第81話  僕はいつでもおんぶする


「先生、先生の生徒さんたちは、全員カーンの街に集めています」


 後から知ったことなんだけど、このバスガイドさん、火の国の八番目の奥さんで、火の国の二番目の奥さんの策略もあって、アンギーユ(電撃百万ボルト)に殺された人だったんだよね。


「一月後に神の庭が開きます。そこに向かえば、元の世界に戻ることが出来ますから」


 バスガイドさんはそう言うと、

「愛しているわ、貴方が来るのを待っているから」

 カリム君を抱きしめた後に、夫である火の国の王様を抱きしめてそう言うと、煙となって消えてしまったのだった。


 ここはエレメントで出来た世界だけに、力の強い人は死んだ後、神の身元で仕える事になることもあるそうなんだ。八番目の奥さん(バスガイド)は相当な力の持ち主だったから、神の御使となったのだろうと火の国の王様は言っていた。


 つまりはあれかな、力がある人は死んだ後、この世界のバランスを保つために他所の世界から人を連れてくる(誘拐する)役割を担うってことなのかな?確かに、バスには運転手さんもバスガイドさんも居なかったもんね。ということはバスの運転手さんも、神様をお手伝いする人?ああ・・考えるだけ面倒臭いやつだなこれ。


 結局、破綻の力を持つカリム王子は、お父さんだと面倒を見ることが出来ないという事で、しばらくの間は僕が預かることになったので、効率を求める僕は、人に触れられず、吸血鬼卿たちに虐待を受けまくったカリム君に対して、おんぶ紐を用意することにしたわけだ。


 僕はどんなエネルギーでも吸収してしまうことが出来るようなので、カリム君がパニックを起こしてエネルギーを爆発させたとしても、それを吸収することが出来るみたい。


 おんぶはエネルギーを吸収するのに都合が良いということもあるんだけど、彼の心のケアの一環でもある。


 赤ちゃんというのは、ただミルクを与えたり、オムツを取り替えても育つわけじゃなくて、人の体温に触れることで、人と接触を続けることによって、情動の発達を促していくことになるわけなんだよね。


 カリム君は五歳らしいのだが、お世話ができたのはお母さんだけ。そのお母さんが殺された後は、ひたすら暴力を受けることになったカリム君の心はかなり危険な状態だ。


 今まで他人との触れ合いが少ない生活を送ってきたカリム君は、母親の殺害や、吸血鬼卿からの虐待は心に大きな歪みを作るきっかけにもなった。そんなカリム君の恐怖心を和らげるために僕はいつでも近くにいて、触れ合い、抱っこして話しかけるようにしたわけだ。


 自分の子供でもないのにそれどうなの?とか、自分の子供でもないのに四六時中一緒に居るってどうなの?とか、赤の他人のおじさんが男の子を育むの、倫理的にどうなの?とか、聖女様(吉岡先生)に頼んだ方がいいんじゃないの?とか、色々な意見があるとは思うんだけど、僕は効率の悪いことはしたくない。


 今はこの子に愛情が必要だから与える。カリム君に限って言えば、普通に生活出来るだけで満足しているから、今はそれでいい。


 子供がその心に大きな傷を負った時に一番やってはいけないのが放置で、そこで対応が面倒だからとか暇がないからとかいって本気で関わらないと、その後、何年もの月日をかけて延々とフォローをし続けなければならなくなってしまうんだ。


 僕はそういうのは嫌だから、短期決戦で挑もうと思う。

 だから、たまにカーンまで来た火の国の王様が羨ましそうに見ていたって、カリムくんのおんぶをやめようとはしなかった。


 結局、夜行の死霊(レムレス)との戦いを終えた後、火の国の王様は後宮を廃止にすることに決めたらしい。夜行の死霊(レムレス)は嫉妬、妬み、憎悪、孤独、なんかに容易く取り憑くから、今まで通りの後宮の在り方では問題がありすぎると王様が言い出したんだってさ。


 そこで、自分の妃全てと離縁をすることにした王様は、王宮に残りたいと希望する自分の子供たちだけを後宮に残らせて、後継教育を始めたんだってさ。今では火の国の後宮は女の園じゃなくて、高級官僚や貴族たちの子供たちも招いた学校のような形となっているらしい。


 ちなみに、バスガイドさんが言っていた通り、光の国に移動した三十人の生徒たちは、瞬間移動みたいな感じでカーンの街に移動して来たらしいんだ。


 カーンの有名レストランと言えば『三年二組』だから、一組の生徒たちはすぐさまレストランへ向かったらしいんだけど、

「お前ら!毎日学園祭状態だったのかよー!」

と、楽しく料理を作ったり、運んでいる生徒たちを見て、怒りの声や呆れる声をあげる生徒もいたらしい。


 何でも一組の生徒たちは光の教会に預けられることになったらしく、毎日、教会の掃除をしたり、福祉活動に強制参加させられたりと、修道士みたいな生活を続けていたっていうんだよね。そりゃ、楽しいか、楽しくないかで言えば、楽しくない異世界生活になるんじゃないのかな。


 そうそう、ゾンビになった生徒たちは、阪口先生と一緒に三週間の鉱山への強制労働へと出かけることになったんだよ。なにせ、お友達の私物も勝手に売ってお金にして楽しく遊んでいたからね、借金返済のために給料の良いところで働くことになったってわけ。


 水の国にうちの生徒が集結することになったけど、三年二組の二号店だとか三号店だとかがどんどん出来て行ったものだから、生徒たちは働きに散らばっていくようになったわけ。


 とりあえず元の世界に戻るまでまだ時間があるから、それまでの間は社会科見学というか、異世界体験をしようという話になったんだ。


 ちなみに、水の国の王様の招聘を受けた僕は、カリム君をおんぶした状態で謁見の間で勲章を貰うことになったんだ。何せ世界を救ったのは僕だと、闇の国の王も、腐の国の王も、火の国の王も言ってくれたものだから、報奨金もたんまりもらう事になったんだよ。


 カーンの街があるレユニオン領のどこでも家を建てていいし、その費用は出してくれるとも言ってくれているわけ。ローンなしで家持ちになれるなんて!素晴らしい!と喜びまくったのはいうまでもない。


 ちなみに、報奨金を辞退した吉岡先生は、水の国の王様に転移陣を作ってもらって、カーンの街と腐の国の王都とを行き来出来るようにしてもらったんだ。


 吉岡先生が、色々と子供の教育なんかもおざなりになっている腐の国で、マザーテレサ並みの活躍をしようと奮起した訳では決してなくて、一目惚れした腐の国のサルマン王を落とすために日々、精進しているところなんだよ。


 元ヤンキーの吉岡先生は、すでに離婚歴二回のベテラン先生になるんだけど、吉岡先生の好みの男性って、清濁合わせ飲む、なんなら濁ばっかり飲み込んでるタイプが好きなんだよね。夜行の死霊から吉岡先生を助け出したのは腐の国の王様だったから、そこで惚れちゃったみたいなんだよねー。

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