第6話 戸惑いながら

十月の体育祭に向けて、実行委員会の活動も増えていった。


体育祭のスケジュール設定や、競技内容の検討、会場の設営、進行管理、安全管理など、話し合うことは多岐にわたる。


未菜も、しぶしぶながら放課後に行われる活動に顔を出していた。


実行委員長の快、副委員長の総、ムードメーカーのナル、そして愛花たちのグループが中心になり、活動をすすめるのが常だった。


未菜は、自宅に快が訪ねてきてくれて以来、まともに彼と話す機会がなかった。


快のまわりには、常に誰かが集まっていて、特に愛花は何かしら世話を焼きながら、ごく自然にスルリと快のとなりにいることが多い。


未菜は、彼らの快活さ、眩しさが作る輪の中に当然入っていけず、いつも仕方なく黙って板書された事案をノートに書きこんでいた。


わたしっている意味あるのかな?ーー


帰りたいーー


「南さん、これまでの話し合いをずっと記録してくれてるんだよね!」


快が不意に未菜のノートをのぞき込んだ。


「そっかー、俺らペチャクチャ喋るばっかで、ちゃんとまとめて記録するの必要だよなー」


ナルが、感心したように目を丸くする。


「すごい綺麗な字だし、とっても見やすい!」


快の言葉が嬉しくて、未菜は照れて赤くなった。


何より、自分がノートにちまちまと書いていることを、快がちゃんと見ていてくれたんだと思うと、胸が熱くなった。


「確かに、書記が必要だな。南さんに書記をお願いしたらどうかな」


総が提案すると、快もぜひお願いしたいということで、図らずも未菜は、書記を引き受けることになった。


それからの未菜は、自分にできることがあるのが嬉しくて、出来る範囲で話し合いの記録や資料作りに精をだし、そんな未菜を快は好ましく見つめていた。


作業を通して、快や総、ナルやほかのメンバーとも少しずつ会話を交わすようになり、時折、明るい表情も見られた。


柚季やりりあは相変わらずだったが、愛花は未菜にも優しく接していた。


快の本心に気づくまではーー



ーーーー


その日は、雨の日の午後だった。


中間試験の最終日を終えて、今後の活動予定を組んでいた。


「南さん、夏休み中に学校側にスケジュールの確認と説明をしたいから、一緒に来てくれるかな?都合のいい日ある?」


快の言葉に未菜がキョトンとしていると、後ろにいた柚季が横から口を挟んだ。


「ちょっと待って。どうして南さんなの?彼女は黙って言われたとおりに書いてただけで、話し合って決めていったのは私たちじゃない?」


友人である愛花の気持ちに気づいている柚季は、納得できない。


快が未菜のことを知らず知らずに気にかけている姿に、愛花が傷ついているのを知っていたのだ。


「あんたも、不登校か何か知らないけど、調子に乗って!いい気にならないでよ!」


「みんな先生に言われて気を遣って、腫れ物のように接しているだけ!あんたが病気だから優しくしてるだけなんだから!」


未菜に対する激しい柚季の糾弾に、その場にいたメンバーも固まった。


愛花は、大きな瞳に涙をためて、手で顔を覆っている。


「もう、やめろよ!」


涙を浮かべた愛花の前で、快が叫んだ。


未菜も、愛花に謝ろうと近づいたとき、未菜は愛花の手の内から覗く冷たい視線にゾッとした。


そうだった、思い出したーーー


未菜が快と接していると、必ず愛花があらわれて、巧みに快を翻弄した。


そでを引っ張ったり、腕をからめたり、二人の距離の近さを見せつけられて、未菜はいつも閉口していた。


愛花が未菜に優しく接していたのは、誰にでも親切な自分を快にアピールするためだったのだ。


周りの生徒たちが、ひそひそと未菜を非難しているのが聞こえる。


明らかに未菜が悪者になっていた。


「……ごめんなさい、迷惑かけてごめんなさい、……もう来ません。」


未菜は、固まった空気をこじ開けるように声を絞り出すと、荷物をまとめて教室を後にした。


やはり、私は邪魔者なのだ、私のせいですべてが台無しになるーー


浮かれて調子に乗って、バカみたい、同情されてただけなのにーー


みんなと仲良くなれたと思っていたのは、私だけーー


誰もいないどしゃ降りの雨のなかで、未菜はわんわん声を上げて泣いた。






























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