第32話 番外編  吉沢健の場合 2


 三年二組のメンバーは、修学旅行中、ラフティング教室に向かっている最中に異世界転移した為、ジャージ姿でこの世界にやって来た事になる。このジャージ、こちらの世界ではかなりの優れ物となるようで、

「この衣服だったら、毒虫にも刺されないし、肌も傷つける事はないだろうから、薬草探しをする時には、異邦人(エトランジェ)の服は着たままの方がいいと思うよ?」

と言うカジミールさんの言葉を信じて、冒険班はジャージでの活動を続ける事にした。


 すると、常にキャピキャピ騒ぐ乃木あやみが、

「異世界に来てまでジャージなんて!全然可愛くない!」

と、言い出して、

「確かにそうよ!厨房班とか子供班は現地の服を着はじめているというのに!なんで私たちがジャージを貫かなくちゃならないわけ?」

と、小芝充希まで文句を言い出した。


結果、付き添いが付かない四日目からは、冒険班の女子二人は現地のワンピースの下にジャージを履くというスタイルで活動を始める事になったわけだ。


 西山先生は自腹を切ってクラス全員分に二千ミウという額の現地のお金を渡し、清掃班、冒険班には鉈を用意してくれた。


この二千ミウという現地のお金、衣服とか、石鹸とか、下着とか、必要最低限の物を用意するのにピッタリと言える金額で、その中に『かわいい』とか『素敵』なんて物は到底追及できない金額設定になっている。


 そこで『かわいい』を追及してしまった乃木と小芝のイケてる女子二人組(と、当人たちは思っている)は、パッパとお金を稼いでもっと自由に買い物がしたいし、薬草なんかをチマチマ摘んでいられないという心境に陥ったのだろう。


 その二人に追従する形で、槙と赤平がついて行ってしまった訳なのだが・・


「ああー〜、家でも庭の草むしりなんかした事ねえのに、腰痛えーーー」


 サッカー部の二人に追従せずに平原に残った三浦賢人は、文句を言いながらも薬草を取り続けている。


 ギルドからクエストとして受けているのは、バボーザという深紅の小さな花が咲いているサボテンのような多肉植物(飲み薬として必要らしい)。

マルヴァという紫色の花が咲いている葉鞘という形態の葉を持つ物(傷への塗り薬として必要らしい)。

カレンデュラというオレンジ色の花を持つ、楯状の茎を持つ物(毒消しとして使うらしい)各種、50束、今日中に持って行かなければクエスト達成とはならない。


 群生地も理解しているし、乱獲しないように気をつけなければいけないし、採取場所も変えていかないといけない為、六人でも大変な仕事を二人でやらなければならないわけだ。


「三浦はなんで一緒に行かなかったの?」


 こんな場所に一人で置いて行かれるのも困るけど、冒険班の班長になった時点で、最悪、一人でクエストを行う覚悟が吉沢健には出来ていた。


 正直、三浦も仲間と一緒に『ヒャッハー』しに行ってしまうのだろうと思っていたので、今現在、文句を言いつつ薬草を採取している姿を見て意外に思ったのだ。


「いやさ、俺ってば第一村人と言われる羊飼いのおじいさんと話をしたのは吉沢も知っているよね?」


 大野と一緒に飛び出して行った三浦が羊飼いのお爺さんと話をしたと聞いている。先生が、二人が遭遇したと言う場所まで確認に行ったら、すでに羊と一緒に帰った後だったのか、その姿は何処にもなかったらしいけれど。


「おじいさんは俺たちに言ったんだよね『ここで死んだら、本当に死ぬ事になるから気をつけろよ』って」


「はあ」


「最初は俺、これは夢とか、壮大なドッキリとか、そういう物なんじゃないのかなって思ったんだけど、やっぱり何度目を覚ましてみても、ブランシェさんの宿舎だし、クラスのみんなは相変わらず一緒に居る訳だし、夢とかじゃなくて、マジもんの異世界だったらさ、俺、死にたくないって思ったんだよね」


「はあ・・」

 

「俺さあ、正直言って、異世界来たらこれハーレム展開来ただろヒャッホーと思ったんだけど、先生から妊娠とか性病とか言われたら、正直言って萎えたわけね」


「はあ・・・」 


「そういう直接的な接触行為は、色々あって怖いけどさ、非接触ならアリだと思ったんだよ」


「非接触?」


「カジミールさんが言っていたんだけど、ここの世界というか、カーンの街にも、女の人の接待ありの飲み屋とかあるっていうんだよね?それで、俺ももう十五歳だし、こっちの世界では成人だから、飲み屋とかアリみたいでさぁ」


「三浦・・まさかお前・・・」


「ここで二人でクエストをクリアし続けたら、金は二人で山分けになるだろう?ある程度、金が貯まったら、俺、カジミールさんと一緒に異世界の飲み屋(キャバクラ)に行ってみようと思っているんだよね」


「三浦!お前!マジかよ!」


「いやさ、俺も買い物とかで街まで出て行って思うんだけど、この世界、巨乳が本当に多いんだよ。それに異世界だからさ、日本ではお目にかかれない西洋風巨乳美人と、同一言語で話す事が出来るんだよ。その話を一応、クラス委員の中村にも話したら、中村も社会科見学しに行くって言っていてさぁ」


「僕も行く!行きたい!行きます!」


 クラス委員長の中村がいれば、何かがあっても何とかしてくれるような気がするし!カジミールさん(保護者)が居れば、ぼったくりバーでぼったくられる恐れもないでしょう?あの人、良い人そうだもん!悪い事しなさそう!


 健の顔は興奮のあまり真っ赤になっていた。


「俺さあ、こう・・テーブルの飲み物を取るような素振りを見せつつ、自分の腕を巨乳にソフトタッチはアリなんじゃないかと考えてさぁ」


「揉むんじゃ問題だけど!掠めるだけだもんな!アリだよ!アリ!」

「わっ!ごめんなさい!とか言って謝れば許してくれる風潮にあると思うんだよ〜」

「三浦!お前ったらそういう奴だったんだな!」


 わかる!言いたい事はわかるぞー!

 ああーーー!妄想だけでご飯三杯はいけそう!


 そうして三浦と健は、巨乳の為に薬草を採りまくる事になったのだが、森の中に消えた四人がその後どうなっていくのかなんてことは、深く考えもしなかったのだ。

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