第80話 妖精の剣と躊躇しない僕
僕は拾い上げた妖精の剣を撫で付けながら語りかけたわけだ。
「お前もなぁ、妖精の剣っていうくらいだから、エルフの郷に行った方が剣として幸せだと僕は思ったんだよ。しかもエルフのジャメルは君のこと、五百年探していたっていうんだよ?そりゃ、一度は剣だって里帰りしたいと思うじゃない?」
剣を拾った僕がそうやってぼやくと、鞘に収まった銀色の剣の機嫌が不思議と良くなったような錯覚を覚えた。
「子供ってさあ、めちゃくちゃ泣くじゃん。あれって泣きすぎると嘔吐したり、ひきつけ起こしたり大変なんだよね?僕なんか教育実習では地元の小学校に行っていて、しかもピカピカの一年生が通う教室だったんだよね。その中に毎日一回はギャン泣きしまくる子がいてさあ、本当に、対応には悩まされたことがあるんだよね」
その小学一年生の子は親が離婚したとか何とかで、お父さんが引き取って育てることになったらしいんだけど、お父さん仕事が大変だし、精神的ケアもなかなか出来なくて、子供の心は疲弊しまくっていたんだよね。それで、教育実習生の僕は、その子担当みたいになっちゃって、僕が世話をすると、周りの生徒も世話をするようになって、良い相乗効果が生まれたわけ。とにかく、子供は泣きすぎるとゲロを吐いて、後の処置が大変なわけだよ。
「えーっと、お子さんの名前は何て言うんですっけ?」
「カリムです」
「そっかぁ、バスガイドさん、日本人じゃないんだもんなぁ」
バスに乗る時には、黒髪黒瞳にしか見えなかったけれど、今、この世界で見れば、黒髪だけど瞳が真紅だもんね。異世界カラーが爆発しているわ。
「カリムくーん!お母さんに頼まれて先生が来ましたぁ〜。カリムくんが泣いているとお母さん、心配で心配で仕方がないんですって!」
魑魅魍魎で作られた鎖を妖精の剣でバッサバッサ切りながら、泣いて泣いて仕方がない赤毛の男の子の頭を撫でながら僕は話しかけた。
「お父さん〜、お母さんがいらっしゃってます〜。うちの世界の完全なるバスガイドの格好をしていますが、おそらくあなたの妻だと思います〜」
最後の太い鎖を断ち切ると、男の子が顔を上げて、
「ママ?ママなの?」
と、声を上げている。
「ママよ、カリムのママよ」
バスガイドさんは子供と夫を丸ごと抱きしめると、シクシクシクシク泣き出した。コスプレ感丸出しの格好が恥ずかしかったのだろうか。
剣が僕に語りかける。
そう、言葉にするわけじゃないんだけど、語りかけているのは良くわかる。
「バスガイドの格好云々については触れないであげて欲しいって?別にいいじゃない!似合っているんだからさ!」
そう言いながら地面に向かって剣を突き刺すと、そこから滲み出るようにして吸血鬼のレオニート君が現れた。見かけはレオニート君だけど、彼が思念体だということを僕はすでに知っている。
「神玉」
ボールを投げつけると、レオニート君はあっという間に神の糸に拘束された。
「拘束強め、外さないで」
神の糸にそう告げながら、レオニート君の額に手を触れた。
「吸引」
僕がそう唱えるなり、悍ましい力が僕の中へと入り込んでくる。これこそが、夜行の死霊の核の力。今まで吸引した吸血鬼卿なんて比較にならないほどの悪意の塊。その塊をある程度吸収したところで、妖精の剣を使って首を切断。
英雄王の首を切断した時には本当に苦労したけれど、最後のこれは簡単に断ち切れて、割れた漆黒の宝玉も足で踏み潰して霧散させた。
「ステータスオープン」
西山康太郎 (30歳)
LV 612
HP 4623
MP 89**6*7**
教師レベル 72
効率を求める教師 ・ いつでも何処かに逃げ出したい ・ 彼女募集中 ・ 男とキスはしたくない ・ プリンアラモードが食べたい ・ クーラーがある国に移動したい
・ もう戦いたくない ・ 綺麗なお嫁さんが欲しい
称号 ・三年二組の担任教師 ・隠れた武闘派 ・導く者 ・ゴブリン千人斬り ・英雄王(ゴブリンキング)の討伐者 ・吸血鬼卿(バンパイヤロード)の討伐者 ・ 夜行の死霊を消滅させる者 ・仲間を助ける者 ・ 国を守る者 ・ 破綻の力の救済者
GIFT 効率の良い攻撃 (LV 45) 吸引魔法 (LV 62) 付与魔法 (LV 28)
貫通攻撃(ドド○破を含む・ 十発同時発射 ・連続発射 ・大砲発射) 神の針 (上位種を貫くことが可能、刺したまま上空に移動可能) 神の糸 (下位であれば切断可能、上位種の拘束可能 丸めると神玉となる) 神の檻 (施行者の怒りの度合いによって強度に変化あり) new 神の柱 (神の糸の上位互換 降臨によって相手を貫き拘束できる)new 神の壁 (神の柱の複数降臨によって防衛の壁とする。思いの強さによって強度に差があり)
神力の付与(妖精の剣(エクスパンシーヴァ)()のみ力の付与が可能) new 武具召喚 (妖精の剣を自分の意思によって召喚可能)
「マジか・・・」
あまりの情報の多さに、僕がその場で倒れ込むと、
「先生〜」
赤毛の幼子が倒れた僕に飛びついてきた。
何故、僕のところに飛びついて来るんだ?ご両親のところで甘えていたらいいじゃないか?
「先生、申し訳ないのですが、この子のことを宜しくお願いします」
上から僕の顔を覗き込んできたバスガイドさんはあっさりとそう言うと、真っ赤な髪の毛の男の人と抱き合っている。
ラブシーンは他所でやってほしいし、そして自分の子供を僕に任せるのはやめて欲しい。
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