第五章 いや、僕は関係ないでしょう
第44話 僕の生徒たちは凄すぎる
不本意ながら『あの人』候補となった僕は、王都や領都を行ったり来たりするようになったんだけど、今の国王の妹姫であるセレーナ姫(先代あの人)の信奉者が多くって、突然異世界からやって来た異邦人(エトランジェ)なんてお呼びじゃない!みたいな事になっちゃったんだよね。
僕としては『あの人』なんてなりたくないし、この人さんも、
「別に無理になる必要はまったく無いのネ〜」
と言うし、褒賞(なんか良く分からないメダル)だけ貰って帰ることになったんだけど、レユニオン領の領主であるエドガール様(水色の髪に翡翠色の瞳をしたイケメン)に捕まっちゃったんだよね。
「魔法が使えない魔獣が増えているのは間違いない事実ゆえ、あなたが考えた戦闘方法を是非ともご教授頂きたい!」
なんて言い出して、結構な金額を提示されたわけ。
僕なりにどうやったら、魔法が効かない英雄王レベルを殺せるかって事で考える事になったんだよね。
オフリド湖群と呼ばれる無数の湖と森に囲まれた領地ゆえに、他の地方と比べても魔獣が多く出る土地ではあるんだけど、最近、その中に、魔法が効かない突然変異が生まれているって言うんだよね。
そんな訳で、領都とカーンの街を行ったり来たりする生活が始まったんだけど、そうしている間に、ポロポロポロポロ、三年三組の子たちがやって来るようになったわけ。
中にはカーンの宿舎に到着するのと同時に泣き出しちゃうような子とかも居たんだけど、坂口先生ときたら、乃木あやみ方式で、気に入った子を連れて冒険には行くけど、クラスでモブ系の子には自分たちの世話を押し付けるようなことをしちゃっていたみたいなんだよね。
修学旅行中だった僕らのバスは、知らぬまに草原に移動して異世界転移を果たしていた訳だけど、坂口先生たち三年三組はルーベという火の国の街へ移動して、僕ら三年二組はカーンという水の街へと移動したんだよね。
異邦人は保護するという事で各国共に条約みたいなものを作っているので、ルーベの街に移動した三年三組のメンバーも、僕たちと同じように宿舎に案内される事になったらしい。
それから、
「今日から俺は冒険王になる!」
と、言ったのかどうかは分からんけれど、イキリたつヒャッハーグループを引き連れて阪口先生は冒険者ギルドに向かったらしいんだ。
いつ元の世界に帰ることになるか分からない僕としては、第一に思い浮かぶのが『受験』だよ。本来なら、修学旅行から帰った翌週には学力診断テストを実施する予定でいたし、学力診断テストを行なった二週間後には定期テストを実施する予定でいるんだから。
一学期、二学期の試験の結果が重要になって来るのは間違いないわけで、そこでガタンと成績が下がるような事にでもなれば大変なことになる。
「異世界転移していたんで仕方がないんです〜」
なんて言い訳が通用しないのは目に見えているもの。
幸いにもクラス委員長の中村が、ラフティング教室での待ち時間で目を通せるようにと考えて、数冊の問題集をリュックに入れていたんだよね。
その問題集を使って、夜になると生徒全員で勉強会を始めた訳だけど、意外にもみんな勉強については積極的に取り組んでいたんだよね。
細かいところが分からない子には積極的に分かる子が教えたりしていたので、とても良い相乗効果をもたらしていたんだけど、阪口先生のところではそれもやらんかったらしい。
そのうち、夜になると先生に呼ばれた女子生徒たちが、お酒を飲む先生にお酌とかさせられていたらしい。流石に、セクハラめいた行動は起こさなかったようだが、
「本当に!本当に気持ち悪かったんです〜!」
と言って泣き出す子が居たから、完全にアウトだろう。
阪口先生は、校長先生、教頭先生、教育委員会、保護者各位が怖くないのだろうか?
絶対に元の世界に戻った時に、教師はどういった対応を取っていたのかって事で追及されることになるのに、脳筋だからそんなことも察することが出来なかったのかな?
「本当に!本当に!最初から三年二組についていけば良かった!」
「本当ですよ!」
「西山先生にどこまでもついていきます!」
三年三組の生徒は感無量となっていたけれど、いやいや、どこまでも付いてこなくて良いから。
生徒の私物は全て管理すると言われて取り上げられてしまった生徒たちは無一文でカーンの街までやって来たのだ。まずは無一文の生徒に二千ミウを渡して身の回りの物を揃えるように言ったところ、僕の後に後光が差して見えたって言うんだからよっぽどだよ。
そうして阪口先生のお気に入りの生徒以外の生徒、約十八人が僕の所へやって来たんだけど、僕の所としては特に問題はなかったんだよね。
ブランシェさんやこの人さんの協力を仰いで、生徒たちが言うところの飯テロを展開。氷の国に帰る予定だったアロイジウスさんが、
「いやいや、まだこの地方は魔物も発生して危ないから!」
とか何とか言いながら、ご飯目当てで滞在中。
異世界食堂『三年二組』は、開店した当日から満員御礼状態となり、長蛇の列が出来る事になったわけ。
とにかく、料理の鉄人と言われる厨房班班長の石原芽美が凄かった。
彼女はなんと!鰻を目打ちして固定したうえで器用に捌き、捌いた鰻を串打ちをした上で、炭火で器用に焼くことが出来るのだ。
自作のタレがこれまた絶品で、中学生なのに、鰻の串うち三年裂き八年の習得に時間がかかると言われる蒲焼の行程ができるってどいう事?と驚愕する事態となるのだが、
「お父さんが川で釣って来るのでネットで調べて覚えたんです」
なんだってさ!
元々、この地方は川が多いから、鰻を捕まえて食べる習慣はあったんだけど、ぶつ切りにして煮込むだけだから精力は付くけど物凄く美味しくない料理として認識されていたわけ。
それを石原さんがふわふわの鰻の蒲焼にしたものだから、地域住民の目から鱗状態になったのは言うまでもない。
何せ、石原さんの元には地元の料理人が五人ほど弟子入りしているんだからさ、マジで凄い事になっちゃっているんだよね。
と言うことでカフェレストラン『三年二組』は男性向けの料理として鰻丼、豚丼と、女性向けのサラダたっぷりワンプレートメニューが用意されるようになったわけ。
厨房班の男子二人がケーキ作りに邁進したものだから、チーズケーキ、今が旬のブルベリータルト、ふわふわのシフォンケーキがカフェタイムには登場する。領都からパティシエが三人ほど弟子入り志願でやって来ているんだから脱帽だよ。
もちろん、併設の託児所も連日大盛況で、生徒たちが自作した知育玩具を見つけたこの人さんが、
「先生、これは王都で売れますネ〜」
と、細い目をギラギラ光らせながら言い出した。
知育玩具の方は、領主のエドガール様主導の元、工場が作られる事になっているんだけど、そこに来ての・・・
「先生、先生の学校の生徒たちが奴隷として販売されることが決定されたのネ〜」
と言いだすこの人さん、つまりはどういうこと?
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