第7話 どしゃ降りの心に傘を
あれからどうやって家まで帰っただろうーー
幸い母親は、仕事で留守にしていて、ひどい泣き顔を見られずにすんだ。
未菜は、ずぶ濡れになった身体をシャワーで温めると、部屋着に着替えて濡れた頭にタオルを被った。
タオルで髪を拭きながら、次から次へと涙がこぼれる。
ふと机の引き出しが目に入ると、未菜はあることを思い出した。
体育祭の実行委員になったあの日、絶望のあまり日記帳に家族に当てた最後のメッセージを残していた。
体育祭までに変わらなければ、虹の橋を渡って旅立とうーーー
ああ、十月までもたなかったなーーー
未菜が日記帳を見ようと、引き出しに手を掛けたその時だった。
チリン、チリンーー
雨の音に混ざって、微かにだが、はっきりと聞こえるベルの音。
まさかーー
未菜が、慌てて窓の下を見ると、雨のなかカッパを着て自転車に乗った快が、こちらを見て何かを訴えている。
行かなきゃーー
頭より先に、身体が動いた。
着の身着のまま、玄関から飛び出した未菜を快は、笑顔で迎えた。
「今日は、下に降りて会いにきてくれたんだね。無事でよかった」
未菜は、思いが溢れて言葉にならない。
胸が詰まって、嗚咽になりながらも、必死に言葉をつなごうとした。
ちゃんと、言わなきゃ、自分の気持ちーー
ちゃんと伝えなきゃーー
「ちがうのっ、ごめんなさいっ、私が悪いの、みんなに甘えて…上手くできなくて本当にごめんっ、みんなに嫌な思いをさせてごめんっ」
「足を引っ張って……気を遣わせて……」
快はそんな未菜の言葉を、一つ一つ取りこぼさずに最後まで聞いている。
「南さんが、しっかり仕事をしてくれてたのは、みんな知ってる」
「最初、馬場先生から南さんの話があったときは俺も、ほかのやつらも戸惑ったし、どう接していいかわからなかったけど、俺は、南さんと一緒に活動できて嬉しかった」
「時折、見せてくれる笑顔が、綺麗な字が、好きだ…」
「だから、もうこれで終わりとか、言わないで……」
飾らない素直な快の言葉に、未菜も応えた。
「私もみんなのためにできることが嬉しかった。最初は嫌々だったけど、どんどんみんなのことが好きになった」
「快くんに会えるのが嬉しかった……」
「私は、ずっと自分を守るために、殻にこもって他人との間に壁を作ってたけど、それが逆に、周りの人を傷つけることにやっと気づいた。
これからは、勇気をもって自分の気持ちをちゃんと伝えていきたい」
ーーー
未菜は、玄関先でずぶ濡れの快を玄関に招き入れると、洗面から取ってきた乾いたタオルで快の濡れた髪をくしゃくしゃに拭いた。
「風邪ひくよ!」
「自分だって、髪ぬれてるじゃん⁉」
不意にタオルを取り上げると、今度は快が未菜の頭を拭き返した。
未菜が驚いて変な声を上げると、二人は可笑しくなって笑いあった。
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