第10話 ポチ
メリーは,クリケを運ぶ山賊たちについて行き,山賊のアジトにたどり着いたあと,木の陰に隠れ,身を潜めていた.敵全体の数を確認して,万全の状態で戦うためだ.
結果として,山賊は総勢30名前後であり,この場に集まっている山賊たちで全部であるということが分かったが,山賊たちの会話で度々現れるペットという魔物の存在が気になり,その魔物の姿を確認するまでは身を潜めているつもりでいた.
しかし,クリケに対するあまりに酷い扱いに耐え切れず,木の影から飛び出してしまったのだ.
ガチャ:「あっ?」
クリ:「・・・!!お前は・・・.」
ガチャクとクリケは,その場にいたすべての山賊たちは突然の乱入者に驚愕する.それが一人の少女であることに困惑する.
メ:(どうしよう.我慢できずに出ちゃった.・・・いや,いい.言いたいこと言ってやる!)
メ:「あなたたちは狂ってる.命を何だと思ってるの?どんな人間でも,どんな生き物でも,笑われながら殺されていい命なんてあるわけないっ!!」
「・・・.」「・・・.」「・・・.」
山賊たちにはメリーの言葉は響かない.異常な事態にただただ困惑している.
ガチャ:「・・・おまえ,思い出したぞ.ガリーとマチャイが捕まえてきたガキだよな.確かメリーとかいう名前だったか.なぜお前がここにいるんだ?・・・いや,そうか.もしかして,仲間がそいつを運んでる最中に付けてきたのか?それでここまで来たのか?・・・解せねぇな.なんで,わざわざそこまでして俺たちのアジトまでやってきたんだ?せっかく逃げられたのに.まさかさっきのセリフを言うためだけにここまで来たわけじゃねぇよな?」
メ:「・・・ええ,わたしは・・・あなたたちを倒すためにきたの.」
メリーは真っすぐとガチャクを見据えた.その目は決意のこもった目,覚悟を決めた目,嘘偽りをかたらない真実の目だ.
クリ:「・・・」
山賊たち:「「・・・.」」
ガチャ:「・・・ぷっ,」
ガチャ,山賊たち「「がははあはははああははははははははははははははははあはははははははははははあははははははははは・・・・」」
ガチャ:「・・・面白れぇことをいうなぁ.お前が俺たちを倒す?たった一人で?ガキが?真正面から山賊団に勝てると思ってるのか?」
「そうだぜ,そうだぜww」「寝言はねえ言えってんだ(笑)」「ばかすぎんだろ.死んだなあいつ.俺が殺すけど.」
山賊たちはガチャクの言葉に同調し,メリーを一緒になってあざ笑う.
マ:「あれっ?あいつ,今日俺たちが捕まえた奴じゃね?」
ガリ:「今気づいたのか.さっきお頭が言ってたろ.」
マ:「まじかっ!わざわざあいつのほうから戻ってきてくれるなんてめっちゃラッキーじゃんっ!これで俺たちの今月のボーナスが復活するぜっ!」
マ:「おぉーい!!覚えてるかガキィー!きみを捕まえた傭兵さんですよぉー!また捕まえてあげるかr
──バキッ!
メ:「
マ:─らぐっ・・・.」
突如彼女から放たれた石の塊がこめかみに直撃する.
ドサッ─
マチャイは額から血を流し,そのまま白目を向いて仰向けに倒れ,気を失った.
・・・山賊たちは静まり返る.
ガリ:「・・・マ,マチャイ?・・・いまのって・・・まさかっ!?」
ガチャ:「・・・へぇー,お前魔女だったのか.」
メ:「そうよ.・・・後悔したって,もう許さないから.」
メリーの目には静かな怒りと,決意,覚悟がこもっている.
「・・・や,やべぇんじゃねえか」「魔女が来るとかきいてねぇよ」「やべぇ,俺たち皆殺しにされるんじゃ・・・.」「逃げるべきじゃね?俺ら・・・.」
さっきまでの雰囲気は一変.山賊たちの間に,徐々に不安や怖れが伝染していく.
「やばい」「逃げろ」─そんな声があちこちに飛び交い始める.そんな時だった.
ガチャ:「うるせぇぞぉおっ!!!おまえらぁっ!!!」
ガチャクの一声により,ふたたび山賊たちは静まり返った.
ガチャ:「まったく,ほんと無知ってのは罪だよな.必要以上に怖れやがる.おまえもそれを利用して,逃げ腰になったところを一掃しようって魂胆だったんだろ?」
メ:「・・・.」
メ:(いや,違うんだけど・・・.)
そんなメリーの心情などつゆしらず,ガチャクは得意げに語りだす.
ガチャ:「俺はなぁ,こう見えて博識でなぁ.趣味でいろんな本読んでるから,結構いろんなことに精通してんだよ.魔女のことも知ってる.・・・魔法を習得するのにどれだけの年月が必要かもなぁ.」
メ:「・・・!!」
ガチャ:「初級魔法で5年,中級魔法はそっから10年,上級魔法はそっからさらに15年マスターすんのにかかるんだろう?お前は見たとこ10代前半,よくて中級魔法を少し習得している程度だ.」
メ:「・・・.」
メ:(中級魔法どころか,上級魔法マスターしてるんですけど.・・・どうしよう.知識が間違ってないだけに,反応に困る・・・.)
ガチャ:「初級魔法だけで倒せんのはEランクの魔物まで,お前が倒せる魔物はDランク,いやよくてCランク下位の魔物までってとこだろう.」
メ:「・・・何が言いたいの?」
メリーの反応に,ガチャクはニヤリとする.
ガチャ:「つまり,つまりだなぁ・・・.」
ガチャ:「俺のポチには勝てねぇってことさっ!!」
ガチャクは自らのホイッスルを鷲掴み,思いっきり息をすった.
ヒュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル・・・・・!!
耳をふさぎたくなるような甲高いホイッスルの音.それが,山全体に響き渡ったとき─
──ぞわっ
メリーは背中に悪寒を感じ,気配が,邪悪な気配が近づいてくる方向を見た.
ザッ・・・ザッ・・・ザッ・・・
その気配は,素早く,巨大な何かの気配・・・.
メ:(何か・・・くる・・・.)
木の葉が不穏に揺れている.間違いない,この方角から・・・
メリーは凝視する.近づいてくる,得体のしれないものの存在を見逃さぬよう凝視する.それがまずかった.
ザッ!!
クリ:「ガキぃっ!!上だぁ!!」
メ:「!!」
頭上から黒く巨大な塊が襲い掛かってくる.
─
クリケのおかげで,襲われる直前に気が付くことができたメリーは,とっさに土の壁を貼りガードした.
バガァアアア―ン!!
メ:「ぐっ!」
しかし,土の壁ではガードしきれず,メリーは腹にかぎ爪を食らってしまう.
直前にバックステップをしていたため傷は浅いが,かなりの痛さだ.
メ:「う゛っ・・・・はぁはぁ.」
─
メリーはそのまま距離を取ると,すぐさま傷を癒し,体制を立て直し,目の前の魔物を改めて見据える.
「ヴーーーーーーーーーーー・・・!!」
それは黒く,巨大な肉食獣.
赤い瞳を爛爛と光らせながら,喉を鳴らす生粋の狩人だった.
ブラックパンサー Bランクの魔物
夜行性.その漆黒の身体で闇夜に紛れ,確実に獲物を捕らえる猛獣.牙と爪は強靭でダイヤモンドにも傷をつけることができ,皮膚は頑強で並の剣では歯が立たない.
ガチャ:「・・・そいつはなぁ.Bランクの魔物,ブラックパンサーだ──」
メ:(!!?いつの間にそんなところに・・・.)
ガチャクとクルエルは,メリーが目を離している隙に,すでに椅子から篝火のそばまで避難済みである.
ガチャ:「──名前は『ポチ』っていう.赤ん坊の時に運よく拾ってなぁ.縄に縛られてる奴と,山賊以外だけを襲うように躾けてある.まっ,つまりだ.」
ガチャ:「せいぜい戯れてくれ.死ぬまでポチとな?」
ポ:「ヴルァアアアアアアア・・・!!」
ポチがその巨体からは想像もできないほどのスピードで襲い掛かってくる.
土壁!!
メリーは土壁を二重に発動し,防御力を高める.
バガァアアアアンッ!!
二つの土壁は木っ端みじんになったが,攻撃をガードすることには成功する.しかし・・・
─ザシュッ
メ:「ぐっ・・・.」
一度目の左前足の攻撃は防げても,矢継ぎ早に来る二度目の右前足の攻撃は防ぐことができず,またもやかぎ爪の餌食になってしまった・・・.
──────────────────────
ガチャ:「さぁ.ショータイムの始まりだぜぇっ!!?みんな楽しんでいけよーー!!」
「「おおおーーーーーーーーー!!!」」
山賊たちにはもうすでにメリーを怖れるモノはいない.すっかり,猛獣と魔女の戦いを観戦する見物客の気分だ.
「まったく驚かせやがってよぉ.」「なんだよ,魔女ってこんなもんかよ.たいしたことないじゃん.」「ビビって損したぜぇ,ポチぃ,そこだ!やっちまえぇーー!!」
─
メ:「はぁ・・・はぁ・・・」
ポ:「ヴルァアア!!」
土壁!!
バガァアアアアン!!
メ:「ぐっ.・・・はぁ・・・はぁ」
メリーとポチの攻防は,土壁を貼り,壊され,攻撃を受け,治癒し,距離を取るの繰り返し.・・・メリーはまったく攻撃が出来ておらず,疲労がたまるのみであった.
メ:(くそっ.さっきから土壁と治癒しか使えてない.防戦一方だ.そろそろ反撃しないと・・・.)
ポ:「ヴヴッ!!」
土壁!!
バガァアア・・・!!
ザクッ
メ:「ぐっ.」
ポチの鋭利なかぎ爪が,メリーの腹部を抉る.
しかし,メリーは怯まない.今回はわざと回避に意識を割かなかったのだ.
メ:(ここだ!!)
メリーは壊れた土壁の土埃,砂埃によってポチの視界が遮られる瞬間を狙い,魔法を放つ.
ポ:「ヴッ!?」
メ:(狙いは・・・目っ!!)
グガァアアン!!
ポ:「ヴルッ・・・!!」
石弾は見事目に命中,ポチを怯ませることに成功する.
メ:「はぁ・・・はぁ・・・.」
メ:(いまのうちに畳みかける!!)
メリーは腹部の痛みを無視し,すぐさま無数の石弾を展開し,そして──
「ポチぃー,まずいぞー!!」「よけろポチぃー!」
ポ:「ヴッ・・・」
ダッ!!
メ:「なにっ!?」
目を潰され,怯んでいたポチは,山賊たちの呼び声に危機を察したのかその場でジャンプし,メリーの頭上を飛び越えた.
バガァッ!
石弾は一発だけ足に命中したものの,それ以外の石弾はむなしく宙を切る.
ポ:「ヴヴヴヴヴッ・・・」
メリーの後ろに回り込んだポチは,両目を開け,こちらをにらんでいる.もう,石弾で攻撃された目の痛みは引いてしまったようだ.
メ:「クソッ!」
─
メ:(せっかくのチャンスが・・・.いえ,石弾が当たった足を気にしてる素振りがない.きっと全弾命中してたところでそこまでダメージはおわなかったはず.気にしちゃだめよメリー.こういう時こそ冷静にならないと.)
ポ:「ヴルァアアアア・・・!!!」
土壁!!
バガァアアアアン・・・!!
メ:(・・・Bランクの魔物にダメージを与えるには,やはり中級以上の魔法を使うしかない.でも,強力な魔法を発動するにはそれなりの時間が必要.さっきみたいに目潰しして時間を稼ぐことはできるだろうけど,周りで見てる山賊たちせいでまたばれて同じように避けられてしまうかもしれない.どうすれば・・・.)
「いいぞーポチぃー!!」「もっとやれー,畳みかけろーっ!!」
山賊たちはすっかりポチとメリーの戦いに興奮している.しかし,ガチャクだけは冷静だった.
ガチャ:「・・・.」
ガチャ:(意外と善戦してやがるな,あのガキ・・・.しかもあの顔,何か策を練ってる.諦めてねぇ.ポチと対峙してもなお,ポチを倒せると思ってるってことだ.どうやって倒すつつもりだ?まさか上級魔法を使えたりすんのか?・・・まぁいい.どちらにせよ──)
バガアアアアアアアアアアンッ!
またもや,土壁が粉砕される.
ポ:「ヴヴヴヴヴッ!!」
メ:「くっ・・・.」
メ:(もう少し距離をとって,策を練る時間を取らないと・・・.)
ガ:(──おまえの負けは,決まっている.)
ガチャクはメリーの位置,ポチの位置を見て,にやりと笑い,口を開いた.
ガチャ:「いいのかぁー!?そんなとこで距離を取ってぇー?」
メ:「・・・?」
メリーはガチャクの言っている意味が分からず,心の中で首をかしげる.・・・しかし,ポチの足元を見て,瞬時にその言葉の意味を理解した.
メ:「あっ・・・!?」
ガチャ:「そんなことしちゃったらぁ!・・・そいつが死んじゃうぜぇ?」
クリ:「あ゛っ・・・あ゛っ・・・」
そう,メリーとポチが戦っている最中に,いつの間にか,ポチがクリケのすぐ真横に来ていたのだ.
ポ:「ヴヴヴヴヴ・・・ヴヴッ?」
ポチもようやく足元にクリケがいることに気が付き,ターゲットをメリーからクリケに変える.
そもそも,ポチは殺す順番などにこだわりなどなく,今までメリーを襲っていたのも,ただ単に自らの攻撃をかわすのでむきになっていただけである.つまりは唯の気まぐれ─足元に簡単に殺せる奴がいればそっちを狙うのは当然の摂理だった.
そうしてポチは,クリケの一番近くにあった左前脚を振り上げる.
──縄に縛られてる奴と,山賊以外しか狙わねぇように調教してある──
その瞬間,メリーの脳裏にガチャクの言葉が再生された.
ガチャ:(がっはっは・・・.メリー,もうわかってるんだぜぇお前がどういう性格なのか・・・.お前は,敵の一員であるはずのクリケを見殺しにできないくらいお人好し.そして,最初の正義感丸出しの言動・・・.明らかに人として正しくありたい甘ちゃんタイプの人間だ.そんなお前のことだ.目の前で殺されそうになってるクリケを見れば,迷わず助けに行くんだろう?それが命取り.お前の筋力やこれまでのスピードからして,お前は助けてる最中にポチの攻撃をまともに食らう.それが致命傷となってジ・エンドだ.もし助けに行かなかったとしても,お前が距離を取っちまったせいで,お前が助けに行かなかったせいでクリケが殺されたら,お前は間違いなく動揺する.そうなりゃお前は精神的余裕がなくなり,ポチの攻撃をかわせなくなる.つまりどちらにせよ─)
ガチャ:「─お前の負けだ!メリー・・・.」
ポ:「ヴヴヴヴヴヴ・・・!!」
ポチが左脚を振り下ろす.クリケに向かって真っすぐと・・・.
その瞬間,メリーの身体は動いた.
この時メリーは,意識的には何も考えていなかった.ただ反射的に,クリケを助けようと身体を動かしていた.純粋に「助けたい」というその一心で,身体が突き動かされていた.
だが無意識下で,メリーは,自身の行動が無謀であること,このままではクリケを助ける前にポチに踏みつぶされ,致命傷を負うだろうことに気づいていた.もう身体は動いてしまっている今,自身が絶体絶命のピンチであることに気づいていた.そのような極限状態の最中で,いやそのような極限状態の最中だったからこそ,メリーの潜在意識は,生存本能は,ぶっつけ本番で,普段の彼女なら思いつかないような移動方法を実践した.それは──
足元に土壁を発動し,それを踏み台に加速,ジャンプし,
ダメ押しに風弾を足元で発動し,ジャンプ後の踏み台とすることでさらに速度を上昇させるというものだった.
ギュンッ!!
その姿はいわば,人間ロケット.
まっすぐと尋常じゃない速さでクリケの下へ向かっていく.
ガチャ:「っ!?」
ガチャ:(なんだあの速度・・・.)
メ:(いける!!)
そのまま,ポチの足が振り下ろされる寸前で,メリーは怯えているクリケの服を掴むことに成功した.
クリ:「あ゛えっ?」
このとき,メリーの重さにクリケの重さが加わったことで,メリーは一瞬減速する.
グワァアアアア・・・
すでにポチの左脚はメリーの頭上すれすれまで来ている.このままでは,メリーはクリケもろともポチに踏みつぶされるだろう.
・・・そんなときでもメリーは,動じなかった.
メリーはもう一度風弾を発動し,踏み台とすることで減速をカバーする.そして─
ダァアアアアアアアアアアアンンン・・・
──ポチの足がメリーに触れるすれすれで,何とか避けることに成功したのだった.
メ:(よしっ,なんとか・・・うわっ!?)
ズザアアアアアアァァァァ・・・
空中で安堵したのも束の間,メリーとクリケはそのまま地面に思いっきりダイブする形となる.
クリ:「う゛ぐっ・・・.」
メ:「・・・っ.」
メ:(痛ったー・・・はっ!痛がってる場合じゃないっ!早く体制を立て直さないと.)
我に返ったメリーは,すぐさま擦り傷だらけの身体を起こし,ポチに向き直った.
都合の良いことにポチもじっとしていたようで,いま我に返ったようにこちらをにらみつけ,「ヴヴヴヴヴ・・・」と唸っている.
どうやら,ポチも躱されるとは思っていなかったらしく,動揺していたようだ.
メ:(ポチ・・・絶対に,あなたに勝つ!!)
メリーは決意新たに戦闘を続けるのだった.
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