僕と生徒と異世界転移 〜効率を求める僕は異世界無双を希望する〜

もちづき 裕

第一章 修学旅行に行きたくない

第1話  修学旅行に行きたくない  

 中学校の教師をやって八年になるけれど、

「公務員だったら食いっぱぐれないし、教える事が得意な康ちゃんだったら、教師は天職だと思うけどね〜」

という親族の誰かの発言を鵜呑みにした両親の勧めもあって、うっかり、教員採用試験を受けてしまったってわけだ。


 大学の時に家庭教師で荒稼ぎをしていた実態を知る両親としても、僕は教えるのが得意なんだし、一応、ちょっと取ってみるか〜みたいなノリで教員免許を取っていたのも知っていたから、

「だったら地元の教員採用試験を、一応(・・)、受けてみなさいよ!」

みたいな話になっちゃって、その一応(・・)受けた試験を合格してしまったが為に、あっという間に教師への道が開いてしまったわけ。


 昔はさ、いくら教師になりたくても全然なれない〜なんて時代もあったみたいなんだけど、今は成り手不足がかなり深刻な状態なんだな。


 そりゃあそうだよなぁ。

 世間は週休二日を謳歌しているっていうのに、教師ってほぼほぼ、週休一日状態だよ?土曜は部活、やる気がある所だと日曜も部活、教師は一体いつ休めばいいってわけ?


 G・Wも部活で潰れるし、教師は連休を取っちゃダメなのか?

 びっくりする事に、16時には終業扱いだっていうのに、毎日夜の7時とか8時とか下手すると9時くらいまで働いているんだよ?


 それで、どうかしていると思うんだけど、教師には残業手当というものが出ないんだよ。


 そして、最もクソでサイテーだと思うのが修学旅行だ。

 夜の9時とか10時とかいうレベルじゃないよ、24時間生徒にかかりっきりの状態に突入だよ。クソだ、意味がわからない、給料を倍にしてくれないと、本当に割が合わない。


「先生〜、寝てないでカラオケ歌ってよー!」

「うるさい・・お前らが夜中まで騒ぐ所為で、先生は寝不足状態なんだ、バスの中でくらい寝かせてくれ」

「バスの移動時間が長いから、みんなでカラオケを歌おうって言い出したの先生でしょ〜!西山先生〜!歌って!歌って〜!」


 うざい!本当にうざい!


 バス移動中にゲームでレクリエーションとなると、参加していない奴が出てくるとか、盛り上がっている奴だけで終わるとか、最悪、誰も参加しないで司会者たちが意気消沈して終わるとか、そういう事になって面倒臭いから、全員参加のカラオケ大会にしたというのに、何故、僕に振ってくる?


「先生、バニラ・フェイスの『暁の歌』が好きだって言っていたでしょう?カラオケはお前らで楽しんでくれなんて言っていたけど、先生にも楽しんで欲しくって、わざわざCDに曲を入れてきたんだよ」


 バスでのカラオケで使う音源は修学旅行実行委員の吉沢健に丸投げしたのだが、そこでそんな(余計な)気を遣うのか!

 観光バスゆえCD!わざわざ用意してくれてありがとう!

 その気遣い、嫌いじゃないが今じゃない。そんな気遣いは今必要ない。


「私たちも先生の歌っているところが見たい!」

「歌って!歌って!」

「くう・・おまえら・・」


 僕は修学旅行が嫌いだ。

 拘束時間が無茶クソ長い割りに、働いた余剰分を休みに転用出来ないシステムが大嫌いだ。何故、コロナは終息してしまったんだ!

 コロナ中は『感染予防』という名の元、部活もなくなり、修学旅行も無くなったというのに、5類に引き下げで全てが元通り。クソッ!何故、全てが元通りになるんだ!


「先生〜!早く〜!」

「早く歌ってよ〜!」

「わかった!わかった!わかったよ!」


 吉沢からマイクを受け取った僕は、イントロ部分を聴きながら前を向く。

 この歌は出だしが一番肝心なのだ、最初から飛ばすように高いキーが続く、僕はその音程を出す事が出来るのか?


「あーーあー〜〜?」


 1日目は体験授業、二日目はラフティング、三日目は観光、そのようなプランで進む僕らは、今は二日目のラフティング教室に向かっている途中の山道で、うねるようなカーブに差し掛かったところで、バスに乗っていても分かるほどの揺れを感じたわけだ。


 僕らが修学旅行に出発する約二週間ほど前に、能登半島を中心とした震度6の地震が起きたため、現地は家が崩れるなどかなりの被害が出る事になったのだ。


 だけど、僕らが修学旅行として行く場所は震源地から80キロ近く離れているし、旅行会社とも相談の上、地震については問題ないだろうとの判断が出た為に、修学旅行は滞りなく実施される事になったわけ。


 コロナが終息してようやっと、二泊三日で修学旅行を行う事が出来るっていう事で浮かれた雰囲気だったし、中止にならなくて良かった〜なんて、校長やら教頭やらが嬉しそうに話していたけれども、何が嬉しいんだ!嬉しくないだろ!こういう時こそ中止にしろよ!


 震源地から遠く離れたところでも揺れる『深発地震』とか『異常地震』なんてものもある訳だろ?今後、一・二週間は注意して下さいって気象庁が言っていたよな?土砂災害にはご注意をって、どうやって今の状況で注意しろって言うんだよ!


「「「きゃあああああああ!」」」

「「「地震だーーーー!」」」


 山間の細い道を、バスで移動中での地震はヤバい。


「皆さん!落ち着いて下さい!絶対に立ち上がらないでください!」


 バスガイドさんがマイクを手に取って大声を上げているけれど、何故、そこで立ち上がる?運転席の方へ吹っ飛んで行ったらどうするんだ? 


「ちょっと待て!うわっ!うわーーーーっ!」


 ちょっと待って、震度7じゃない?これ震度7くらいまでいってない?

 ガタガタガタガタっと縦揺れに揺れたと思った途端に、前方の道に突然亀裂が入り、まるでジェットコースターで急降下して行くように、バスが落下するように落ちていく。


「「「キャーーーーーーーッ!」」」


 窓の外には土の壁のようなものしか見えない。

 だから修学旅行は嫌だったんだ。

 バスで事故、地震があったのに、何故、修学旅行に行ったんだとか、保護者からめっちゃ責められるぞこれ。


「というか!誰だ!修学旅行を中止でなく!延期でなく!実施するって言った奴〜!」


 マイクを片手に阿鼻叫喚の坩堝の中で僕が叫んだ言葉がこれだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る