第47話 闇の王
エレメントによって国が分かれているこの世界では、光の国もあれば闇の国も存在する。闇の国は遥か北に位置している為、地上部分でも一年の半分は日が全く昇らない極夜を過ごすことになる。極寒の地でもある為、地下に巨大都市を形成し、地熱エネルギーを利用しているため快適に暮らす事が出来るのだ。
光の国は遥か南に位置しており、一年の半分が一日中日が昇った状態となる白夜を過ごす事となるため、紫外線によるシミシワ対策が欠かせない。
最近、光の国を訪れる観光客が増えているという事もあって、闇の国で輸出しているサングラスや、ミネラルたっぷりの泥を使った泥パック、絶対に肌が焼けない日焼け止めなどの輸出量が目に見えて伸びているのだ。
闇の国の王ドゥンケルは、高額で売買されるサングラスの売上の伸びを見て一人ほくそ笑んでいたのだが、次に取り上げた報告書を確認した後、苦虫を噛み潰したような顔付きとなって秘書のテムリヤバを呼んだ。
闇の国の王は代替わりをしたばかりという事もあって、今は年若い王が玉座に就いている。闇の王ドゥンケルは白皙の美貌の持ち主で、膨大な闇の魔力を顕す漆黒の髪と金の瞳を持っていた。闇の王というだけあって闇の中が大好きで、布団の中で惰眠を貪ることが世界で一番好きだ。
秘書のテムリヤバはメガネをかけた巨乳の美人で、見た目からして敏腕秘書に見えるのだが、実際かなり有能な為、ドゥンケルは重宝しているのだった。
「ねえ、ねえ、黒髪の異邦人が六十人近くも転移してきたっていうんだけど、それって本当なわけ?」
「はい、火の国に三十一人、水の国に三十一人、現れたという報告を受けています」
この世界では、黒髪は闇属性にしか現れないし、黒髪は膨大な魔力を持つものと誤解される事が多いため、誘拐されることが多いし、奴隷として売買されることも多い。
闇の国としては、黒髪の保護を率先して行なっているのだが、それが六十名ともなると色々と面倒なのは間違いない。
「早速、吸血鬼卿のロザミアが水の国に襲撃をかけようとしたようですが、異邦人(エトランジェ)の一人に撃退されたみたいですね」
「うっそー!ロザミア倒されちゃったのぉ!倒したそいつ、結構すごい奴なんじゃないのかなぁ?」
吸血鬼一族は吸血鬼王(バンパイヤキング)アダルブレヒトをトップとして八人の吸血鬼卿(バンパイヤロード)が王を支えている。その中の一人であるロザミアは八人の中で一番残虐性が高く、最近では取り出した子宮のみを利用した胎児の育成にトライしていることもあって、数多の誘拐に手を染めているのだ。
「そもそもロザミアの所為で誘拐が増えて、その残虐な行為に怒り狂った水の国の姫がうちの国にやって来て、吸血鬼どもが返り討ちにしちゃったものだから、国際問題に発展したわけだよね?」
闇の王ドゥンケルにとって、吸血鬼一族は獅子心中の虫と成り果てた。今すぐにでも駆除してしまいたいと思ってはいるのだが、彼らは血の継承行為によって仲間を増やすから、その数が増え過ぎていて対処するのが面倒臭い。
バッと全滅させるのは簡単だけれど、簡単な分、国の半分近くが崩壊するだろう。国の半分近くが崩壊すれば後処理が大変なのは間違いなく、後処理が大変になると睡眠時間を削られることになる。
闇の王ドゥンケルは睡眠時間を削られるのが何よりも嫌いなのだった。
「はあ、全く奴らにも困ったものだよ。この前、説教したからちょっとは大人しくなったようだけど、これ以上、問題を起こすようだったら光の国に強制送還してやろうかな」
闇の国には、体の仕組み上、光に耐えられない生物が多く住み暮らしている。
紫外線によるアレルギーや極度の拒絶反応が出るものが多く、日が一切差さないオプスキュリテの地下都市は彼らにとって安寧の地となるのだった。
この闇の国で最も残酷な刑が光の国への強制送還であり、一日中、太陽の光を浴びながら、皮膚を焼き爛れさせ、死ぬまで磔状態となる。この刑を執行するには、移送のコストが高過ぎるという事もあって、滅多に行われない刑なのだ。
ちなみに光の国の最も残酷な刑は闇の国への強制送還であり、太陽が一切差さない地中深くへと送り込まれ、マグマが噴き出る穴の上に、鎖でぐるぐる巻きとなって絶命するまで吊るされる。
こちらも移送コストがかかりすぎるので、滅多に執行されることがないのだが、マグマの上に吊るされることよりも、太陽の光が一編たりとも差さない場所に送り込まれる恐怖の方が大きいらしい。
「おそらくロザミアの襲撃に関わる内容だと思うのですが、水の国ブルージュの国王セザール3世からお手紙が届いております」
「また嫌味の連打になっているんじゃないのぉ?」
闇の国というだけで毛嫌いされがちなオプスキュリテに対して寛容な立場を貫いてきた水の国ブルージュも、妹姫の殺害以降は、国交断絶状態となっている。
そのセザール3世から送られた手紙を読んだドゥンケルは、同封されていた『この人』からの手紙にも目を通すと、思わず大きなため息を吐き出した。
「テムリヤバ、どうやら吸血鬼一族は、破綻の力を手に入れて、世界を吸血鬼の世界にするつもりのようだよ」
「はあ?破綻の力ですか?」
この世界は各種エレメントの力によってバランスを保っているのだが、それを根底から覆すのが破綻の力と言われている。
世界を一度破滅させてから、エレメントには関わらない、自分たちの都合の良い世界を再建させるというのが、この世界に転移してきた異邦人(エトランジェ)たちの野望でもあるのだ。
「どうします?奴らを今すぐ殲滅しますか?遂にご決意されるようであれば、住民の避難を開始させますけれど」
「国の半分を壊すよりも、もっと効率の良い方法があるみたいだよ」
闇の王は早速、セザール3世と『この人』宛てにしたためた手紙を最速で送るように命じると、秘書のテムリヤバと幾つかの打ち合わせを行った。
「本当にうまくいきますかね?」
半信半疑のテムリヤバの凛とした顔を見上げた闇の王は、
「さあねぇ?」
小首を傾げながら、金の瞳を伏せた。
「うまくいかなかった時には僕が直接出るから、それでいいんじゃない?」
と、呑気な調子でそう言うと、
「まあ、そんなわけで仮眠してきまーす」
と言って、膝の上に乗せていた枕を抱えて仮眠室へと移動したのだった。
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