第三章 大いなる敵との戦い

第18話  イケメンなんて嫌い

 僕は強制的にRPGみたいな展開を迎えたわけだけど(レベルをもっと上げろとか冗談じゃないよ)生徒たちには断じて知られる事なく、やり過ごして行くしかあるまい。


 ギルド長より『魔獣討伐』なんてキラーワードが出て来たんだよ?しかも強制クエストだって?ないないないない、生徒を連れて行けるわけがない。


 ただでさえ剥製やら奴隷やらにして金にしようと考える輩から守り切らなくちゃならない状況の中で、生徒が魔獣討伐中に大怪我とか死んだとか、そんな事になったら目も当てられない。僕の軟弱な胃はストレスで引きちぎれる事になるだろう。


「という事で、カジミールさん、僕は今日、ゴブリン退治に行って来るので、冒険班の薬草採取にカジミールさんが付き添ってもらう形で良いですかね?」


 昨日は算盤班の面倒を見てもらったのに、今日は冒険班の面倒を見てもらう事になるなんて、本当に、本当に申し訳ないよ。


「いやいやいやいや、そろばんはん?の子供達は昨日のうちに役所の友人にも紹介しているので、アルバイトとして働き始める予定でいるんですよ。そっちはそいつに任せれば問題ないので、今日は俺が薬草採取のついでに、冒険はん?に対して、罠を使って獲物を狩る方法なんかも教えておきますね!」


「カジミールさんありがとう!」


 なんて良い人なんだ!僕が関わるまでもなく算盤班がバイト出来るようにしてくれて嬉しい!これで彼らなりに生活費を稼ぐ事が出来るようになるぞ!


「いやいや、いいんですよ。ゴブリンの巣は色々と面倒なんで、我々も手を出しそびれていた場所でもあるんです。それを先生自らが対応してくれるって言うんだ、俺に出来ることがあれば何でもしますよ」


「え?色々と面倒?」

「話に聞いてないですか?」

「聞いてないですけど・・・」


 カジミールさんはちょっと考え込んだ後、

「まあ!先生なら大丈夫ですよ!」

と言って僕の背中をバンッと叩いたんだけど、なんなの一体?僕なら大丈夫って言うの本当にやめて欲しい!


 背中を叩かれた僕は、ブランシェさんから弁当を受け取って、冒険者ギルドへと出発する事になったわけ。


 冒険者ギルドは街の中心部にあるんだけど、そこには大きな噴水があって、憩いの場にもなっている。


 花壇に春の花が咲き乱れるギルドの前には、二頭の馬を連れた二人組の男が、イチャイチャしながらキャピキャピ話している姿が見えてくる。


 男達は黒皮のロングブーツに漆黒のズボンを履き、革の鎧を身につけ、腰には剣を携えていた。


 ちなみに僕の格好は、麻のズボンに麻のシャツ姿、背中にはお弁当を入れたリュックサックを背負っている。


「やあ!先生!」

「改めて宜しく!今日はご一緒させて頂きますね!」


 昨日のうちに、ギルド長であるカミーユさんにはクエストには生徒を連れては行かないと断言したのだが、そうしたら、生徒の代わりに二人の冒険者を用意してくれたというわけだ。


 二人ともAランクの冒険者で、カミーユさんに会いに、たまたまカーンまで遊びに来ていたらしい。マチューとジャメルの二人で、エルフ族だからか、目が潰れるかと思うほど顔立ちが整ったイケメン二人組だ。


 昨日、ご挨拶がてらちょっと話をさせて貰ったんだけど、二人は男同士だけど墓場まで共にする事を誓ったカップルらしい。


 カミーユさんが説明してくれた所によると、

「エルフって顔立ちがいいピョン、だから、人族でも獣人族でも、とにかくモテまくるピョン。だからある程度、子供を作ったエルフは男に走りがちピョン。女は黙っていても寄って来るピョンけど、男は自分から攻め落とさないと陥落しないピョン。そこの恋の駆け引きにハマるエルフは意外なほどに多いのだピョン」

という事らしい。


 チキショーーッ!鬱陶しく感じるほど女が寄ってきた事ねえよーーっ!

 だからイケメンは嫌いなんだーーっ!男を落とす楽しさとか知らねーーし!そもそも女も落とせてないんだよーーーー!


と、心の中で叫びながら、

「今日はよろしくお願いします〜」

といって、僕はペコペコ頭を下げた。



 僕らが今いるレユニオン領、カーンという街の周辺はオフリド湖群とも言われていて森林地帯に無数の湖が点在する。


 リスカム山脈という夏でも山頂には雪が積もり続けているという山の麓にはディジョン平原が広がってる。その平原を越えて山を登っていくと、火山からの噴出物で窪地が堰き止められて出来た高原湿地帯となるわけだ。


 この辺りになると沼が無数に広がっているそうなんだけど、更にその先へと進めば急峻な山陵が続く事になる。


 僕らは山には登らず、花崗岩や安山岩、蛇紋岩が転がる蛇紋岩地帯を進む事になった。

 ここは森林限界地点となっている為、背の高い木々などない見晴らしの良い光景が広がる事になる。


 この辺りになると火山砕屑物が地中に埋まっている関係で、毒物が地中に広がり、草花が育ちづらい環境となってくる。

 それでも春ともなれば薄雪草やハコベが純白の可憐な花弁を無数に広げ、シラネアオイが紫色の花を風で揺らしていた。


 山道からも離れている為、カモシカや魔白鹿などを狙って山に入るのは麓の村の者か冒険者ぐらいのものなのだ。馬から降りて歩いていた僕たちは、可憐な花畑の向こう側に広がる巨大な蟻塚のようなものを前にして、思わず生唾を飲み込む事となったのだった。


 発見されたゴブリンの巣は小規模のものであると報告されていたはずなのに、今、僕らの目の前に存在する巣は特大サイズと言われるレベルのものらしい。


「マジかよ!嘘だろ!」

「うわあああ!」


 イケメンエルフは物凄い顔をしながら特大サイズの巣を見下ろしている。美の象徴とも言われるエルフでも、こんな表情を浮かべるんだなっていうほど彼らは酷い顔をしていた。

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