第30話 お金は安全な場所へ
結果から言うと『悪魔の実』とは体の中で発芽をして育つ実の事であり、膨大な魔力と異端の力を引き出すきっかけとなるのだそうで、売れば物凄い金になるという。
体の中で育つという事は、途中でお腹を掻っ捌いて取り出さなければならないわけだけど、そうやって取り出した実はすぐに腐り果てるので使えない。そんな訳で、僕みたいに嘔吐して吐き出すしかない代物なんだけど、嘔吐している最中に悪魔の実の皮が破れてしまえば、酸で体が溶け出す事になるし、皮が破れた実は使い物にならない代物となるため、なんというか、入手するのが困難な代物なんだってさ。
上手く吐き出す事に成功した僕は、地面にべじょっと置いたままにしていたんだけど、それが功を奏したらしく、無事に乾燥して、利用可能な状態へと変化したらしい。
僕としては胃石以外の何物でもないんだけど、この人さんがそれを手に入れてほくほく顔ならそれで良いんじゃないかなって思っている。
なんでも、この悪魔の実の種を体内に送り込む際には、世界との隔離が成功するんだってさ。確かに、吸血鬼二人に襲われている時に世界が変わったなって思ったけど、エルフが助けに来てくれない訳だよ。また僕を置いて逃げ出したのかなとか思ったし。
とにもかくにも悪魔の実については、不思議パワーが凄そうだから、見かけグロテスクでも問題ないんだろうね。
その翌朝にはブランシュさんの宿舎までエルフ二人組が挨拶に来たんだけど、
「え?その剣をエルフの里まで持って行きたいの?」
と、驚きの声をあげる事になったわけ。
ゴブリンの祭司が持っていた剣は妖精の剣と言うらしいんだけど、六百年ほど前にエルフの里から盗まれたまま行方知れずとなっていたんだって。
昨日の時点では血塗れ状態だったので気が付かなかったんだけど、綺麗に研ぎも済ませた剣をカミーユさんから見せられたジャメルが、
「こんな所にあったなんてー!」
と、叫んで狂喜乱舞したらしい。
「先生、ジャメルは何百年もの間、ずっとこの剣を探していたんだよ。先生の所有物となったとは思うんだけど、一度だけ、一度だけで良いからエルフの里まで持って帰らせてやって欲しいんだ!」
マチューまで地面に届きそうな勢いで頭を下げながらお願いをしてきたんだけれど、そもそもそれ、僕の物ではないと思うのだが。
そもそも僕は、銃刀法っていうものが存在する国からやって来たので、ジャメルが後生大事に抱えている剣に未練なんかなかったんだよね。
「ジャメルには世界樹の実を貰ったり、回復薬をぶっかけて貰ったり、エリクサーを飲ませて貰ったりしたから、剣を譲るのは全く問題ないと思うんだけど?」
「ちょっと貸してもらうだけだから!」
「貸してもらうなんて言い出すのも烏滸がましい話だとは思うけど」
「いいよ!いいよ!貸すんじゃなくて、貰ってくれるんでいいよ!その代わり、二人にはちょっとお願いしたい事があるんだけど、それを聞いてくれたら全てをチャラにするって事でいいかな?」
丁度、問題児たちに対応するのに、気の知れた人間の協力が必要だったんだよね。詳しく説明しながら頼んだ所、二人は一も二もなく受け入れた。
「先生!ありがとう!」
「お礼にもならないとは思うけど」
二人はあの狂気の舞台から僕のリュックを探し出してくれたようで、しかも綺麗に洗浄してくれたらしい。そのリュックの中に、回復薬やら毒消しやらをたっぷりと入れて渡してくれたのだった。
喜び勇む二人を見送りながら、さっきからアロイジウスさんが到底納得出来ないというような表情を浮かべているんだけど、なぜだろう?その隣では、ブランシュさんの息子であるカジミールさんも不満顔。
更に、その隣に立つブランシェさんは納得顔で、
「不相応な物は手放すに限るし、上位ランクに借りを作らせれば、後でそれが先生の財産にもなるでしょう」
と言い出した為、二人は渋々と納得したような表情を浮かべたのだった。
昨日、僕が受け取った報奨金を市庁舎まで運んでくれたのがアロイジウスさんで、
「アロイジウスさんが運ぶのなら、この人さんにお願いするのは不要だったのでは?」
とも思ったけど、まあ良いかと思う事にした。
算盤班と一緒に市庁舎へと向かった僕は、市庁舎の奥にある金庫へ、お金と一緒に生徒から集めた日本円も入れてしまう。
いつ襲撃に遭うか分からない状態だから、安全な場所に入れておいた方が良いと判断したわけだ。
「先生!昨日は本当にお疲れ様でした!」
財務担当官のデジレさんは鹿獣人であり、カジミールさんの幼馴染なようで、
「生徒たちもきちんと働いていますよ!安心して魔獣討伐してください!我々はいつでも先生を応援しています!」
と、よく分からない事を笑顔で言いながら拳を振り上げている。
「先生、魔獣討伐って一体なんなんですか?」
クラス委員長の中村が興味津々で尋ねてきた為、
「ほら、隣に居るアロイジウスさんがSランクの冒険者だから、僕も魔獣とか倒せそうに見えたんじゃないのかな?」
と、隣に立つアロイジウスさんを見上げながらお茶を濁す事にする。
算盤班は真面目で頭が良い子ばかりなので、財務部でも貴重な戦力となっているらしい。また、中村発案の算盤についても、工房を見に行ったらほぼ出来上がっているような状態だった。
算盤を使って計算が正確で素早く出来るようになったら、指を折って数えているこの世界の人々の度肝をぬく事になるだろうと生徒たちが楽しそうに笑っている。その様子を見ながら、僕は平和を満喫した。
異世界からいつ、元の世界に戻れるのかなんて分からないけれど、帰るまでの間はトライアルウィークみたいな感じで、生徒たちには心ゆくまで職業体験をしてもらいたい。
せっかく異世界に転移したんだもの、元の世界の知識を活かしてチートしたって良いじゃない!僕は良いと思うよー!
結局のところ、三年二組の担任教師である僕は、その後、生徒たちのゴタゴタに巻き込まれる事にもなるのだが、そんな事件すら瑣末に思えるほど僕の心は酷く疲弊していたらしい。
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