第11話 混乱
「・・・すげぇな.」「まさかあの位置からクリケの奴を助けるなんて・・・.」「あいつ,今えげつない速度で移動してなかった?」「これポチ勝てんのか?」
メリーの救出劇を目の当たりにした山賊たちは,もうすっかりこの戦闘に見入っていた.
ガチャ:(・・・ちっ,まさか無傷でクリケが助けられるとはな.・・・まぁいい,振出しに戻っただけだ.何も悪いことはねぇ.・・・いや,それどころか,これからメリーはクリケのことも考えてポチの攻撃をかわさなきゃいけなくなったはずだ.状況はむしろ,好転している!)
ガチャ:「いけぇポチぃ!メリーをずたずたに引き裂いてやれっ!!」
ポ:「ヴルッ!!」
ガチャクの声援を受け,ポチは再びメリーにむかって襲い掛かる.
メ:(来たっ!まずは土壁を貼って防がないと.・・・いや,待てよ.さっきみたいに土壁を踏み台にすれば,ポチの攻撃をかわせるんじゃ・・・.)
メリーは思いつくと同時に足元に土壁を発動,踏み台にし,
ブンッ!
ポ:「ヴッ!?」
ガチャ:「なっ!?」
ポチのかぎ爪をすれすれで回避することに成功した.
メ:(やっぱり!躱せた!)
土壁! ブン! 土壁! ブン!
その後も,ポチの攻撃はむなしく空を切り続ける.さらに,
─
バガガンッ!!
ポ:「グッ・・・ヴグァ!!」
回避している最中に魔法で攻撃することにも成功するのだった.
メ:(やっぱり,このやり方なら余裕を持って攻撃できる!)
「すげぇ,今度は魔女がポチを押し始めてるぞ」「ポチの攻撃が全く当たらねぇ」「これポチ負けるんじゃねぇか?」
山賊たちはより一層ざわつき始める.
ガチャ:「・・・.」
ガチャ:(なるほどな.さっきまではポチの攻撃を魔法で防御し,その上で回避することで致命傷を負うのを防いでいた.しかし今は魔法を回避に使うことで,回避のみでポチの攻撃を防げるようになっている.防御という手間を省き,自分の行動のパターンを減らすことに成功したわけだ.そのおかげで,魔法を攻撃に使う余裕もできている.攻撃をしていればポチはメリーに意識が向くから,クリケが狙われる心配もない.・・・あいつ,戦闘の中ですげぇ速度で成長してやがるな.だが─)
─
火の弾丸がポチの身体に直撃する.しかし──
ポ:「ヴルァ!」
ブン!
ポチは微動だにせず,再び右足を振り下ろしてくる.
メ:(くっ,・・・やっぱりこれも効かない.)
メリーは,その攻撃をひらりとかわすも,内心焦っていた.
ガチャ:(──やはり,メリーの魔法は決定力にかけている.それにあの避け方・・・かなり体力を使うはずだ.数分も経てばバテるだろう・・・.ポチの勝ちは揺るがねぇ.)
そう,メリーに攻撃する余裕が出来たと言っても,それは初級魔法で攻撃する余裕が出来ただけである.発動するのに溜めが必要な中級魔法や上級魔法を使えるほどの余裕は出来ていない.メリーのピンチは続いていたのだ.
ブン!
メ:「くっ・・・.はぁ,はぁ.」
メ:(考えろ.躱しながら考えろ.今までのことを思い出せ!・・・中級以上の魔法を発動するには時間が必要だ.時間自体は前みたいに目つぶしをすれば稼げる.問題は山賊たちの声によってポチに躱される恐れがあるということ.中級以上の魔法を何回も躱されたら私の魔力が持たない.どうにか山賊たちの声が届かないようにしないと.そのためには・・・)
と,そのとき,メリーの目に篝火のそばで観戦する山賊たちが映る.
メ:「!!」
メ:(そうだ!その手があった!)
─メリーの目に光が宿った.
メリーはポチの攻撃をかわしつつ,無数の水弾を形成,四方八方へ飛ばしていく.
「どこ狙ってんだあいつ?」「あれっ,あの魔法,俺たちの方にむかってねぇか!?」「やべぇ!逃げろ!」
そう,メリーは狙いはもちろんポチではない.かといって山賊たちをねらって打ったわけでもない.メリーの狙いは・・・
バシャッ バシャバシャッ!!
ジュワッ!ジュワジュワッ!
篝火であった.
「うわっ!?」「おいっ,火が消えちまった.」「くそっ,見にくくなっちまったじゃねぇか!」
山賊たちは急に目の前の明かりが減り,混乱する.
ガチャ:(篝火の火を消した?狙ったのか?)
─
─水弾!!
バシャバシャッ!
ジュワジュワジュワッ!
引き続きメリーは篝火を狙って水弾を連射していく.
