第24話  そんな魔力補充はいや

 ゴブリンとの激闘の間、神の針はめちゃくちゃ使えたんだよね。

 貫通魔法では効果がなくても、全身を覆う薄い膜なんてなんのその、そんな物は通り越してズブッと突き刺さっていったわけだ。


 だけど、残念ながら神の針は針でしかない。体の大きさが標準的な奴だったら効果があるけど、巨大ゴブリン相手じゃダメだ。

 神の針を使って1箇所集中攻撃も考えたけど、ガリバー旅行記並みにがんじがらめに縛り付けられた状態にしない限りは難しい。

 それに針状のものを額にひたすら撃ち込んだとして、僕の魔力とやらが到底もつとは思えなかかったのだ。


 そこで祭司の剣へ神の針の力が付与出来ないかなぁと考えたわけ。アンギーユと戦った時にも、意味がわからない声は僕の思いを聞いて、ドド○破(貫通魔法)に制限をかけてくれたし、制限解除も行ってくれた。


 持っている剣に対して力を付与するのは難しい事みたいだけど、ジャメルがくれた世界樹の実(運アップ)によって可能としてくれたみたいだ。


 最悪、神の針で地道に首を切っていくかと考えていただけに、20センチと刃渡りの長さが短い剣とはいえ、利用出来なければ英雄王に踏み潰されて終わっていた事だろう。


「先生!先生!」


 遠くから僕を呼ぶ声が聞こえる。


「先生!先生!もういいでしょう!起きてくださいよ!もう十分魔力は補充されたでしょう?」

「う・・・」


 柔らかい唇の感触、目を見開くと端正な顔が目の前にあって驚き慌てる。


「うわああああああ!」


 ゴロンゴロンとジャメルの膝の上から転がり落ちた僕が、呆然と目を見開くと、

「やめて!やめて!やめて!他の男とキスなんかしないでお願い!」

とか言いながら、マチューがジャメルの口をハンカチでしつこく拭いている。


「な・・な・・な・・・?」

「先生が魔力枯渇で死にそうだったので、僕の魔力を分け与えただけですよ」

 にっこりと笑うジャメルが艶々して見えるのは何故だろう?

「え?口移しで?」

「もう!許せない!」

 僕の口までゴシゴシ拭き出す半泣きのマチューを押し除けながら僕は大声を上げた。

「人命救助的なものでしょ!」

 言うなれば、溺れた人間に人工呼吸をするようなアレだよ!


「先生!ひどい!ジャメルの唇を奪ったのに全然嬉しそうじゃない!」

「アホか!誰が喜ぶか!」


 ウサギで巨乳のカミーユさんが人命救助してくれているのなら飛び上がって喜ぶだろうけど、野郎相手に誰が喜ぶというのか?

 僕はまだ、女性からチヤホヤされ過ぎて、苦労せずに手に入れられる女性よりも、苦労して落とすことになる男性の方が良い!なんて心境に陥るほどモテた事などないんだからな!


「先生、気分はどうですか?魔力量が100まで上昇しているとは思うのですが、もっと渡したほうが良いようであれば、渡しますけど?」


 ニコッと笑るジャメルが妖艶に見えるのは何故?

「結構です〜!大丈夫ですー〜!」

 新しい扉を開く必要ないです!いらない!いらない!


「そう・・そうだ!・・結局、英雄王(ゴブリンキング)は倒す事が出来たんですよね?」


 すぐ近くには巨大ゴブリンが首を切断されたまま転がっている、復活しそうには見えないし、息絶えているように見えるし、ピロローンと鳴って討伐したって言っているし、これで大丈夫だと思うのだが。


「とりあえず爆発音が凄かったですし、カーンの街のギルドの方でも異変には気が付いていると思うんです」


と、ため息をつきながらジャメルが言い出した。


 確かに、ダメージを与える事は出来なかったけれど、炎の龍が英雄王に襲いかかった時の爆発音は物凄いものだった。僕らがゴブリン退治に行っているのはカミーユさんも知っている事だし、高ランクの冒険者を集めてこちらに向かっているかもしれない。


「それじゃあ、カミーユさんたちが来るまで休んで待ってればいいんですよね」

 座り込んだ僕は思わずため息を吐き出した。

 最後までしっかりと背負っていたはずのリュックが見当たらない。

 あのリュックにはブランシェさんが用意してくれた弁当が入っていたというのに。


「お腹が空いたなぁ・・・」


 あれほど晴れ渡っていたというのに、空は分厚い灰色の雲に覆われて、生ぬるい風が湿地帯の上を駆け抜けていく。

 無数に転がるゴブリンの死体は干からびてしまったものの、巨大な英雄王の死体が転がっているような状態のため、血生臭いし、気分は悪いままだ。


「うん?」

 疲れ果てた僕はその場に寝転がってしまったわけだけれど、そのまま空を見上げていたら飛蚊症なのかな?黒いものがチラチラ視界の中を飛び回り始めたわけだ。


 眼鏡は何処かに行っちゃうし、目の調子までおかしくなってしまったのかな?黒くて不規則に飛び回るものがどんどん多くなっていって、

「あれ、蝙蝠?」

曇天の下を真っ黒な蝙蝠が千匹?いや、一万匹はいるか?空を覆い尽くさんばかりの勢いで空いっぱいに広がり出したのだ。


 上空を覆う蝙蝠は、しばらくの間、グルグルと旋回し続けていたわけだけど、空から槍が降り注ぐかのように、英雄王の死体へと一直線に群がるようにして舞い降りる。すると、あっという間に巨大ゴブリンの死体が蝙蝠に覆われてしまったわけだ。


 この時には僕ら三人はその場から立ち上がり、英雄王の死体から離れるようにして後歩きで後ずさる。


 魔獣の中には蝙蝠の魔獣とかいるのかもしれないけれど、僕はこの世界に来たばかりだから良く分からない。ハイエナみたいな感じで、死体を捕食するために集まって来たというのならそれで良いんだけど、集まった数の異様さを前にして息を飲み込んでしまう。


「う・・う・・嘘だろう・・・」


 マチューがジャメルの腕にしがみつきながらガタガタと震えている、そのマチューを腕にぶら下げていたジャメルが、

「吸血鬼卿(バンパイヤロード)」

と、つぶやいた。

 えっと・・なんだって?もう一回言ってくれ!

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