第16話 とにかく色々疑われる
翌朝、ブランシェさん達が朝食を用意してくれた為、僕ら三年二組は野菜が挟まったサンドイッチと野菜スープを頂くことになったわけだ。
昨日、異世界転移をしてこの街に移動してきた事になるのだから、今日くらいはカーンの街をそれぞれ観光に行く。なんて事にしても良かったんだけど、何せ、奴隷と剥製目的の奴らが電気鰻以外にも潜り込んでいる可能性が無いとは言えない状況だ。
厨房班は宿舎の厨房で、今後、どのような異世界料理(日本食)だったら作る事が可能となるか、現地の人に受け入れられる料理はどんなものになるのかの研究をレポートとして纏めてもらう事にして、子供班は、ブランシェさんの孫であるアラン君の案内でカーンの街の孤児院に出向く事になる。
子供班には現地の子供が現在どのような遊びをしているのか等をレポートに纏めて、今後、どういった知育玩具がこちらの世界でウケるのかなど研究してもらう事になる。
算盤班は早速、算盤を作るためにカジミールさんの案内で工房へと向かう事になり、清掃班はブランシェさんから案内を受けながら宿舎周辺の清掃活動を行う。
そして、冒険班には僕が引率としてついていく事になったのだが、
「先生だったら、一人で子供達全員守る事が出来るでしょう〜」
とブランシェさん一族が言い出した時には、本当に、本当に、納得ができなかった。
「先生なら大丈夫でしょうみたいなのやめてくださいよ、僕もこの世界に来てようやっと二日目なんですよ?」
「「「あはははは、先生なら大丈夫!大丈夫!」」」
なんなのそれ?全然納得出来ないんだけど〜!
南部のギャング団の中でもダントツの残忍さを誇り、無敵じゃないかと言われていた電気鰻(アンギーユ)の一団を捕まえた事により、僕は何でも出来る奴みたいに思われ始めているみたいなのだ。
冒険をするにはこの世界でも冒険者ギルドで登録が必要なようで、僕は生徒と一緒に登録をする事になったわけだけど。
「お話には聞いてますピョン!先生!昨日はご活躍だったようですピョン!積もる話も聞きたい話も山ほどあるピョンけど、とりあえず登録だけは済ますピョンね〜」
受付に現れたのは兎の獣人に見える綺麗系の胸の大きなお姉さんで、このギルドのギルド長をやっているそうなのだ。名前はカミーユさん、兎の獣人とエルフのハーフで、こう見えても263歳なんだって。
ギルドが用意した登録用紙に名前や年齢、職業、特技や出身地など記入していく事になるようで、この時点で剣士とか、魔法使いとか、格闘家とか、そういったジョブを選ばなくちゃいけないなんてシステムは無いらしい。
文字は日本語で書いてもこちらの言語に変換される、言語の自動変換はこの世界の理の一つでもあるらしい。
僕のアテンドはギルド長のカミーユさんがやってくれたんだけど、生徒たちの登録は他の受付令嬢が担当しているみたいだ。
「では先生、最後に指先にちょっと傷を付けて、血液と指の指紋の登録をしますピョン」
登録した身分を奪い取られたり、悪事に利用されるような事がないようにする為、登録時には血と指紋の登録が必要になるらしい。
自分の血が付いた親指を名前の横に押すあたり、拇印みたいな感じだね。
押した瞬間に少しだけ浮き上がった紙面をじっくりと覗き込んでいたカミーユさんが、
「おやおやおやおや、これじゃあ『あの人』候補が現れたようなものピョンね〜」
と、独り言を言ったのだ。
その眼差しは、明らかに何かを紙面から読み取っているようにも見えた為、
「あの〜、もしかして、カミーユさんは『鑑定持ち』だったりするんですか?」
まさかね?みたいな感じで問いかけると、
「もちろんピョン、ギルド長は鑑定の資格がなければなれないピョンね」
と、あっさりと答える。
そうして、カミーユさんは怖いような顔で笑みを浮かべると、
「先生、子供達に冒険者としての心得を教えるのは下っ端に任せるピョンから、先生は私に顔を貸すピョン」
と、言い出したのだった。
「い・・い・・嫌だと言ったらどうするピョン?」
僕が冗談まじりでそう言うと、カミーユさんは上から僕を見下ろしながら、
「殺すピョン?」
と、身も凍るような眼差しを向けながら言い出したのだった。
この世界にレベルというものがあるのなら、カミーユさんは明らかに僕よりも数倍レベルは上だと言えるだろう。
それを言ったら、昨日、顔を合わせた狐とか熊も僕より遥かにレベルが上なんだろうなとは思ったよ。
カミーユさんの案内で、ギルドの受付の奥にある階段から二階へと上がると、事務方と思われる人たちが働く部屋とか、冒険者がクレームを入れている部屋だとか、何かを商談しているような部屋だとかが並んでいるのが廊下から見えた。
手前の部屋は扉が開け放ったままなので中が丸見えなんだけど、奥の二つの部屋の扉だけが閉められていた。
どうやら右側の部屋がカミーユさんの部屋のようだ。
中央にはピンク色に塗られたデスクが置かれ、革張りの椅子の背もたれがハート型になっている。
応接用のソファはオレンジ、応接テーブルはライトブルー、天井にはハート型の小さなシャンデリアが飾られて、その周囲を天使の人形がぐるぐる回っている。
壁紙がピンク、カーテンがエメラルドグリーン、奥のサイドボードには陶製の西洋人形がずらりと並んでいて、部屋全体がポップでキュートで目がチカチカしてくるのに、サイドボード周辺だけが中世なの?ホラー人形なの?怖いんだけど?
「先生、とにかく座るピョン、まずは先生にはその出鱈目なレベルの高さを説明してもらいたいピョン」
花柄の紅茶のポットから、可愛らしいカップに紅茶を注ぐカミーユさんを見ていると、ケモ耳系ファンシーメイド喫茶に迷い込んで来てしまったような錯覚を覚えるんだけど、明らかにカミーユさん自身が不機嫌そうに見えるから全然嬉しくならないし、どっちかっていうと今すぐ回れ右をして逃げ出したい。
「そもそも出鱈目なレベルの高さってなんなんですか?」
これがレベル1000だったとか?レベル10000だったとか?レベルを上限突破しているんだったら言われている事も分かるんだけど、僕のレベルは38だぞ?正直に言って、それほど高いとは思えないのだが?
「通常でいくと、異邦人はレベルゼロから開始するピョン。先生の連れて来た六人の子供達も揃ってレベルゼロだったから、そこは変わりないはずピョン。だけど、先生はレベル38ピョン、普通の冒険者が20年30年頑張ってもレベル30〜40が精々という中で、何も特訓してないのに38は異様ピョン」
カミーユさんは、太もものベルトに挟み込んでいた暗器を取り出すと、
「まさか・・禁忌をやったんじゃあねえピョンなあ?」
と、今にも人殺しをするような迫力で言い出したのだった。
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