第46話  教師はこうやって追い詰められる

「吸血鬼王(バンパイヤキング)は、先生の事をめちゃくちゃ恨んでいるのネ〜」


 えーっと、えーっと、確かに僕は、吸血鬼卿(バンパイヤロード)とそのお付きの者を倒しているけれども。


「アレですか?側近を倒された恨みみたいた奴ですか?それともあの美人の吸血鬼卿(バンパイヤロード)は吸血鬼王の愛人だったとか、愛される者を殺された恨みとか、そういった怨恨を向けられているとか、そういうことですか?」


「愛人といえば、お付きの者の方が吸血鬼王の愛人だったのネ」

「えっと・・ということは、吸血鬼の王様って女性って事ですか?」

「男属性なのネ」


「えーっと、王様だから女性にモテまくり過ぎて、すぐに落ちる女相手じゃ面白くねえとか言い出して、落とすのが難しい男属性に走っちゃったとか、そういう事になるんでしょうかね?」


「元々、吸血鬼は男女で子供を作ることをほとんどしないのネ。本当に、子供を作るのはマレな種族で、血の継承行為によって一族を増やしていくしネ。やっぱりそれだと力が弱い者ばかりが増える結果となってしまうから、交配によって種族を増やす方が良いんだけど、今の吸血鬼王は女が受け付けられないのネ」


 えーっと・・・


「そんな訳で、産み腹を用意して種付けをすれば良いだけとなっても、母体の中で自分の子が育つというのが到底許されないと王は言うのね。だから、吸血鬼の間では子宮だけ取り出して、そこに種付けして子供を作るという研究が行われているのネ」


 えーっと・・・


「吸血鬼王はお気に入りの子を吸血鬼卿に預けて、一人前の吸血鬼卿に育てようとしていたところ、まんまと先生が殺してしまったのネ。しかも、カーンの街を襲って大量の子宮をゲットするはずが、まんまと先生に邪魔されてしまったのネ。怒り心頭の吸血鬼王はあらゆる手段を使ってでも先生を暗殺しようと企んだけど、そこに待ったをかけたのが水の国であるブルージュ王国の王様なのね」


 え?ブルージュ王国の王様といえばセザール3世のことで、小太りの人の良さそうなおっちゃんにしか見えなかったんだけども?あの王様が何とかしてくれたの?


「吸血鬼王は闇のエレメントの国を棲家としているのネ。闇の国、オプスキュリテの王にセザール3世は掛け合ってくれたのネ。そもそも、吸血鬼王がセレーネを殺した時点で、セザール3世は怒り心頭状態だったから、吸血鬼一族をオプスキュリテから排除しろと強硬に主張していたのネ〜」


「つまりは、直接僕に手出しが出来ないから、火の国に移動した異邦人を嫌がらせ目的でターゲットにしたって事ですか?」


「間違いなくそうなのネ」


 この人さんはため息を吐き出すと、窓の外を眺めながら言い出した。


「先生の所為で目をつけられた生徒さんたちは、子宮をくり抜かれ、内臓を引き抜かれ、嗜好品として瓶詰めにされて販売される事になるのネ。奴ら、内臓を引き抜いても生き続ける下法を開発したとか何とか噂にも聞いているネ。生徒たちは殺してくれと懇願するような目に何度も先生の所為(・・・・・)で遭うことになるのネ」


「言い方!言い方!」


「まあ、先生が僕とは関係ないネ〜と言うのなら、そうなんでしょうネ。後味悪いな〜と思わないでもないけどネ、それで良いと先生が言うのならいいのネ」


「言い方!その言い方はやめてくださいよ!」

「だって先生、オークション会場に行かないんでしょう?」

「・・・・」

「死ぬよりも酷い目に遭う子供たちを見捨てる気でしょうしネ」

「この人さん!その言い方やめて!」


 僕は自分の髪の毛をぐちゃぐちゃになるまでかき混ぜ続けた。

 僕の頭の中で、校長先生、教頭先生、教育委員会、保護者各位が回り出す。

 彼らは物すごい顔で僕を睨みつけながら、

「お前の所為だ!お前の所為だ!」

と言っている!


「ああーー!わかった!わかりました!行けばいいんでしょう!」

「さすが先生なのネ!慈悲と慈愛の心が海のように広くて深い男なのネ!」

 この人さんはパチパチパチと手を叩いた。


「実は先生が倒したアンギーユ(百万ボルトのウナギ野郎)は、吸血鬼王と繋がっていたのネ。アンギーユはギュイヤンヌ公国の第八夫人を殺してその息子を誘拐した訳だけれど、その息子が吸血鬼王の元に居るという事が分かったのネ」


「はい?」


「第八夫人はこの世界でも珍しいほどの膨大な魔力を有していたんだけどネ、その息子はそれ以上だというのは有名な話だったのネ。闇の国、オプスキュリテの王と諍いがあってからというもの、吸血鬼王は世界征服を目論むようになったのネ。王子の力を使って、このエレメントの世界を吸血鬼の世界にしようと企んでいるのネ」


「急に世界征服とか言わないでくださいよ。そんな厨二案件みたいな内容、僕は嫌いだな」


「雲隠れして捕まえるのが難しい吸血鬼王をふん捕まえて、王子を取り返す必要があるからネ、先生には生徒を助けるのもそうだけど、王子も助けて欲しいのネ」


「え・・無理です」

「無理じゃないでしょ?」

「無理です・・僕みたいな地方公務員にはとても、とても、世界を救うような案件は無理中の無理です。行くのはやめます」

「絶界級が何を言うやら」

「いやいや、その絶界級って言うの、いい加減やめてくれません?僕は『あの人』じゃないんですからね?」


 絶対に嫌だ!絶対に嫌だ!

 嫌な予感しかしないよ!


「先生!助けてください!」

「残っているのはイケイケグループだけじゃないんです!」

「逃げ遅れちゃった子とかも居るのは確かで!」

「殺されるなんてダメですよ!先生!助けて!」


 厨房から飛び出して来たのは三年三組の生徒達で、その後ろには二組の子も大勢いる。

 皿に載せたショートケーキをもぐもぐ食べていたアロイジウスさんが、

「この人さん、先生が行くなら俺も一緒に行こうかな〜」

と、言い出した。


 そういえば今日は、遂に完成したショートケーキをみんなで試食する日だったのか・・・


「先生!バレー部の子もまだルーベの街に残っているんです」

「テニス部の子も!」

「陸上部の子も居るんです!」


 僕のテーブルにイチゴのショートケーキと紅茶を並べた生徒たちが、僕の顔を覗き込みながら言い出した。


「先生!助けて!」

「先生なら出来るでしょ!」

「先生!」

「「「「先生!」」」


 何故、こいつらは僕にお願いするのだろうか?

 筋骨隆々でもない僕が、吸血鬼王を相手にして、何処までも善戦すると思っているのだろうか?出たよ、先生なら何でも出来るでしょ?みたいな感じで、全てを丸ごと押し付ける奴。


 僕の頭の中に、校長先生、教頭先生、教育委員会、保護者各位が回り出す。


「生徒に聞きましたよ!先生は結局見捨てたんですね!」

「見損ないました!」

「生徒が危機に瀕していると言うのに、助けにも行かないなんてどうかしています!」


「わーーっかりました!わかりました!とりあえず、どんな状況になっているのか分からないので、先生が直接行って確認してきます!」


 生徒がうるうるした眼差しで僕を見つめてくる、確認だけじゃ駄目だと言いたいんだよね!

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