第4話  さあ選択してください

 とりあえず、各自の荷物を外に持ち出して、クラス毎に整列させた僕らは生徒たちに説明をする事にしたわけだ。


「みんなもすでに理解している通り!我々はどうやら異世界転移をしてしまったらしい!」


 坂口先生が説明は私に任せてくださいとか言い出すから任せたけど、第一声がそれかよ。もしも、これが壮大なドッキリで、実は『東京ド◯ツ村でした〜』なんてオチだったらどうするつもりなんだ?


「これからは誰も守ってくれない!各自がそれぞれ生き残る為に戦わなくちゃいけないんだ!」


「いやいやいや、万が一にも漫画みたいな展開になったら、戦わなくちゃいけない!みたいな事も将来的にはあるかもしれないけれども!今じゃない!今じゃない!」 


 生徒の不安を煽ってどうするんだ!アホか!家に帰った時に、

『あの時に先生がとても不安になるような事を言って煽りまくったんです!』

とか言い出したらどうするんだ?生徒の親がクレームを入れに来る事になるぞ!


「阪口先生の意見は置いておいて、とりあえず今現在、分かった事をみんなで共有したいから先生が説明するぞー」


 草原に体育座りした生徒六十名が一斉に僕の方を見上げる。

 こんな時でも体育座りなんだな、習性って恐ろしい。


「まずはこの平原だけど、四国カルスト地方みたいに、石灰岩がやたらとあって、風光明媚な場所だから、まずはここを『カルスト』と仮に名前をつけるとします。このカルスト平原の西側にあるのが火の街『ルーベ』大きめの街で、冒険者が集まる街だと、うちの生徒が出会った第一村人が言っていたらしい。火山があって、砂漠もある街『ルーベ』だ」


 ルーベと書かれたA4の紙を阪口先生に持たせて、ちょっと離れた場所に立ってもらう。


「それからカルスト平原の東にあるのが水の街『カーン』ルーベよりも小さめの街で、湖が多くて森林地帯の中にあるという」


 僕はカーンと書かれたA4の紙を持って少し離れた場所に移動した。


「とりあえず二つの街があるという事で、先生たちは二手に別れて移動する事になった。阪口先生は火の街『ルーベ』僕は水の街『カーン』へと移動をして情報収集をする。阪口先生は冒険者が多いというルーベ、僕はもう一つの『カーン』。今は異常事態であり、このまま平原に居るのも危ないとの意見もあるため、街へ移動する判断をしたわけだけど、どちらの街に行くのかは各自で決めてもらいたいと思う!」


 本当はここで別れずに、みんなで一緒に移動するのも手なのかもしれないけれど、何せ人数が多すぎる。修学旅行という事で旅行代理店に任せきり状態でホテルを予約するわけでは無いのだ。ここで二手に分かれるのは後から文句を言われる事のない判断だと断言できる!


「みんな!例えばここが異世界だったとしてだな!冒険してえなあみたいな奴は多いんじゃないのか?」


 僕は自分の方に生徒が来て欲しくなかったので、あえてみんなの冒険心を煽ることにした。


「我こそは冒険をしたいって奴は火の街を選べばいいと思うぞ!」


 僕の言葉を聞いて、阪口先生がにんまりと笑っていた。何せ体育教師だから体格は良いし、みんなを引っ張って行ってくれるようなオーラがあるからね。何かあったら、皆んなを守ってくれそうだし、きっと大半が阪口先生の方へと移動する事になるだろう。


 体育座りをしていた生徒たちは、ザワザワ騒めき出したけれど、しばらくして、各クラスそのままの状態で左右に分かれて移動をしたわけだ。


 僕の前には三年二組の生徒たちが並び、阪口先生の前には三年三組の生徒たちが並んでいる。


 部活で仲良しの子たちがクラスを越えたグループを作りそうになってはいたものの、結局自分のクラスに戻って、いつもの場所に埋没したようだった。


「えええ?クラスのまんまでいいの?普通、そこで各自好きなグループを作って好き勝手に動き出すもんじゃないのかな?」


「そうやって好き勝手に動いたとして、何か起こったらどうするんですか?」


 僕のクラスの委員長である中村聡太が言い出した。

「まずはクラスでまとまって動いて、必要に応じて、二つの街の間を移動していけばいいんじゃないですか?」


「「ええ?そういうものなの?」」


 思わず阪口先生とハモッてしまった。


「「本当にそれでいいの?」」


 思わず先生と顔を見合わせてしまう。

 ぺこりとか頭を下げんでいいから。


「うーん、分かった、それじゃあ二組は水の街、三組は火の街に移動。それぞれ、街に合う合わない、やっぱり冒険やりたいなど色々と出てくると思うから、双方の街の間での移動は落ち着いたら考えて行くという事でいいのかな?」 


「「「問題ないでーす」」」


 問題ないのかよ、早速冒険者やりたいとかじゃないのかよ?

 異世界転移したんだぞ!(実は東京ド○ツ村だったっていうオチもあるかもだけど)

 若者たちよ!それでいいのか!


「それじゃあ、バスにあったペットボトルの水は各自、一本ずつ持って行ってください!余った水は二組と三組で平等に分け合って持っていく事にします〜」


 修学旅行実行委員の吉沢が取り仕切るように言い出すと、

「移動中は班で移動してください〜!各自、迷子になったらもう見つけられなくなるかもしれないので、何も言わずに遠くに行くような事はやめてくださいね〜」

と、同じく実行委員の橋本由里子が言い出した。


 そうか・・修学旅行実行委員は二年生の時から修学旅行の準備をしていたし、滞りなく進行するように洗脳(語弊がある)されているから、自ら率先して動くようになっているのだな。


 草原なのに体育座りといい、率先して班行動といい、危機的状態に陥っているはずなのに、あえてクラス単位での行動を選ぶあたり・・・

「結局、個人で決めようとしないんだな・・・日本の教育はこのままで良いのだろうか?」

という疑問が、僕の胸の中に去来したのは言うまでもないことだ。

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