第15話  ドド◯破ではない

「ぎゃーーーっ!頭の中で何かが喋ってるーー!」


 半ばパニック状態となった僕がひっくり返るようにして尻餅をつくと、倒れこむ魚人たちを呆然と眺めていたカジミールさんが、ハッと我に返った様子で大声をあげる。


「あああ!やっと来てくれた!『この人』さん!遅いですよ!」


 頭の中では引き続き、何かを言っているんだけど『この人』が気になりすぎて、全然頭に入ってこない。


 どうやらカジミールさんに『この人』と呼ばれているのは狐の獣人のようで、後ろには人族や獣人が八十人くらい付いて来ていた。


 『この人』の後ろには熊の獣人が居て、小脇に担がれているのが血まみれになったピ○チュウ(アンギーユ)(電気鰻の魚人)だという事に気がついた。


「先生、先生の頭の中に響いているのは、先生がこの世界でレベルアップしたからですネ〜」


 狐の獣人は倒れた僕を引き起こす。


「アンギーユが最近、派手に異邦人狩りをしている事には気が付いていたんでネ〜、せっかく先生たちがカーンの街を選んでくれたんだから、魚人狩りを楽しみにして手ぐすねひいて待っていたんですがネ〜、まさか、まさか、先生たちが先に倒しているとは思いもしませんでしたネ〜」


 胡散臭い!本当に胡散臭い!


「あんた達!最初から僕らを助ける気なんか無かったでしょ?本当は、魚臭いこいつらが生徒達を集めた所で、横から掻っ攫うつもりだったんでしょう!」


 集めている人数もやけに多いし、ギャング団がどうのと言っていたから、最初からこの狐とその部下たちは、魚人どもを捕まえるつもりだったし、異邦人である生徒達も確保するつもりだったに違いない。


 異邦人は奴隷やら剥製やらで高く売れるっていうんだろう?

 こんな悪そうな奴らがそれをやらない訳がないよな!


「先生〜、それは言い過ぎバウ、『この人』は最初から、先生達を助けるつもりだったバウ。助けたついでに恩義を売って、持っている知識から私物から私服から、端から端まで吐き出させるつもりでいたんだバウ」


 僕の足元にゴロリと十万ボルトを転がした熊の獣人が、曇りなき円らなまなこで僕を見つめながら言い出した。


「『この人』は金になれば何でもいいバウ、だから命を取るような事までは流石にやらないバウ」


 熊の言葉が全然、安心に繋がらない!


 熊野郎はどうして血まみれのピ○チュウ(アンギーユ)を僕の足元に転がすんだ?左胸から肩までバッサリ、ビームで両断されていてグロい!本当にグロい!


「先生、アンギーユと引き連れてきた連中の所有権は先生にあるネ〜、奴ら、凶悪で残忍で骨と肉片しか残らないような殺しをするから、他人からの恨み辛みが凄い事になっているネ〜。ここに居る全員が賞金首なんだけどネ〜?アンギーユの奴は、ギュイヤンヌ公国の第八夫人を殺して、その子供を誘拐している関係で、この首に一億ミウがかかっているネ〜」


「うゎああお!一億!本当ですか!」


「本当ネ〜、王子の行方を探すためにも、王子を攫ったアンギーユを生きたまま公国へ運ばなくちゃいけないのネ、虫の息だけど、何とか生かしたまま連れて行かなくちゃまずいのネ〜」


 生きていないとマズイのネ〜と言いながらも、血まみれの億野郎を爪先で蹴飛ばすのはどうなんだろう?


「それじゃあ、とりあえずコイツの身柄は一旦預かるって形で良いバウか?」

「良いバウかも何も、何をどうしたら良いのかが分からないんですけど・・」


「先生、『この人』はレユニオン領内の裏を牛耳るボスなんです、とりあえずは『この人』に任せておけば良いですよ。悪いようにはしませんからね」


 いつの間にか宿舎から出て来たようで、白髪の髪の毛を纏めながらブランシェさんはそう言うと、

「アラン!ちょっとこの鰻を凍らせて頂戴」

一緒にやって来た孫のアラン君に、億ランクの賞金首を凍らすように命じている。


 血まみれだし、瀕死だし、とりあえずの処置として凍らしておこうって事なのかもしれないけれど、

「うん!おばあちゃん分かったよ!」

と言うなり、アラン君はウナギをキンキンに凍らせてしまったのだった。いいのそれで?


「先生」


 狐の獣人は背が高く、ほっそりとした体型で、両目は細くて月のように弧を描いていた。灰色のズボンに黒革のブーツを履き、純白のシャツに紺地のウェストコート、コートを羽織っている。洒落者らしくクラバットは上品に結えており、一見しても、裏を牛耳るボスというようには見えない。


「この世界ではステータス内容は親兄弟にも教えない、墓場を共にする事を約束した嫁にも教えないというのが常識なのネ〜」


 狐の獣人は僕の耳元で囁くように、

「先生にはお礼としてサービスで教えるけれど、ステータス画面は普通他人には見えない、だけど、鑑定能力を持っている奴には普通に見えるのネ〜」


 ええーっと、個人情報は大切に守りましょうっていう話なのかな?


「レベルゼロならステータスは開かない、レベルが上がったのならステータスが開けるようになる。レベル程度を教えるのなら良いけど、その他の情報は・・ネー〜」


「ネー〜ってなんですか!ネー〜って!」


 こうして僕とフランジェさん一家は、魚人を抱えた『この人』たちを見送る事になったんだけど、何故、狐の獣人が『この人』と呼ばれるのか尋ねてみたら、

「だって、『この人』は『この人』だもの〜!」

と、みんながコロコロ笑い出して、詳しい理由を聞き出す事が出来なかった。


 ちなみに、狐の言う通り、一人で部屋に戻った僕は満を持して、

「ステータスオープン」

と言った訳だけど・・・


西山康太郎  (30歳)

 LV 38

 HP 102

 MP 89**

 教師レベル 72

 効率を求める教師 ・ いつでも何処かに逃げ出したい ・ 彼女募集中

 称号 ・三年二組の担任教師 ・隠れた武闘派 ・導く者 ・守る者

 GIFT  効率の良い攻撃 (LV 3) 

new 貫通攻撃(ドド○破を含む・〈制限〉対象に貫通後威力を消失する) new 神の針 (相手を貫いたまま上空に移動可能)


「ドドドド!どういうコトー〜!!!」

一人雄叫びを上げたのは言うまでもない。


 画面にまでドド○破の文字があるけど、あれはドド○破じゃない!ドド○破じゃないよね?っつうか、MPが完全に僕の四桁暗証番号じゃない?レベル38ってなんなんだ!強いんだか弱いんだかわかんねーー!

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