第43話 番外編 西山康太郎の場合
異世界転移した当日に魚くんたちに出会い、異世界転移した三日目に、ゴブリン千人斬りをしてからの、英雄王(ゴブリンキング)、吸血鬼卿(バンパイヤロード)を討伐した後に僕は思ったね。
「僕一人で生徒を守り切るなんて、これ無理じゃなーーい?」
ってさ。
バスがよく分からん草原に到着した時に、
「これが異世界転移?これから俺の冒険が始まるぞ!ヒャッハーッ!」
と叫んで、こっちが現状把握など全く出来ていないうちに逃げ出してくれれば、僕だって、
「異世界転移しちゃったんだから、仕方がないよね」
って言えるよね。
だけど、完全に生活のベースが出来た状態で、
「先生なんかについていけない!もうこんな生活はイヤ!」
なんて理由で逃げ出された暁には、
「先生はどういうつもりで生徒たちを保護していたんですか?」
「急に環境が変わったんですよ?子供たちのストレスを理解出来なかったんですか?」
「生徒への配慮が足りなさすぎたんじゃないんですか?」
なんていうことを、校長先生、教頭先生、教育委員会、保護者各位に、頭ごなしに言われることになるだろう。
そもそも、この世界、人族は狙われやすいんだって!
僕、一人で生徒三十人を守り切るのは無理だって!
まずは久我俊幸についてだけど、僕の対応は間違っていないと思う!
「こんな生活もう嫌だ!死んでやるー!」
こんなことを、ほぼ毎日やっていた訳だからね?面倒見切れないって!
彼の安全を確保する為の隔離処置が必要でしょう?
船員として雇われる事になった久我は、周り全員が異世界人という中で、こともあろうに『死んでやる詐欺』を実施したようなのだが、
「だったら死ねばいいんじゃない?」
と言って、川の中に頭を突っ込まれる事になったらしい。
この人さんは濁した言い方をしていたけれど、実際に久我は一度、魔獣に襲われて死にかけていたらしい。
「だけど最終的には死んでないネ〜!」
と、はしゃいだ感じで言っていたけれど、これ、本当にかなりまずい所まで行ったんじゃないかな。
死にかけて以降、久我は生まれ変わったように真面目に船員として働き出したらしく、
「結果オーライネ〜!」
と、この人さんがはしゃいだように言うけど、これってバレたら間違いなく怒られる案件だよね?
冒険班所属の四人組についてだけど、薬草採取を辞めた時点で、お金の為に自分の私物を売るだろうなとは思ったわけ。
とにかく遊ぶ金欲しさに、何をやらかすか分からないところがあったから、ジャメルとマチューを使って、夜の冒険者ギルドだったら安心安全に高値で売れるよっていう情報を流す事にしたわけだ。
早速、罰金を食らった夜に売りに行くんだから浅はかだよね〜。
この人さんが所有するバーでぼったくり金額を設定して貰うことで、四人の生徒に多額の借金を作り出した僕は、赤平と槙を船の船員として働いてもらう事にして、乃木と小芝の二人の女子については、
「ああいうのは碌でもない男しか引っ掛けないだろうしネ〜、この際ネ、娼館に入れてしまった方が安全が確保されるのネ〜」
と、この人さんが言い出した。
これは学校側にバレたら間違いなく怒られる案件だけど、体を売るとかじゃなくて、売れっ子お姉さんたちの専属メイドとして働くということであれば問題なかろうと思い込む事にした。
「ちょうどいい高級娼館があるのネ〜、貴婦人(最高級の娼婦)しか置かない店だから、小娘どもは相手にもされないから安全なのネ〜」
領都に行ったついでに、その娼館に顔を出したんだけど、
「この人さんから話を聞いているネ〜ン、鼻っ柱が高い小娘の再教育だと聞いているへ〜ン。何処に出してもおかしくないメイドに教育するヘーン、そこら辺はお任せあれネ〜ン」
と、カエルの大将が言い出した。
結局、頑なに、自分がやりたくないことはやらないと主張の乃木は、森に住む魔女のところに丁稚奉公に行く事になったらしい。
このお婆さん、鬼の教官と恐れられるほどのマナーの達人らしいから、乃木も淑女の鑑となって帰ってくる事になるだろう。
世間に合わせられなくて、密かに疲弊し続けていた小芝充希は王都行きが決定した。
多種多様なお姉さんたちが接待するお店で自分自身を取り戻したようだし、好奇心旺盛な小芝だったら、歴史家でもあるブルクハルトさんの元で、彼女自身の個性を生かした働き方が出来るだろう。
画一的な指導方法、はみ出す事が悪だと洗脳するような日本の教育の中で、家の中でも学校の中でも自分の居場所を見失った小芝は、さぞや生きづらかっただろうと思うもの。
ここでは疑問に思う事に眉を顰められることもないし、ゆったりと時間が流れているから、自分が不可思議に思った事に対して、とことんまで突き詰めて考える事ができるはず。
ネットで調べれば簡単じゃ〜ん!と、言い出す人もいるだろうが、小芝の場合、ただ開示された情報を読み込んで納得するようなタイプではないのだ。
段階を踏んで、順々に考えをまとめていって、最後に自分の疑問を解消する。これに付き合い切れる親が居れば、上手い方向に彼女は進むことが出来ただろうけど、その親の関心は別の誰かへと向かっているのだから仕方がない。
引退して暇なブルクハルトさんに心ゆくまで付き合ってもらうがいいさ。
槙と赤平は、魔法の鑑定を受けるために、必死に働いてお金を貯めているんだってさ。レベルを上げればステイタス画面が開けるから鑑定とか必要ないんじゃないの?なんて僕なんかは思うんだけど、本人たちが真面目にやっているならそれで良いって事だろうね。
問題児をこの人さんに丸投げしちゃっている間も、隣のクラスである三年三組の生徒がカーンの街までどんどん移動してくる事になったわけ。
なんでも担任の坂口先生、お金も売って、私物も売って、酒池肉林を楽しんでいるんだってさ。
酒池肉林ってなんなんだよ!って思っていたんだけど、
「先生〜、ちょっと大変な事になってきたのネ〜」
と、この人さんがニヤニヤしながらカフェレストラン『三年二組』にやってきた。
隣のクラスの子が分かりやすいようにカフェレストランの名前を決めたらしいんだけど、『三年二組」って!って、僕なんかは思ったよ。だけど、生徒たちとしては特に問題ないんだってさ。せっかくなんだからもっとおしゃれな名前にすればいいのにね〜。
そうして、珈琲とチーズケーキを注文したこの人さんが僕の前に座ったんだけど、
「先生、先生の学校の生徒たちが奴隷として販売されることが決定されたのネ〜」
と、言われたわけ。意味がわからん。
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