ガチャ:(あいつ・・・やはり,篝火を狙ってる.暗くするつもりなんだ.・・・だがなぜだ?ブラックパンサーは夜行性.明かりを消したところでポチには何の支障もねぇ.困んのはせいぜい観戦してる俺たちくらい・・・いや待て,まさか俺たちの視界を奪うのが狙い!?あいつ俺たちに気づかれないように何か仕掛けるつもりだっ!)
ガチャ:「おいお前らぁっ!!今すぐ松明を用意しろっ!!手元にない奴は今すぐ周りの木を使って作るんだ!ぜってぇにポチとメリーから目を離すな!」
メリーの狙いにいち早く気づいたガチャクは,処刑場全体に響き渡る声で部下たちに命令する.
ガチャ:「クルエル.火が全部消えちまわねぇうちにお前も松明の準備をしろ.」
クル:「へい.」
ガチャ:(くっそー.なんか奥の手を隠してやがるとは思っていたが,やはりポチに勝つ,いや俺たちに勝つ何らかの策があるんだ.ぜってぇてめぇの好きなようにはさせねぇからな・・・.)
E:「お頭ぁーー!!」
ガチャクが決意した矢先,山賊の一人が慌ててガチャクの下へ走ってくる.
ガチャ:「ん?どうした?お前もさっさと松明の準備をしねぇか.」
E:「そ,それが・・・それどころじゃないんです.俺もさっき気づいたんですけど,消えた篝火のそばで・・・篝火のそばで死んでるんです.俺たちの仲間が・・・」
ガチャ:「はぁっ!!?」
突然告げられたそのありえないほどの異常事態に,ガチャクは驚愕するよりほかなかった.
────────────────────
─数十秒前
F:「ちっ,さっさと死ねってんだよなぁあの魔女.」
G:「いやー,でも面白くねぇかこの戦い.どっちが勝つんだろうな.」
F:「そんなもんポチに決まってんだろうが!頭(かしら)のペットなんだぞ?」
G:「いやー,確かにポチに分がありそうだけどよぉ.」
F:「そもそもだなぁ・・・.おっ,そこだ!いけぇポチ!・・・くそっ,あと一歩のとこで攻撃躱されてんなぁ.」
G:「・・・.」
F:「ちっ,早く無様に血が飛び出るとこみてぇぜ.なぁ?」
G:「」
F:「おい,聞いてんのか?」
山賊Fは急に返事がなくなったことに若干苛立ちながら山賊Gの方を振り向く.
ドッ・・・ドサッ
そこには首から血を流し,膝から崩れ落ちる山賊Gの姿があった.
F:「えっ?おま─
ザクッ
F:─グぶっ・・・」
驚くのも束の間,山賊Fも首を後ろから刺され,声を出せずにその場で倒れる
「・・・ほいっ,十人目.」
淡々と言葉を発し,二人の山賊を暗殺した人物は,死体を膝立ちの状態にして背後に隠れ,慣れた手つきでナイフの血を拭った.死体の服でだ.
「・・・よし血ぃ取れたな.そんじゃ次行くか.気づかれる前にケリつけたいし.」
その人物は,メリーと共に山賊たちに捕まっていた人物─トモシビであった.
トモシビはすぐさまその場を後にし,山の中をかけていく.しかし,不思議と足音はしない.足音を消す走り方にも慣れているのだ.
ト:(いやー,町に行かずにこっそりメリーの後をついてきて正解だったな.ほんっと面白ぇ,あいつの戦い・・・.山賊たちが夢中になってんのも無理ねぇぜ.あんなもの見せてもらったんだ.ブラックパンサー倒した後あいつが困らねぇように,隙だらけの山賊たちくらいは俺が皆殺しにしとかねぇとな.)
トモシビはにやりと笑いながら,夜の山に姿を消していった.
───────────────────
ガチャ:「なっ・・・ガチじゃねぇか.」
ガチャクは消えた篝火のそばに横たわっている部下の姿を自らの目で確認し,動揺する.
ガチャ:(ここから見えるだけでも10人以上は殺されてやがる.いつの間にこんなに・・・,メリーがやったのか?・・・いや,あいつのこれまでの行動,性格からしてこんなことはぜってぇしねぇ.仲間がいるんだ.それも相当な手練れの暗殺者が・・・.くそっ,思い返せば仲間の存在自体はクリケの奴がしくじったときから想定できてたことじゃねぇか.なんで俺は,敵はメリー一人だと思いこんじまってたんだ!・・・いや,まぁいい.いまからでも部下たちに伝えれば─
─バジュアッ!!
その時,ガチャクのそばにあった篝火にも水弾が激突する.
ガチャ:「おわっ!?くそっ,このタイミングで消えんのかよ.」
─スッ・・・
ガチャ:「仕方ねぇ.・・・おい,お前らぁっ!!メリーに仲間がいるみたいだぁっ!!」
ガチャクは気を取り直し,部下たちに命令を始める.
