく─
ドむっ!
ト:─る゛はっ・・・.」
今度はガチャクの肘がトモシビの脇腹にめり込んだ.
ト:「ぐはっ・・・ガはっ・・・」
ガチャ:「さぁ,どうする?メリー.」
メ:「・・・.」
ト:「・・・め゛りー.」
メ:「・・・わかったわ.」
沈黙の末に出た答え.その答えにガチャクは自らの勝ちを確信した.
ガチャ:「そういうと思ったぜ,メリー.お前はそういう性格だもんな.そんじゃ約束通り・・・」
バリッバリバリ・・・
そのとき,ふいに,メリーの身体が青白く光りだす.いや,よく見ると,メリーが光っているわけではない.
バチッバチッと,細長く力強い光が繰り返しメリーの身体の周りに現れては消えているのだ.
ガチャ:「・・・何をしてやがる?」
ガチャクの心の底からの問い,心の底からの疑問.
その問いに,メリーは決意のこもった力強い目つきで答えた.
メ:「わたしは,トモシビの覚悟を無駄にはしない・・・!!」
バチバチバチィ・・・!!!
メリーの纏っている青白い光─稲妻は激しさを増していく.
メ:(誰の助けも借りれないこの状況.わたしが何もしなければ共倒れ・・・.それなら,イチかバチかにかける・・・!!)
この瞬間,ガチャクは,山賊たちは,トモシビは,目の前の魔女が本気で攻撃を仕掛けようとしていることを悟った.
ガチャ:(こいつ,ガチでやる気だ・・・.)
山賊たちは,焦り始める.
ガチャ:「ちょっ,ちょ,ちょ,ちょっと待て!落ち着けメリー!?いいのか?ほんとにこのガキを・・・」
メリーは目をつぶって集中している.こちらに耳を傾ける素振りはないし,魔法が止まる気配もない.
バチバチバチッ
メリーの身体は青白い光に囲まれ,髪を,服をユラユラと揺らしながら,さらに力強い稲妻を纏っていく.
ガチャ:「・・・ぐっ.」
ガチャ:(嘘だろ.嘘だろ嘘だろ嘘だろ!想定外過ぎる!仲間見捨てるなんて選択できんのかよっ!やばい.完っ全に予想外!このガキ盾にして問題なく始末する予定だったってのに.こんなシナリオ考えてねぇ・・・.何を,いったい何をすればいい.何が最善だ.どうすりゃ勝てる.どうすりゃ助かるんだ・・・.)
クル:「お頭.」
ガチャ:「・・・クソが,」
クル:「!?お頭っ─」
ガチャ:「クソがぁ――――――っ!!!」
ガチャクはもうやけくそになり,やられる前にやろうと手に持ったサーベルでメリーに襲い掛かっていく.
さすがは山賊の頭.イノシシのように,かなりの速度でメリーとの距離を詰めていく.
しかし,時はすでに遅かった.
メ:「上級魔法──
ゆったりと両腕を前に掲げ,目を見開いたメリー.
そのメリーの詠唱と共に,纏っていた稲妻が何本もの蒼い槍となり,ガチャクに,クルエルに,トモシビに,山賊たちに目掛けて襲い掛かった.
ザザァァー-----------------------------ーーーーーーーーーーーーー--ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!
雷鳴がとどろく.まばゆい光がオーロラのように夜の闇をはねのけ,辺り一面を包み込む.
ガチャ:「・・・ガハッ」
カランカランッ・・・
ドサッ・・・ドサッドサドサッ
青白く光る鋭い光につらぬかれた山賊たちは,口から煙を吐きながら,手に持っていたサーベル,松明を落とし,もれなく全員その場に倒れこんだ.
立っているのはメリーを含めて二人だけだ.
ト:「・・・すっげぇ.」
稲妻はトモシビにだけは当たらなかったのだ.稲妻はトモシビに当たる直前に迂回し,トモシビにだけは当たらなかったのだ.まさに,神業,神のような魔法である.
メ:「・・・上手くいった・・・みたいね.」
ト:「ああ,まじですげぇよおまえ.すっげぇ綺麗だった・・・.まさか魔法であんな雷まで出せるなん─」
どさっ
回復した魔力を全て使い切ったメリー.その場に膝から崩れ落ちる.
ト:「!?メリー!!」
トモシビは急いでメリーの下へ駆けつけ,抱き上げる.
ト:(・・・大丈夫だ.ちゃんと息してる.気を失っているだけだ.・・・身体中汗でびしょびしょ.相当無理してたってことか.)
ト:「ふっ,ふふふっ・・・.」
ト:「おまえ,本当におもしろい奴だな.メリー.」
地面に転がる松明の優しい光に照らされながら,トモシビは眠っているメリーに向かい,そう呟くのだった.
─────────────────────────────
身体が揺れている.
温かい何かに背負われている.
メ:「・・・ん.」
明るくなり,木々の間から差す光でほどよくぬくもりつつある山の中,メリーが目を開けると目の前にはゆらゆら揺れる黒髪があった.
