第4話 笑顔

メ:「・・・ぷはー.おかわり!!」


ここは村長の家.

現在メリーは,ヤンとツンを助けたお礼として村長特製の鍋をヤン,ツンと共に振る舞われていた.メリーたちが村に着いた時はちょうどこの村での朝食時だったらしく,村長特製の山菜と粟の鍋は,出来立てホカホカである.


「はいよ.たーんとお食べ.」


村長の奥さん─カーネットが,カラになったお椀がいっぱいになるまでつぎ,メリーに差し出す.


メ:「ありがとう.ズズズ・・・」


メリーは,温かなそれをダイソンのごとき吸引力であっという間に流し込み,


メ:「ほわぁ.おかわり!!」


すぐさま,三度目のおかわりを宣言した.


そして,それは,三度では終わらない.


注ぐ,平らげる,注ぐ,平らげる,注ぐ,平らげる,注ぐ,平らげる・・・・


ヤ:「す,すごいね.」


ツ:「おん・・・.」


十杯目を超えたところで,ヤンとツンはメリーの食べっぷりに開いた口がふさがらなくなっていた.


「あら,これで最後の一杯だね.はい,おまち.」


メ:「ズズズ・・・ぷはー,ごちそうさま.とっても美味しかったわ.」


「はい,お粗末様でした.・・・よいしょっ」


囲炉裏には,すっかりカラになった鍋.

カーネットは傍らのお盆に食べ終わったみんなのお椀を乗せ,その場を後にする.


村:「おお,すまんの.・・・いやぁーしかし,いい食べっぷりじゃったのう.三日間かけて食べるつもりじゃった鍋がもう空になってしもうたわい.」


メ:「えっ,そうだったの!?ごめんなさい.食べ過ぎちゃって・・・.」


村:「いいんじゃよ,いいんじゃよ.そもそもこれはお前さんに対するお礼なんじゃから.逆にこんなに食べてもらえて清々しいわい.」


メ:「そっか.ありがとう.ガリバーさん.」


お礼を言った後,メリーは少しためらいつつ,口を開いた.


メ:「・・・あのぉ,この流れで聞くのはちょっと不自然なのかもしれないんだけど,一つ質問してもいいかしら?」


村:「ん?どうしたんじゃ.何か言いたげじゃな.」


メ:「・・・ガリバーさんはなんでわたしを信じてくれたの?」


それは,メリーの心の底からの疑問だった.


村:「ん?なんでとな?」


メ:「だって,他のみんなはあんなに殺気立ってたから・・・.」


メリーの言葉に,村長はあご髭をさする.


村:「うーん.・・・まぁ,一番の決め手は第一印象かの.村のもんに責められて今にも泣きそうな顔しておったからの.流石に邪悪な魔女には見えんかった.」


そう言いつつ,村長はそばに置いてあった湯呑を持ち上げ,ズズズッとお茶をすする.


村:「ふぅ.・・・それに,もう一つ理由がある.・・・後悔があったからじゃ.」


メ:「後悔?」


村:「ああ,後悔じゃ.・・・実はなぁ,この村にも以前,魔女が住んで居ったんじゃ.」


メ:「・・・!!」


村:「いまから10年くらい前のはなしになる.・・・ちょうどその頃,わしは病床に付して居った.当時この村には医者がおらず,病気を診てもらうには,山を二つ超えて町に行くしかない.とてもじゃないが,老人のわしにはそんなことできん.いっこうに下がらない熱に,もう長くは持たんだろうなと半ば諦めておったときに颯爽と現れたのが,彼女じゃった.名は『クラリス』といった.非常に心優しい女性で,ワシの様子を見るやいなや,慣れた手つきで薬を調合し始めた.そして,その薬を飲んだワシは,今まで死の淵をさまよっておったのが嘘であったかのように,あっという間に元気を取り戻すことが出来たんじゃ.・・・彼女は本当に優秀な魔女で,優秀な医者であった.村のものはみんな彼女に感謝した.それから,彼女はこの村に医者がいないことを聞くと,しばらくの間この村に住むと言ってくれた.村のものは皆彼女を尊敬し,彼女も居心地が良さそうにこの村に住んで居った.」


メ:「・・・そうだったんだ.」


村:「ああ.本当にすばらしい女性だったんじゃ.・・・じゃが──」


村:「・・・彼女が来てから半年ほどたったころ,疫病がこの村でも流行ってしまったんじゃ.この国全土を襲ったあの恐ろしい病気が・・・」


メ:「疫病・・・」


メ:(それって・・・)


村:「『ヘル』─10年前に突如発生した病.魔女狩りの原因ともなった疫病じゃよ.」


村:「・・・最初の被害者は当時門番をしていた男じゃった.いきなり高熱に倒れたかと思うと,一週間もたたないうちに死んでしまったのじゃ.その後,男の妻や近隣の住民を中心に同様の症状が現れ始めた.クラリスはすぐにその病気が新種の感染症であることを見抜き,感染者を隔離して,治療法を模索し始めた.しかし,時がたつばかりでいっこうに治療法を見つけることはできず,その間にも感染したものはバタバタと死んでいった.村は,親しい者が死んでいく恐怖,未知の病への恐れから次第にどんよりとした重苦しい雰囲気が漂うようになっていった.そして,そんなときに・・・悲劇は起こってしまった.」


村:「・・・殺されたんじゃ.クラリスは,村の者によって.」


メ:「・・・.」


村:「・・・疫病の治療法を聴くために町に行ったものがおっての.そのものが町に帰ってくるや否や,疫病はクラリスの仕業だと言い出し,彼女を殺してしまったんじゃ.」


村:「・・・いきなり殺されたのではない.しばらく言い争った末に殺されてしまったんじゃ.ワシがお前さんを助けたように,本気で止めに入れば彼女も殺されんかったかもしれん.じゃが,当時のワシにも・・・,ワシ以外にもそれはできんかったんじゃ.」


メ:「・・・どうして?」


村:「ワシらの心にも彼女を疑う気持ちが生じてしまっておったからじゃよ.・・・彼女が病気にかからなかったから.」


メ:「・・・.」


知っている.魔女の村で聞いた話と一緒だ.死の病『ヘル』は,感染力が非常に強く,一度感染するとほとんどの人間が1か月もたたないうちに死んでしまう.にも関わらず,魔女にだけはなぜか感染しなかったのだ.だからこそ,非魔人たちは魔女の仕業だと疑い,決めつけ,魔女狩りが起こったのだ・・・.


村:「ワシらは弱かった.親しい者が死んでいき,感染者に少し触れただけでも病気にかかってしまう.それなのに,患者とずっと関わっているはずのクラリスだけ,なぜか病気にかからない.その異常な状況のせいで,いつの間にかこの村には,彼女はとっくに治療法を知っていて,感染者を隔離し,病気を治さないのは人体実験をしているからだという噂が流れておった・・・.突拍子もない噂じゃ.ワシはその噂を信じていなかったが・・・,いや,違うの,心のどこかで信じてしもうとったんじゃ.だからワシは・・・ワシはクラリスを助けることができんかった.助けに動くことができなかったんじゃ・・・.」


メ:「・・・.」


村:「・・・彼女が殺された後,王都から憲兵隊がやってきて,魔女を殺したことでこの村は表彰された.それから,時が経つにつれてやはりクラリスは悪者だった,魔女は悪い奴だったという考え方がこの村でも主流になってしまった.」


ズズズッ・・・


村:「・・・ワシにもときどき,クラリスがこの村の疫病の原因じゃったと思ってしまいたいときがある.・・・しかし,クラリスのことを,優しかった彼女のことを思い出すとどうしても後悔の念がぬぐいきれんのじゃ.じゃから,その気持ちもあって,おまえさんを信じたい,助けたいと思ったんじゃよ.」


村:「・・・すまんのう,メリー.胸糞悪い話じゃったろう.」


メ:「いえ,話を聴いて納得できた.どうしてこんなにも魔女が虐げられているのか・・・.信じてくれてありがとう,ガリバーさん.」


村:「ふふっ,強い子じゃのう.メリーは.」


ツ:「・・・ちがうよ.」


ツ:「母ちゃんたちに聞いた話と違うよ!母ちゃん言ってたよ.魔女は化け物だって.血も涙もない恐ろしい化け物だったんだって.・・・でも,村長の話だと,化け物は,本当の化け物はまるで・・・.」


ヤ:「ツン・・・.」


村:「ツン.その気持ち,大事にするんじゃぞ.・・・そして,これからまたこの村に魔女が来たときは,メリーにしたのと同じように,彼女らと一人の人間として向き合ってくれ.」


ツ:「・・・うん.わかった.」


村:「・・・さて,この話はこれくらいにして,そろそろワシもお主らに質問するとするかの・・・.」


村:「・・・おぬしら,なぜラルフに襲われたんじゃ?」


ツ,ヤ:「ああっ!!!?」


ツンとヤンは何かを思い出したかのように急に大声を出す.彼らの突然のその反応にメリーはただただ驚くことしかできなかった.








─────────────────────────







メ:「!?いきなり大声出してどうしたの.」


ツ:「えっ,いや・・・.」


村:「・・・ラルフはの.非常に温厚な魔物での.縄張りに入らんかぎりはめったに襲ってこんのじゃ.縄張りにはいらんかぎりの・・・.」


メ:(あっ,そういえば,魔物図鑑にもそんなこと書いてあったっけ.んっ,待てよ?)


メ:「えっ,てことは私たちが襲われた場所ってラルフの縄張りだったの?」


ツ:「・・・いや,そうじゃないんだ.そうじゃなくて・・・.」


村:「ん,どういうことじゃ?ラルフの縄張りで襲われたのではないのか?」


ツ:「いや,実は・・・」


ヤ:「私たち,ラルフ石を取ってきちゃったの.」


メ:「ラルフ石?」


聞きなれない単語にメリーはけげんな顔をする.だが,村長の反応は違った.


村:「なっ,何をしとるんじゃぁあっ!!!」


ビリビリビリッ・・・


村:「ラルフ石は,ラルフ達が大事にしている石!!そんなもの取ったら怒ったラルフ達に襲われるにきまっとるじゃないかっ!!」


ツ,ヤ:「「うっ,ごめんなさい.」」


シュンとなるツンとヤン.ここにきて,メリーもようやく合点がいく.


メ:(・・・あっ,そういえば,妻が妊娠したラルフは,生まれてくる子供のために石を加工して,生まれてきた子供に食べさせるって話を見たことがあるわ.確か,胃の中で食べたものをすりつぶす働きがあるんだったっけ.なるほどね.あのとき襲ってきたラルフ達はその石を取り返しに来てたのか.)


村:「まさか・・・まだもっとりゃせんだろうなぁ?」


ツ:「それが・・・メリーのことで忘れちゃってて,ポケットの中にまだ・・・」


サー


その瞬間,誰が見ても分かるくらいに村長の顔が青ざめていく.


メ:(あっ,これ,まずいことが起きてるんだ.)


村:「なっ,なっ,なっ,そんなことをしたら,村にラルフ達が・・・.」


バタバタバタッ


そのとき,突如として家の外が騒がしくなり,


「村長たいへんだ!ラルフが,ラルフの群れが襲ってきやがった!」


慌ただしく家に入ってきたおじさんによって,外の状況が伝えられた.








───────────







「ヴァウッ,ヴァヴアッ!!」


レ:「おらっ!・・・くそ,なんだってラルフ達が・・・.」


襲い掛かってきたラルフを槍で薙ぎ払いながら,レイジは動揺していた.


メリーが村長について去って行ったあと,その場にいた人々はそれぞれの家,職場へと戻っていった.しかし,未だ納得の出来ていなかったレイジは特に魔女に敵意のあるペル,ダンの二人に声を掛け,メリーをいかに村から追い出すか村の門の手前で話し合っていた.そんなときに,急にラルフ達が村を襲ってきたのだ.


ラルフは全部で4体.


三人とも武器を持っていたままだっため,何とか村に入ってくるの抑えられてはいるものの,予断を許さない状況だった.


ペ:「ぐぁっ!?いっ・・・ちくしょうっ!!」


ダ:「ペル!・・・うわっ!ぐっ!」


ペルが右腕を噛まれ,それに動揺したダンが隙を突かれてバランスを崩し,ラルフに馬乗りにされる.


「ヴァヴッ!」


ペ:「ダン!くっ,この!」


ペルは目の前のラルフを抑えるので手いっぱいで,ダンを助けようにも助けることが出来ない.


レ:(くそっ,やっぱ戦闘慣れしてねぇこいつらには荷が重ぇ.門番の俺が頑張らねぇと・・・!)


レ:「うらぁっ!!」


「ヴァッ!」 「ヴァヴっ!」


レイジは槍で薙ぎ払い,目の前にいた二匹のラルフを後方に吹っ飛ばすと,すかさずダンのもとへ横槍を入れる.


レ:「てやっ!」


「ヴァギュッ!?」


ラルフは横腹にレイジの槍をまともに食らい,悲鳴を上げる.


「「ヴァヴッ,ヴァア!」」


レ:「ちっ,おらぁっ!!」


仲間を助けようと襲い掛かってきた二頭のラルフをレイジは再び槍で薙ぎ払った.