─ササッ・・・
その間に,闇に紛れ,フクロウのように音もなくトモシビがガチャクに近づいていく.数秒前からすでにガチャクのすぐそばで気配を消し,身を潜めていたのだ.
ガチャ:「松明は後だっ!!」
ガチャクは声を張り上げており,トモシビに全く気付いていない.ガチャクの近くにいた山賊たちも近づいてくるトモシビに気づけない.それもそのはずだ.人は大勢でいると安心するもの.まさか,こんなに人がいる中襲ってはこないだろうと思う生き物.だからこそ,その意識の隙をついて,トモシビはガチャクの首を狙ったのだ.
ガチャ:「とりあえず,武器を抜いて俺のところに──
ト:(いまっ!!)
トモシビの鋭利なナイフがガチャクの首筋へと襲い掛かる.無防備なガチャクの首は,その鋭利な刃の前に無慈悲にも─
クル:─いや,させねぇよ?」
ト:「!!」
パシッ──
掻っ捌かれる直前,クルエルの手がトモシビの手首を掴んだのだった・・・.
─────────────────────
一方その頃,メリーとポチの戦いも大詰めを迎えていた.
メリーはポチの攻撃を,土壁を駆使して蝶のように躱しながら,最後の篝火に水弾を直撃させる.
メ:(よし,全部の火を消せた.山賊たちも動揺してる.今なら,中級以上の魔法を使っても気づかれない.それじゃあ次は──)
─
メ:─ポチの目を潰す!)
メリーの展開した無数の石弾が,再びポチの両目に襲い掛かる!!
バキャッ!
メ:「・・・っ!!」
しかし,ポチはそれらの石弾をすべていともたやすくはじき落とした.
ポ:「ヴルァアア!!」
メ:(くっ,やっぱりそう簡単に同じ手は食わないよね.・・・でもね,ポチ.わたし,昔村でネコ飼ってたから夜行性のことよく知ってるの.夜行性の生き物の目は,わずかな光を倍以上に増やして取り込めるようにする機能を持っていて,そのおかげで暗い夜でも周りの物がよく見える.それは逆に言えば,真っ暗なこの環境ではあなたは光を取り込みすぎてしまうということ.つまり・・・)
メ:「あなたにこれは,防げない!」
─
メリーは今度は無数の火弾を展開し,ポチの両目を狙う.
ポ:「ヴルッ!?」
突然の赤
その眩い光に,まっくらな中,光を取り込もうと躍起になっていたポチの両目は耐えられない.目がくらんだポチは,そのまま火弾を両目にまともに食らい,再び怯んでしまう.
メ:「よしっ!」
メ:(ポチの動きを止めれた!この先同じように上手くいくとは限らない.勝負はいま,ここで決める!)
ポ:「ヴヴヴ・・・!!」
ポチはまだ目をつむってその場に立ち止まっているが,明らかにこちらの攻撃を警戒している.
メ:(・・・上級魔法は発動するのに時間がかかる.もしかしたら間に合わずに避けられるかもしれないし,そうでなくとも真正面からの攻撃は今のポチには避けられるかもしれない.かといって上級魔法で攻撃しなきゃおそらくポチは倒せない.なら──)
メリーは魔力を集中させ,ポチの頭上で砂を猛スピードで形成していく.
メ:─まずはポチが身動きの取れない状態にして,確実に上級魔法を当てる!!)
形成された砂は渦を巻いて集まっていき,空気を入れられ膨れ上がっていく風船のように,だんだんと巨大な,巨大な岩の塊が形成されていく.そして──
─中級魔法・・・
その巨大な岩石がポチの身体に真っすぐ降りかかった.
ズウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン・・・!!!
ポ:「ヴガッ・・・!?」
上からの攻撃を想定していなかったポチは,避けることができずにその巨大な岩石をまともに食らい,下敷きとなる・・・.
この隙にメリーは,静かに目を閉じ,胸のあたりで両手を併せ,そこに全身の魔力を集中させる.この魔法は,紅熊を倒したときに使った魔法と同じものだ──
ポ:「・・・グッググ」
ズズズ・・・
ポチは危険を察知し,何とか乗っかている岩をどかそうと躍起になっている.その圧倒的なフィジカルにより,岩文鎮を徐々に持ち上げつつあるが,とてもじゃないが間に合わない.
ポ:「グッグググ・・・」
メ:(ごめんねポチ.・・・これで,トドメよ!)
上級魔法──
ポ:「ヴルガァアアア!!」
──
ズブガァアアアアアアアアアアアア・・・・!!!
・・・ポチの最後の雄たけびは夜の山にむなしく響く.水の一閃は,魚の口からくしを挿すかのごとく,ポチの身体を貫いたのだった・・・.
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