第45話  吸血鬼王?嘘でしょ?

 異世界転移してバスが移動した草原で、右と左に分かれて移動する事になった僕らだけど、水の国にあるカーンという街と火の国にあるルーベという街は、簡単に言えば、大陸の北端と南端というほどに離れた場所に位置している。


 国土の約三分の一が山岳地帯と言われるブルージュ王国と、国土の半分近くが砂漠だと言われるギュイヤンヌ公国。三年三組の生徒が言うところによると、民度も大分違うらしい。


 水のエレメントの特性を持つ王国は、ゆったりと流れる水のような寛容さを持つ国民性であり、理不尽に対して怒る時には集団となって行動をとることから、一揆みたいな感じで暴動に発展することが多いらしい。


 火のエレメントの特性を持つ公国は実力主義のようなところがあるらしく、強い者こそが正義であり、強い者が弱き者を助け守る!みたいな信義が根底にあるからこそ、坂本先生はアレだったけれど、それなりに生活をする事は出来たみたいなんだ。


 沸点が低い国民性という事もあって、どんどんと傍若無人になっていく坂本先生が、冒険者との諍いを起こすようになっていったのも自然の摂理かもしれないね。


「俺が生徒を守る!」


 みたいな事を言いながらも、好き勝手やった末に、人相の悪い人たちが異邦人用の宿舎の周りに現れるようになった為、身の危険を感じた生徒たちが移動を決意する事になったらしい。


 カーンの街とルーベの街とは大陸の端と端に位置しているほど距離が離れているわけだけれど、バスが停車していたあの草原を使えば一日で移動が可能という事になる。

 三年三組の生徒たちも、こちらの地理については知らないような状況だった為、バスまで戻れば、三年二組を追うことが出来るだろうと考えて行動に出たという。


 元の道を戻ってバスが停車した場所に到着し、そこから東に移動をして森を抜けたところにカーンの街があったというわけだ。


 こちらの生活の方が安全で安心できると考えた生徒たちは、他の生徒たちも呼んで来ようと考えて再び森に戻ったらしいんだけど、いくら歩いてみたところでバスがある草原に辿り着くことは出来なかったそうだ。


 考えるに、バスが停車していたカルスト平原はこことは隔離された世界にあるんじゃないのかな?一回のみ行き来が出来るけど二回目は入る事すら出来なくて、次にあそこに行くのは元の世界に戻る時っていう事になるんじゃないのかな。


「それじゃあ阪口先生は、ギャンブルで失敗して多額の借金を抱えることになって、その返済のために残っていた生徒を売り渡したっていう事になるんですよね?」


「ルーベの冒険者ギルドからの報告によるとそうなのネ。先生の同僚さんは、あっという間にBランクに昇格した事で自信を持っちゃったみたいでネ〜、他の冒険者たちと諍いを起こすは、喧嘩を売るわ買うわで評判が悪かったみたいなのネ。まあ、誘拐されそうになった女の子たちを頑なに守り続けたのは評価されていたけれど、最後に奴隷として売っているんだからどうしようもないのネ」


「賭け事で借金かー〜」

「美人に引っかかってついていったのが運の尽きなのネ、そもそもその美人も仕掛けだし、連れて行かれたのも闇カジノだから、完全に嵌められているのネ〜」


 僕は珈琲を飲みながら考えた。

 これ、僕が出て行かなくちゃいけないような案件になるのかな?


 夕方頃になると、夕食を早めに取ってしまおうと考える食事メニュー目的の客が結構な数訪れる事になるんだけど、カフェタイムとなる今の時間帯は、結構、お客さんも落ち着いているので、生徒たちは休憩時間を取ることになり、地元住民がウェイトレスやウェイターとして入る形になっている。


 実はこのカフェレストラン『三年二組』は開店して二ヶ月しかたっていないというのに、二号店、三号店の出店計画が密かに進んでいるわけだ。

 今、石原さんの元で修行をしている料理人やパティシエたちが、新しい店舗で働く予定で居るんだけど、ウェイトレスやウェイターに入っている人たちも修行中という事になる。


 もちろん、現地の人にも生徒たちにもお給料を払っているので、みんなが生き生きと働いているわけだけど、今、この時間帯は、この店には現地の人しか居ないようなものなのだ。


 僕は珈琲を飲みながら言い出した。

「まあ、仕方がない事ですよね。運がなかったんですよ!」


 阪口先生はハニートラップを食らって借金まみれになり、そうして、阪口先生の下で甘い汁を吸い続けていた生徒が売られてしまったわけだもんね。

 そもそも、隣のクラスの事だもんね?僕、関係ないよね〜?


「ここで僕は、日本人が大好きな『自己責任』を主張しますよ。自分のやった事には自分で責任を取らないとね!仕方ない!仕方ない!」


 目の前の席に座る、相変わらずお洒落スタイルのこの人さんが、細い目を更に細めて、へー!みたいな表情で僕を見ている。


「僕ったらすでに三年三組の生徒を十八人も面倒見ているんですよね!僕は充分過ぎるほどに働いていますよ!こんな僕に対して、流石に校長先生、教頭先生、教育委員会、保護者各位も文句は言わないでしょ〜!」


 この人さんは、コーヒーカップの中身をスプーンでぐるぐる掻きまぜている。


「阪口先生ったら、こっちに来て早々冒険者ランクBランクの強者なんでしょう!彼がきっと自分で何とかするでしょう!」


「その阪口先生とやらは、生徒が一人も居なくなったという事もあって、闇カジノの用心棒になったみたいネ〜」


 思わず飲んでいた珈琲を吹き出してしまうと、夜のギルドでも働いていて、昼間はここでアルバイトをしている猫耳お姉さんが、甲斐甲斐しく台布巾を使って、僕と机周りを拭いている。


 何故!台布巾で口周りを拭くのかな!台布巾ってテーブルを拭くものであって、顔周りを拭くものではないはずなのだが!なんだか、そこはかとなく生臭いんだけども!


「先生、大丈夫ニャンか?」

「うん、大丈夫ニャン」


 巨乳で猫耳は何でも許されるんだな。

 そんな事を考えながら、厨房に戻っていく猫耳ウェイトレスを見送っていると、この人さんがスプーンをソーサーの上に置きながら言い出した。


「それでネ〜、さんねんさんくみの生徒さんたちは、リヤドナのオークションで売りに出される予定なんだけどネ〜、その売りに出される人族目当てに吸血鬼王(バンパイヤキング)がやって来ると言われているのネ」


 吸血鬼王(バンパイヤキング)?何故?吸血鬼王(バンパイヤキング)が出て来るのかな?

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