第26話  ボーナスタイム

「男だけでなく女も、死ぬのを渇望するほどの目に何度も遭うの!最高にエクスタシーな時を送る事になると思うのよね!」


 おおおおおおおおい!Aランク冒険者どもよー!よく分からない女が僕の生徒を、教育委員会や文科省が到底許すことがないような目に遭わせるって言ってるぞーーー!


 何処に行きやがったんだ!エルフ二人組!今こそお前らの出番じゃねえのか!


『ピロロロロ〜ン 効率を求める教師の要望に応じて、世界隔離を施行する悪魔の実を吐き出し、Aランク冒険者との合流を果たします』


 それは物凄い現象だった。

 胃の中に発生した大きな塊が胃から食道を通り、まるで迫り上がるようにして口まで運ばれてくると、

「うぉおおおおおええええ」

僕は真っ黒な血の塊のような物を吐き出したのだ。


 その血の塊を吐き出すのと同時に、世界があっという間に明るくなっていく。


『ピロロロロ〜ン 悪魔の実を吐き出す事に成功した為、ボーナスタイムが付与されます』


 僕は燕尾服の男に肩を掴まれていたわけだけど、そいつの首に手をかけて、今や糸状にも出来る神の糸(勝手に命名)を掛け回してやった。


 そうして両手に掴んだ糸を引き絞るようにして締めると、あっという間に、燕尾服の男の首が切断され、その体が灰となって弾け飛んでいく。


「なっ!」


 後に飛び退こうとした女の首に神の針を打ち込むも、こいつは上位種だから針一本で仕留められるわけがない。

 魔力が百になったとか何とか言っていたけれど、僕の魔力は何処まで使う事が出来るんだろうか?魔力が補給出来たなら・・ヤダ!野郎とキスだけは嫌だ!


『ピロロロロ〜ン 効率を求める教師の要望により、口移しでの魔力付与ではなく、吸引魔法使用にて魔力を取り入れる事が可能となりました』


 伸ばした神の糸を絡めて、吸血鬼卿(バンパイヤロード)の体を引き寄せる。

 男吸血鬼は糸で切断も可能だったけど、上位種は拘束のみになっちゃうんだな。

 まるでタンゴを踊るような形で回転しながら、豊満な美女が僕の胸の中に飛び込んで来る。そのほっそりとした腰を引き寄せる僕の姿は、そりゃあ酷い事になっているだろう。


 妄想の中では、漆黒のズボンに袖がヒラヒラした純白のシャツを着ていて、タンゴを踊ってくるくる回っていたら陽気そのものなんだろうけれど、服はボロボロ、頭の先からつま先までゴブリンの血液を浴びてドロドロ、首とか噛まれて血まみれ、死んでないのがおかしいほどなのだが、せっかくのボーナスタイムだっていうのなら、ニコニコ顔で利用してやろう。


「こんにちは(オラー)!お嬢さん(セニョリータ)〜!」

 抱き寄せた女吸血鬼ににこりと笑うと、背中を支える掌から勢いよく彼女の魔力を吸引していく。ドロドロの魔力を吸い込む今の状況は、ヘドロが溜まった東京湾に掃除機を突っ込んで吸引するのと同じような感覚を覚えたけれど、こいつを絶対に逃したらダメだ。


 僕に噛みついた吸血鬼は、血液と共に僕の生気を吸い取り、何か恐ろしい物を植え付けようとしていたのだが、僕は純粋に魔力だけを吸い上げていく。

 瑞々しい女の顔はあっという間に萎れていくのに反して、今なら貫通魔法が千発は連続で撃てそうなほど、大きな力を僕は身の内に感じた。


「や・・やめて・・やめてヨォお!」

「やめてって言われてやめた事がないのに、良くもまあ、そんな事を言えるよね?」


 こいつはめちゃくちゃ悪い奴に違いないし、慈悲とかかけた事がないだろうし、残虐な殺しについては右に出る者なしみたいな奴だろう。


「ギュゥあああπξψΔ・・・・・」


 この世界では魔力がゼロとなったら死ぬようだけど、魔力を強制的に吸い上げていけば、まるで体の水分を全て吸い上げられたかのように萎れていく事になるんだな。吸血鬼卿(バンパイヤロード)がミイラみたいになったと思いきや、真っ黒な塵が飛び散って、上空に深紅の蝙蝠が舞い上がる。


「貫通魔法!」


 指から発射された力が蝙蝠に当たり、くるくる回りながら落下していく。

 上位種だから魔法が通じない、神の糸を使って蝙蝠女を捕まえようと伸ばし始めたところで、

「パンッ!」

まるで虫を潰すように、巨大な掌によって蝙蝠女が潰された。


 巨大な手ってなに?って感じなんだけど、本当に巨大な手なんだよ〜。

 いつの間に近くまでやって来たのかな?

 真っ白で毛むくじゃらの五メートル級の化け物が高原湿地帯まで来ていて、蝙蝠を手で挟み込んで潰した物だから、吸血鬼卿は灰となってこぼれ落ちていく。


「あああ・・この後に及んでイエティとか・・本当に・・もういいってーーーー!」


 春となっても頂上付近は雪に包まれたままのリスカム山を背景にして立つその巨大な何かは、興味津々といった様子で僕の方へと近づいてくる。


『ボーナスタイムが終了しました。効率を求める教師のHPが10を切りました、早急に回復をしなければ死亡します』


 痙攣を起こした僕は泡を吹きながら尻餅をつく。

 今、僕の前へと近づいて来たのがヒマラヤ山脈に住んでいるといわれる、未確認生物に良く似た奴だったんだけど、HPが10以下なら何をやられようが即死する。


「もう無理・・・もう無理だって・・・」


 後ろから何かをバシャバシャかけられたようだけれど、気にしている暇がない。もう駄目だ、目の前が真っ暗になっていく・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る