「ヴヴヴヴヴッ!!」


レ:「はぁはぁ・・・ダン,大丈夫か.」


ダ:「ああ・・・すまねぇなレイジ.死ぬかと思った.」


ペ:「おぅらよっ!!」


「ギャンッ!!ヴッ・・・」


レ:(ペルの方は大丈夫そうだな.なかなかきついが,このまま均衡を保ち続ければ他の奴らが応援に駆けつけて来てくれるはず.そうなりゃ俺らの勝ちだ・・・!!)


レ:「よしっ!踏ん張るぞっ!!おめぇ・・・ら・・・.」


・・・レイジが喝を入れようとしたそのときだった.


「ヴァヴ」 「ヴァヴヴ」


増援が来たのだ.・・・ラルフ達に.


ペ:「なっ,こりゃあ・・・.」


ダ:「嘘だろ・・・.」


増援のラルフ4体,いままで抑えていたラルフ4体・・・.

計8体のラルフ達を目の前に,レイジたちは絶望する.


レ:「なんで・・・.」


レ:(なんでラルフがこんなに・・・.)


「「ヴァヴヴァヴァア゛!!」」


数が増え,自信をつけた茶色い悪魔たちは雄たけびを上げながら,一斉にレイジたちに向かって襲い掛かる.


レ:「くっ・・・おおおおーーーー!!!」


レイジが槍を構え,ラルフ達の波を迎え撃とうとしたその時──


──土壁グランドウォール!!


突如,目の前の地面が盛り上がり,巨大な土の壁がラルフ達の前に立ちはだかった.


「「ヴァッ!?」」 「「ヴァア!!?」」


ラルフ達は立ち止まることができず,堤防に遮られる津波のようにそのまま壁に激突していく.


ペ:「なっ,これは・・・.」


レ:「・・・まほうか.」


「大丈夫ですか!!みなさん!!」


レイジたちは声につられ,後ろを振り向く.

そこには,いままで敵視していた,そして今自分たちを救ってくれた彼女の姿があった.


ペ:「あ,ああ,大丈夫だ.・・・.」


レ:(あいつ・・・.)


「「ハッハッハッ・・・」」


ダ:「!!まずい.あいつら,壁の横から・・・!!」


安堵するのも束の間,体制を立て直したラルフ達が土壁の両端から姿を現し,そのままダンたちにはわき目もふらず,村の中へと駆けていく.ねらいは・・・


ダ:「!!?嬢ちゃんっ!!」


メ:(やっぱり,ラルフ達の狙いはわたしの持ってるラルフ石だ.)


現在,メリーはポケットの中にラルフ石を持っている.村長の家を出る際に,ツンから渡してもらっていたのだ.


メ:(これを彼らに放り投げれば・・・)


「「ヴァヴッ!!ヴァウアッ!!」」


ラルフ達は歯をむき出し,目を血走らせながら走ってくる.明らかに普通の状態じゃない.興奮している・・・.


メ:(・・・いや,あの様子だと,いま放り投げても大人しく帰ってくれないかも.だったら─)


中級魔法──


ボォオ・・・


メリーは魔力を集中させ,頭上に炎の塊を形成していく.見る見るうちに大きくなっていくそれは─


メ:(まずは落ち着かせる!)


業炎球ごうえんきゅう!!!


ボゥア・・・!!!


──まるで小さな太陽だった.


「ヴァヴッ!?」 「ヴァアッ!?」


火弾の何十倍もの大きさの巨大な火球.

その圧倒的な迫力と熱気は,興奮したラルフ達を震え上がらせるには十分な代物だ.


ペ:「すげぇ・・・.」


レ:「・・・っ.」


「「グ,グルルルルル・・・」」


ラルフ達はさっきまでの勢いが嘘であったかのようにその場に立ち止まり,こちらを警戒している.


メ:(よし!いまなら・・・)


メ:「ラルフッ!あなたたちの狙いはこれでしょ!」


メリーはすかさずポケットから片手で隠せるくらいの小さな石─ラルフ石を取り出し,ラルフ達に見えるように頭上に掲げる.


「!!?ヴァヴアッ!!」


メ:「返すから,もう村を襲わないで!」


そのまま,メリーはラルフ達に向かって石を放り投げた.


「ヴァヴーー!!」「ヴァウ,ヴァウヴァヴヴァヴア!」


一匹のラルフが空中に放り投げられた石を空中でキャッチすると,一度地面に落とし,尻尾を振りながら群れのみんなでその石が本物であるかどうか確かめる.そして─


「「ヴァッ!」」


確信を得たように一斉に声を出すと,石を拾い上げ,一目散に村の外へ─途中の土壁の両脇を器用に抜けながら森の方へと駆けていくのだった.








───────────────────────







メ:「治癒ヒール・・・.」


ペ:「すげぇ,傷が治っていく.・・・あんがとな嬢ちゃん.」


メ:「どういたしまして.」


一件落着したトクダ村では,メリーが傷の手当てをしていた.


メ:「・・・レイジさんとダンさんはもう大丈夫なの?」


レ:「・・・.」


レイジはメリーの声掛けに返事もせず,,槍を片手にその場を離れていく.


ダ:「ああ,もう大丈夫だ.レイジの方は・・・おい,レイジ!・・・あいつ.」


メ:(・・・やっぱり,そう簡単には心を開いてくれないよね.)


離れていくレイジの背中にメリーはちょっとだけ悲しい気持ちになるのだった.


ペ:「・・・すまねぇな.嬢ちゃん.」


メ:「えっ,・・・いいのよ,全然.」


ペ:「いや,違う.もちろんレイジのこともすまねぇと思ってるが,そのことじゃねぇんだ.・・・俺たちゃな,嬢ちゃん.さっきまであんたをどうやってこの村から消すか話し合ってたんだ.」


メ:「・・・えっ?」


メ:(こわっ.)


ペ:「それだけじゃねぇ.・・・嬢ちゃんが初めて村に来た時,酷いこと言っちまった.・・・それなのに,こんなに助けてもらって・・・ほんとすまねぇ.」


ダ:「・・・俺からもだ.すまない.ほんっと虫が良くて面目ねぇけど.本当に済まなかった.そして,村を救ってくれてほんとにありがとう.」


メ:「ペルさん,ダンさん・・・.」


メリーは感激の涙を目に浮かばせながら,顔をほころばせるのだった.




───────




レ:「・・・ちっ.・・・!!」


斜め下を向いて,メリー達から離れていたレイジの目の前に何者かの両足が立ちはだかる.顔を上げると,それは村長だった.


村:「どうじゃ,レイジ.メリーは悪い魔女ではなかったじゃろう.」


レ:「・・・っ.」


レイジはばつの悪そうに,黙って村長の脇を通っていく.


村:「・・・まったく.」


村長はそんなレイジの後姿を見ながら,小さくため息をつくのだった.








─────────────







ツ,ヤ:「「ベンさん,ダンさん・・・ごめんなざいっ」」


ペ:「ああ,きにすんな.メリーに直してもらったからもう大丈夫だしな.まぁ,子供のうちは失敗するもんだ.なぁダン?」


ダ「いやぁ,俺は危うく死にそうになったから怒鳴り散らかしたいんだけど・・・.まぁいいか,二度とすんじゃねぇぞ.」


ツ:「う゛ん.ごめんなさい・・・.」


ツ母:「『うん』じゃなくて『はい』でしょっ!」


ツ:「はい゛,ごめんなざい・・・.」


ヤ:「ごめんなさい・・・.」


ツ母:「まったく,後でレイジさんにも謝りに行きますからね!・・・友達に自慢するためにラルフ石を取ってくるなんて.今日は晩御飯もぬきですから.」


ツ:「えっ・・・,うん,ヒクッ・・・」


メ:「・・・ツンくんのお母さん.」


ツ母:「ん?メリーちゃん.・・・あのときはごめんなさい.二人を助けてもらったのにあんな態度とっちゃって・・・.」


メ:「いえ,いいの.それよりも・・・,こんなことお願いするのは筋違いかもしれないけど,ツンくんの晩御飯抜かないであげて.」


ツ:「・・・!!」


ツ母:「うーん.でもねぇ・・・.」


メ:「確かにツンくん達は今日みんなに迷惑かけちゃったけど,私をこの村に案内してくれたのは彼だから,だから・・・なんていうのかなぁ・・・.」


ツ母:「はぁ・・・そうかい,わかったよ.それじゃあ今日はメリーちゃんに免じてツンの晩御飯抜きはなしにするよ.」


ツ:「母ちゃん・・・.」


ツ母:「それはそうと,メリーちゃんは今日,村長の家に泊まるのかい?」


メ:「えっ,・・・まだ決まってはないけど,お願いしようとは思ってる.」


ツ母:「そうかい.それじゃあ,改めていうんだけど家に泊まるかい?」


メ:「えっ,いいの?」


ツ母:「もちろんだよ.今日の分しっかりお礼したいしね.」


メ:「そっか.ありがとう!それじゃあ甘えさせてもらいます!」


ツ母:「ふふっ,今日はとびっきり美味しいものを作るよ.久しぶりに腕が鳴るねぇ.」


トクダ村に一陣の風が吹く.

こうしてメリーは,村の一員としてこの村に馴染むことが出来たのであった.

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