第41話 番外編 槙と赤平の場合 1

「異世界飲み屋(キャバクラ)のために、頑張るぞ!」

「「「「おおおおーーーーー!」」」


 清掃班が宿舎の周囲の環境整備を終えた頃、宿舎の広い食堂を利用したカフェレストランの開業準備が急ピッチで行われる事になったのだ。

 この世界には保健所はないし、調理師免許も必要ないし、食事を提供するという事で、検便検査の実施なども必要ない。


「異世界といえば飯テロだよな!」

「金儲けするには、まずは飯テロだよ!」


 厨房班に所属する吉本と若生が率先してメニューの開発に取り組み、生徒たちから『料理の達人』と呼ばれるようになった厨房班班長である石原芽美の協力もあって、開店を目前にした状況となっている。


 カフェレストランには託児所も併設する予定であり、子供のおもちゃを開発している『子供班』も大忙し。


 清掃班は食事の配膳と食器の片付けを担当する事になり、算盤班は持ち回り制として一名はレストラン事業に加わることが決定した。


 二人だけになった冒険班はというと、薬草は採らずに山菜採りに出かけているらしい。

 カーンはリスカム山の麓にあるため、今の季節はわらびが沢山生えているのだ。

 わらびだけでなく、蕗のとう、ゼンマイなんかも収穫できる。


 他国から輸入されているという米がブルージュ王国では家畜の餌として利用されているのだが、この米をただの白米として炊いて提供すると、現地の人には『家畜の餌』という意識が強すぎて拒否感が出てしまう。


だがしかし、春の山菜を使って混ぜご飯にすると現地の人にも受け入れられるという事がわかった為、二人の冒険班の出番となったわけだ。


 ちなみに、醤油と似たものが他国からの輸入品として存在しており、ブランシェさんが用意してくれた。


 タラの芽の天ぷらや、わらびの醤油漬けは酒飲みのつまみとして評判が良かったのだが、

「いやいや、子供達に飲み屋なんかやらせませんよ?」

という西山先生の一言で、カフェレストランは昼間のみ営業という事で決定したのだった。


 ちなみにこの頃になると、ルーベの街に移動した三年三組の生徒たちがぽつらぽつらと現れるようになり、

「坂本先生のやり方にはついていけないよ!」

「僕らは三年二組と一緒に行動する!」

と言って、こちらで生活をするようになっていた。


 三年三組の生徒たちが加わるようになった為、槙と赤平が抜けても何の問題もないらしい。


 異世界飲み屋(キャバクラ)に行きたい!行きたい!言っている男子連中に、

「そんなに行きたいなら、俺たちが連れて行ってやろうかぁ?」

と、声をかけたのだが、

「いや、いいや」

と言ってにべもなく断られることが続いている。


「金が欲しいんならリュックを売って手に入れたお金があるからやるよ?」

「俺たちが飲み屋に連れて行ってやろうか?」


 同じ冒険班だった三浦賢人に声をかけたところ、心底うんざりした様子で、

「いらない!いらない!いらない!悪いけど俺、地獄への道まっしぐらのお前らについて行くつもりは全くないから!」

と、言い出した。


 地獄への道ってなんだろう?

 私物を売って大金を手に入れて、遊んで暮らしている俺たちは天国に居るようなものなのに。


 こちらの世界では十五歳で成人なので、夜の街に繰り出しても文句も言われないし、酒を飲んでも怒られない。

 小芝と乃木の女子二人と一緒に行動しているから、流石に、お姉さんが接客する飲み屋には行っていないけれど、そのうち、そういうお店に行ってもいいかもしれない。


 さぞや、みんなが羨ましがるだろうな〜と思っていたところ、

「お客さん、四人のテーブルチャージ料で50万ミウ、ワインとエールの代金が12万ミウ、フルーツ盛りの注文で32万ミウ、合わせて94万ミウを支払ってもらう事になるシャーク」

そう言われて、頬白鮫の海賊みたいな魚人マスターに請求書を突きつけられた四人は、頭から麻の袋をかぶされ、手足を拘束された状態で拉致される事になったのだ。


「多額の借金返済のために、とりあえずは船の船員として働いてもらうのネ〜」


 突然、目の前に現れた狐の獣人はそう言って槙と赤平の二人を船に乗せると、その船は三日かけて川を下り、海へと注ぎ込む大きな河口へと辿り着いた。

 そこで海洋へと航行する大型船に乗り換えた二人は、船員として働く事になったのだ。


 なにしろ周りは海しかないのだから、逃げ出す術が何もない。

 しかもこの世界の海には魔獣がいて、何度、転覆しそうになったか分からないほどの危機を迎える事になったのだ。


 二ヶ月経つ頃には、無の境地に至る事になった二人も、久しぶりに3日ほど港に停泊すると聞いて、ここで逃亡するかどうするかで夜中まで話し合う事になったのだ。


 船での生活はとにかく自由がないし、今までやった事もない肉体労働に従事することになるし、食事は口に合わないし、船酔いするし、全身が悲鳴を上げ続けているような状態だ。

 船員としての生活は地獄そのもので、異世界から来たチートの知識もある自分たちであれば、他国の港であっても生きていけるのではないかとも考えた。


 そうして港に到着した日の朝、自分たちと同じように停泊している船の甲板にクラスメイトである久我俊幸の姿を見て、二人は驚愕することになったのだ。


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