第2話  僕らはいったい何処に修学旅行に行っているんだ

「先生・・先生・・・」

「う・・ううううん」

「先生・・先生ったら!起きて下さいよ!先生!」

「ううう・・ううううん?」


 目を開いてみると、そこにはバスの座席に座っている僕、僕の肩を揺らしていたのは修学旅行実行委員の吉沢だ。


「吉沢、先生はバスが崖から滑り落ちる夢を見ていたんだが・・・」


 窓の外には緑の芝生のようなものが何処までも広がっていく様が見えていた、外は快晴、森の中にあるラフティング教室へと向かっていたはずなのに、川は何処に行った?山は何処に行った?行程に平原を訪れるプランは組み込まれていないはずなのだが?


「先生、本当に訳がわからないんだけど、道がないんだよ」

「道がない・・・」


 なんだそれ、哲学の一節か?


 吉沢が言うには、ほぼ、全員が気を失っていたんだけれど、今は意識を取り戻して外に出ているのだという。


 最後までぐっすり眠っていたのが僕(夜中まで部屋の外に飛び出していく生徒の監視をしなくちゃいけなかったんだからしょうがないだろう!)だったらしく、痺れを切らした吉沢が起こしに来てくれたらしい。


「とにかく先生!早く!早く外に出てきて下さい!」

「うーーん・・仕方ないなぁ・・・」

「仕方ないなぁじゃないですよ!早く!早く!」


 座席から立ち上がってみると、確かにみんな外に出て居るようだった。

 バスのドアは開けっぱなしの状態となっており、運転席には誰も座っていなかった。


 小さな階段を降りて外に出ると、眩しいほどの太陽の光に思わず目を細めてしまう。

 今日は一日曇りだったはずなのに、随分と天気が良くなっているじゃないか。


「「先生!」」

「「「先生!私たちどうしたらいいんですか!」」」


 生徒たちの声の後の方から、

「西山先生!私たちはもう出発しますけど、先生のクラスはどうします?」

と言う阪口先生の野太い声が響いてきた。


「えーっと・・えーっと」


 隣にいる吉沢が心配そうに僕を見上げてくるけど、それどころじゃないぞ。

 周り一帯、見渡す限りの草原で、所々に木が生えているのが見えるだけ。奥に行ったら森が広がっているのかな?


 青空が何処までも続き、送電線とか鉄塔とか、そういった人工物が一つも見えない。

 アスファルトの道路も何もない草原の中に、2台のバスがポツンと置かれているような状態で、吉沢が『道がない』などと哲学的な言葉を言い出した理由がよく分かる。


 本当に道がなくなっているわけだ。


「阪口先生、僕らはラフティング教室に向かっていたはずですよね?川は何処に行っちゃったんでしょうか?」


 渓流をボートで下るはずだったのに、山も川も何処に行ってしまったんだろうか?


「西山先生、私は思うに、生徒の安全を図るためには、まず、今すぐにでも行動しなければならないと思うのです」

「はい?」


 三年二組の担任をする僕、西山康太郎と、三年三組の担任をする阪口翔平先生は、実は滅茶苦茶そりが合わなかったりするわけだ。


 阪口先生は体育の先生で僕は国語の先生という事になる。つまりは、何が言いたいのかというと、脳筋で陽キャの阪口先生と、オタク気質で隠キャの僕。


「おそらく私たちは異世界に転移とか、漂流教室とか、そんな展開を迎えてしまったんじゃないでしょうか?」

「はあ」

「だったら、ここは危険な場所と言えるのではないでしょうか?魔獣が襲いかかってくる可能性が大きいと言えるでしょう」

「魔獣ですか?」


 意味がわからない。

 僕がアホそのものにしか見えない阪口先生を呆然と眺めていると、

「先生!確かにこういう異世界転移のパターンだと、間違いなくバスはこの後、襲撃を受ける事になります!」

三組のクラス委員長である北村くんが言い出した。


「のんびりしている場合じゃないんです!早く移動しないと死ぬことになりますよ!」


 この子はイケメングループの一人だと思っていたのだが、実はオタクだったのか?厨二病を患っているのか?


「森の向こうに教会の屋根のような物が見えるので、おそらく、あそこに村か街があると思うんです。日があるうちに移動した方がいいですよ!」


 確かに、北村君が指差す方角には森が広がっており、その遥か向こうの方に、赤銅色の尖った屋根が木々の間から突き出すように見える。

 あそこに村だか町だかがあるのかは分からないけれど、屋根があるという事は家がある。誰か人が住んでいるのかも知れない。


「三組はすでに全員、荷物をまとめ始めています。二組はどうするつもりなんですか?のんびりしていたら死にますよ!」


 確かに三組の生徒たちはバスの中の荷物を外に運び出しているようだ。緊迫感が凄いことになっているが、逆にうちの生徒たちは、のんびり日向ぼっこをしていたり、遠くの方まで探検に行っている子もいるみたいだ。


「とにかく、最初に一つ尋ねたいんだけど、バスガイドさんや運転手さんって何処に行ったのかな?」


 僕の質問に、阪口先生と北村君が声を揃えて答えてきたんだけど、

「消えたみたいなんだ」

「何処にもいないんです」

つまりはどういう事?意味が分かんないんだけど?

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