メ:「・・・トモシビ?」
ト:「おっ,起きたのか.・・・今はハジメ町に向かって山を降りてるところだぜ.お前の目的地もハジメ町であってたよな?」
メ:「うん.あってる.・・・そっか,わたし,あの後気絶しちゃったのか.」
ト:「ああ.・・・あの時はほんとびっくりしたぜ.急に死んだのかと思った.」
メ:「ハハッ,そっか.びっくりさせちゃってごめんね.魔力を使いすぎると,ああいう風に気を失っちゃうの.」
ト:「ふーん.そうだったのか.・・・魔法も無尽蔵に使えるってわけじゃねぇんだな.体調は大丈夫なのか?」
メ:「うん.もう大丈夫.寝てる間に結構魔力回復できたみたいだし.・・・ありがとね,トモシビ.」
ト:「ん?」
メ:「気を失ってるわたしをここまでおぶって来てくれて.」
ト:「気にすんな.お前のおかげですげぇ刺激的な体験ができたからな.むしろ,感謝してるのはこっちの方だ.」
メ:「そっか.・・・.」
サッ,サッ,サッ・・・
トモシビが歩くたび,体温と振動が身体に伝わってくる.
それらの刺激に,どことなく安らぎと心地よさを感じながら,メリーは久しぶりに何も考えず,ただただぼうっとする.
・・・トモシビの息遣いが聞こえる.けっこう荒い.かなり長い時間,自分を背負って山を下りているのだろう.
ト:「・・・ところで,起きて早々で悪いんだが,一人で歩けるか?ちょっときつくなってきたんだ.」
メ:「あっ,そっか.そうだよね.・・・っ.ちょっと待って.」
身体に痛みを─特に両足からジクッとくる痛みを感じ,顔をしかめたメリー.すかさず目をとじ,魔力を集中させる.
メリーの身体が淡い緑色の光に包まれる.
ト:「うぉっ!?光った!何してるんだ?」
メ:「傷を治してるの.トモシビにもついでに使ってるよ?」
ト:「えっ?・・・うわっ,ほんとだ.いつの間にか俺の身体も光ってる.・・・てか,すげぇな,みるみるうちに痛みが引いていく.傷も治っていく.山賊たちにけっこうやられてたからな.助かるぜ.」
メ:「・・・よし,これで回復できたわ.それじゃあ降ろしてくれる?」
ト:「おーけー.・・・よいしょっと.」
ゆっくりと背中からメリーを降ろすトモシビ.
それからすぐにまた,二人は歩き始めた.
ト:「ふぅー,楽になったぜぇ.疲れは回復しねぇみたいだけど,ずいぶんマシになった.それにしてもお前,意外と重いよな.びっくりしたぜ.」
メ:「・・・そういうこと,あんまり女の子に言わない方がいいよ.」
ト:「あっ,確かにそうだな.すまん.」
メ:「・・・そういえば,山賊たちはどうしたの?」
ト:「ん?ああ,お前がやっつけた奴は全員縄で縛っといたぜ.お前,魔女のイメージを払拭したいとか何とかいってたからな.生かして,魔女にやられましたって証言してもらえるようにする方がいいなと思ったんだ.」
メ:(へぇー,覚えててくれたんだ.)
メ:「そっか.ありがとう.・・・縄はどこから持ってきたの?」
ト:「山賊たちの持ってたやつを使ったのさ.クリケ・・・あの牢番だった奴がどこら辺に縄を置いてそうか教えてくれてな.おかげで探す手間が省けて長居せずにすんだぜ.」
メ:「そうなんだ.・・・クリケさんはどうしたの?」
ト:「ああ,あいつか.・・・縄切って逃がした.一応縄の場所教えてくれたからな.」
メ:「そっか.」
ト:「・・・ダメだったか?」
メ:「いや,そんなことないよ.わたしもそうしてたかもしれないし.」
メ:「・・・ところで,トモシビはなんであの場所にいたの?」
ト:「ん?あの場所って?」
メ:「ほらっ,トモシビ町に行くっていってたじゃん.それなのに,山賊に捕まってて・・・.」
ト:「ああーそのことか.・・・最初は町に行くつもりだったんだけど,そもそも俺がこの山に来たのは刺激を求めてだったなぁって思い出してな.・・・このまま町に行くよりも,メリーの近くにいた方が面白そうだなと思ってこっそりお前の後をつけてたんだ.」
メ:「そうだったんだ.わたし気づかぬうちにつけられてたんだね.」
ト:「言い方っ.・・・まぁそうだな.ちなみにこれからもお前についていくつもりだぜ?」
メ:「えっ?」
ト:「俺はお前がこれからどういうことをしていくのか,どうなっていくのかを見ていたいんだ.その方が刺激的な毎日を送れそうだからな.・・・ちなみにもう決めたことだから,お前が何といおうと俺はお前についていくぜ?」
トモシビの言葉に,なぜかメリーの胸は温かくなる.
メ:「・・・ガチのストーカーじゃん.」
ト:「ははっ,まぁそう解釈もできるな.・・・迷惑か?俺がついてくの.」
メ:「・・・別に.」
ト:「よっしゃ!じゃあ決まりだな.これからよろしくな,メリー!」
木の隙間から差す朝日が二人の行く道を照らす.
こうして,メリーは新たな仲間トモシビと共に旅をすることになったのであった.
────
メ:「ところでさぁ.」
ト:「ん?」
メ:「ブラックパンサーってネコ科じゃん?」
ト:「・・・まぁ,ネコ科だろうな.パンサーだし.」
メ:「ネコ科なのに,名前『ポチ』だったね.」
ト:「・・・.」
メ:「・・・.」
ト:「・・・.」
ト:(今さら?)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます