第14話  殺しますよ

 ここで生徒達を叩き起こして一緒に戦うとか、逃げるなんて事は出来ない。

 パニックになって転んで怪我をする奴が出ても困るし、知らない異世界で夢中になって逃げ出した挙句に行方不明となってしまったら、絶対に監督不行き届きとして訴えられる事になるからだ。


 頭の中には校長、教頭、教育委員会、保護者一同がぐるぐると回りだす。

 異世界に転移したとして、教師は何処まで責任を取らなくてはならないのだろうか?

 例えば、生徒が全員、奴隷やら剥製やらとなった事実が明るみになったとして、どんな糾弾が後日待ち構えている事になるのだろうか?


「おお〜やおやおやおや、相変わらず狼野郎は匂いが臭くて堪りませんね〜」


 暗がりから一団を率いてきた男が、口元に手を当てて、オホホホみたいな感じで笑っている。


 黒光りして滑らかに見える表皮に覆われた男は髪の毛が細いモヒカン状に生えており、素肌にネクタイ、ジャケットにスラックス姿だ。後ろに控える二十人近くいる男たちも、素肌にジャケット、ズボン姿でニヤニヤ笑っている姿が異様だった。


 衣服はカーンの街の人々よりも上等の物なのに、全員、一様にシャツは着ず、素肌の上にジャケットを羽織っているのだ。


 髪の毛を異様な形に固めたモヒカン頭の奴もいれば、髪の毛の一本も生えない丸坊主の奴も多い。

 口の中にあるトゲトゲの歯を剥き出しにして笑っている奴もいるため、ああ、人族ではないのだなと、思わず感じ入ってしまったわけだ。


「カジミール、邪魔をしなければ命だけは取らないでおいてあげましょう!あなたも私の十万ボルトは受けたくないでしょう?私は慈悲深いの、そのしみったれたフォークは捨てておしまいなさい?」


「アンギーユ、俺は母に子供たちを守ると誓ったんだ!」


「犬っころが、あんたったらタコの時でも、最後には尻尾巻いて逃げ出したじゃない?無駄な抵抗はうざったくて仕方ないから、どうせ逃げ出すんなら、今すぐあっちに行ってちょうだいと言っているのよ」


 カジミールさん、あんた、タコの時には逃げ出したんだな?


 僕が横で巨大なフォークを持っているカジミールさんを見上げると、カジミールさんの髪の毛の間から飛び出ている耳がへナンと倒れて、狼族としての凛々しい顔付きが、目も当てられないほどショゲかえっている。


「せっかくの人族、産み腹としてもちょうど良いじゃあない?さっさと渡してくれたら、街の破壊行為まではしないで引き下がってあげましょう」


 この時の僕は知らなかったのだが、アンギーユのギャング団と言えば凶悪な事で有名だったらしい。


ボスの隣にいたカンディルって奴は、口の中が円錐状の鋭利な牙が並んでいる事から、敵の体を削り取りながら捕食していくという恐ろしい化け物だし、カンディルの後ろにいるピランガという奴は、その鋭い牙が並んだ口を使って、敵を骨になるまで食い散らかすという化け物だ。


更に隣の奴は強靭な筋肉で相手を締め上げ、骨を砕いて丸呑みにするという奴だし、そいつの後ろにいるルカンという奴はサメのような見かけで、どんな強者でも食い殺すという恐怖の象徴みたいな奴だった。


 そんな恐ろしい奴らが勢揃いして現れたという事をこの時の僕は何も知らなかった為、とにかく頭の中で、とあるイメージを繰り返していたわけだ。


 こいつの声といい話し方といい、マジであいつにそっくりじゃない?


『殺しますよ?』


 僕が何故、この時にそんな事を言ったのかというと、頭の中に浮かんだ言葉がまさにそれしかなかったからだ。


 ヤケでも何でもなく、居丈高に『殺しますよ?』と言った僕の指先から何かの力が発射され、その強力な力は一直線状に伸びたまま、十万ボルトのアンギーユの肩を貫いた。


アンギーユは貫かれたまま宙に浮かび上がり、かなり上空まで移動した上で分断されたような感覚が僕の指先に伝わる。


 一瞬の出来事のあまり、アンギーユの手下どもは呆然と上空を眺めていたままだったんだけど、自分の指を正面に戻した僕は、力の塊を発射するようにして、良くわからない何かを撃ち込んでいく。


 発射音も何もないけど、気持ちとしてはドド○破のような・・今まで実際に撃った事はないけれど、銃弾を発射したような・・・


「「「ぎゃああああ!」」」


 魚人たちの硬い皮膚を突き破った僕の力の塊が、そのままの勢いで遠くへ遠くへと飛んで行く。


 やばい、やばい、やばい、やばい、流れ弾で誰かが死傷となったなら、僕はこの世界の牢屋に投獄される事になるかもしれない。悪者は撃ってもいいけど、一般市民に当たったらまずいだろう!


「ムッズー!ドド○破の加減がムズイわーーーー!」


 近くの家の壁に穴が空いている事には気が付いていた、魚人を通り越して向こうまで飛んで行くってどうなの?やめて!対象を潰した所で止まって!お願い!


『ピロロロロ〜ン 『効率を求める教師』の希望により、貫通魔法は貫通後、その威力を消失する効果を付与します』


「うわっ!なに!なんなの!」


 突然、頭に響き渡る無機質な声に驚愕する僕、なんなの一体?なんなの一体?なんなの一体?マジで怖いんだけど!


『生徒三十名の保護を達成した事によりレベルの解放を致します。ボーナスポイント千ポイント追加、称号に『守る者』が追加されます』


 頭の中で、何かが引き続き喋り続けているんだけど!これは一体なんなんだ!

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