第34話 番外編 石原芽美の場合 2

自分の洗濯物も含めて五人分の洗濯を洗濯板で洗うのは大変な作業となる。

 追加された槙、赤平、二人の洗濯物だって、今まで溜め込んでいた物だろうし、量も多いし、下着も入っているだろうし、何より泥で汚れていて匂いもひどい。


「う・・ううう・・」


 思わず涙がポタポタとこぼれ落ちると、芽美の肩を優しく撫でたブランシェさんが、

「その洗濯物は私たちに任せなさい」

と、言い出した。


「アレット!オレリア!洗濯物の注文が入ったよー!」


 狼族のおばあちゃんであるブランシェさんが厨房の方へ向かって声をかけると、二人のお嫁さんは腕まくりをしながら洗濯室へと入って来た。


「ようやっと注文が入ったのね!」

「もっと早く注文が入るかと思ったよ!」


 ブランシェさんは芽美の頭を優しく撫でながら言ったのだ。


「先生から異邦人は洗濯をするのが苦手だっていう話は聞いていたんだよ?だから、洗濯で困るような事になったら、私たちが請け負う事になっていたんだよ」


 二人のお嫁さんは、洗濯室の壁に張り紙を貼り付ける。

『洗濯・小籠300ミウ、大籠600ミウで請け負います』

 大体、100ミウであっちの世界で百円相当という換算だと思うので、値段としては・・妥当なのだろうか。


「お嬢ちゃん、あんたの洗濯物以外は私たちで請け負うから、渡して頂戴な」


 ふくよかな体格のアレットさんは大きな籠に早速洗濯物を入れてしまうと、自分の洗濯場の方が洗いやすいからという理由で、5軒隣にある自分の家へと運んで行ってしまった。


「さあ!あんた達も洗って欲しければ言いなさい!基本、前払いになるけどね!」


 残ったお嫁さん、痩せた体型で少し神経質そうにも見えるオレリアさんが、獲物を眺めるような眼差しで生徒たちを見回した為、

「僕たち!貯蓄がまだ無いので、お金が貯まったらお願いすると思います〜!」

と、慌てた様子で男子二人組みが言い出したのだった。



 綺麗に畳んだ洗濯物が入れられた大きな籠を受け取った冒険班の班長である吉沢健は、

「大きな籠いっぱいだから600ミウだよ」

と、ブランシェさんに言われても、全く理解が出来ない様子で辺りをキョロキョロと見回した。


「え・・えーっと、僕、今日は自分の洗濯を洗って干してから行ったので、その取り込み手数料が600ミウって事だったんでしょうか?」

「そうじゃない、あんたの後に居る奴らが洗濯室に洗濯物を放置したから、私たちが請け負ってやったんだよ」


 二人のお嫁さんに挟まれた健が、籠を抱えながら呆然としていると、

「いやだぁ〜―!なんで!石原さんに頼んだ洗濯物をおばさん達が洗っているのー〜!」

と、乃木あやみが芽美に向かって怒りの声を上げた。

「本当だ〜、石原さんに頼んだ洗濯物が籠の中に入ってる」

と、籠を覗き込んだ小芝充希が言い、

「ええ?なんで勝手に他人に頼んでんの?」

「俺たち金が無いんだけど?意味わかんねえ!俺たちにどうしろって言うんだよ!」

と、槙と赤平が怒りの声をあげた。


「ああ〜!冒険班が帰ってきたー!」

「お前ら何でもかんでもうちの班長にやらせようとすんなよ!」

「自分でやらないってのが意味わかんないだけど!人としてどうなのかな!」


 厨房から出て来た厨房班のメンバーが芽美を庇うようにして前へと出て来た為、冒険班と厨房班とで一触即発となったところで、ブランシェさんが先生を呼んできてくれたようだった。


 西山先生はノートを抱えた状態で、

「おおー、ようやっと冒険班は帰って来たのか〜」

と、声をかけながら食堂へと入って来る。


先生は睨み合う生徒達の様子など全く気にしていない様子でテーブルの上にノートを置くと、

「槙、赤平、乃木、小芝、先生はお前らにも、洗濯は各自でやるように言ったよな?」

と言って前髪を掻き上げながら、

「四人分の洗濯で500ミウ、プラス自分たちの洗濯物を石原に任せたという罪で、槙、赤平はそれぞれ100ミウ、小芝は200、乃木は300ミウ、罰金ということで支払ってね」

と、言い出した。


「嘘だろう!」

「そんな馬鹿な!」

「先生最初に言ったよね?ルールを破るやつは罰金刑だって」

「なんで私が300なのよ!」


 怒りで顔を真っ赤にする乃木あやみを見下ろした先生は小さく肩をすくめて、

「だって乃木は石原さんに三回も洗濯を頼んだだろう?」

と言い出した。


 派手な洋服を買っているあやみと充希の二人はお金なんか残っていないし、槙、赤平の二人組も買い食いをした所為でお金なんか残っていない。


 結局、四人のポケットマネーでは支払うことが出来ない為、薬草採取でお金を貯めた吉沢健と三浦賢人の二人が代理で支払うことになったのだ。


 とにかく三浦の怒りが凄まじかった。


「てめえ!ふざけんなよ!魔獣を探すとか言って遊んで終わったてめえらの為に・・なんで俺が!俺たちが金を払わなくちゃなんねえんだよ!これでおっぱい(・・・・)が遠のく事になったじゃねえかよ!」


 あまりの三浦の剣幕に、四人は近日中にお金を返すことを約束させられたそうだ。


 ちなみに厨房班の男子は、三浦と同室になるため、

「なんでおっぱいが遠のいたんだよ?おっぱいが遠のくってどういう事なんだよ?」

と、質問攻めにしたらしい。


 三浦から異世界飲み屋(キャバクラ)に行く野望を聞いた厨房班の吉本、若生の二人組は、その後、売れる料理とお菓子の開発に夢中になったらしい。

お金を稼いで飲み屋に行くことを希望に、滅茶苦茶頑張るつもりだそうだ。

 女子メンバーが呆れた目で見ていたのは言うまでもない。

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