第5話 初顔合わせ
初顔合わせの日は、あっという間にやってきた。
未菜は、一応体育祭の実行委員であるという責任感と、わざわざ家まで訪ねてきてくれた快への申し訳なさから、顔合わせに出席することにした。
本当は、もう一度、快に会いたいと思っている自分を強く否定しながら。
緊張しながら視聴覚室の側までくると、未菜は意を決してドアを開けた。
すでにほかのメンバーは集まっていて、何やら楽しそうに盛り上がっている。
あれは、たしか学年一の秀才の浦川くんーー
あっ、もしかしてあれは美人で有名な三人組?ーー
集まったメンバーのキラキラ感に圧倒され、未菜が突っ立っていると、
後ろから、「お疲れー!」と声がして、快が現れた。
「みんな集まったかなー!これから今年度の体育祭実行委員会の顔合わせを行います! 机を円にして座ってー!」
みんなが円になって着席すると、早速自己紹介が始まった。
「今年度の体育祭、実行委員長を務めます榎本 快です。馬場先生からそそのかされて…、っいや薦められて引き受けました。みんなで楽しくできたらなと思います。
よろしく!」
「じゃあ次は」、と快に促されて隣にいる男子が立ち上がった。
藍色がかった黒髪に、細いシルバーフレームの眼鏡。
学校一の秀才といわれる浦川 総だ。
「俺は、3-Bの浦川 総。この榎本とは前から友人で、今回はこいつから頼み込まれて、付き合いで引き受けました。今回、副委員長をやるので、よろしく」
「なんだよー。嫌々かよー。副委員長ー」
お調子者で有名な早川 那留が、チャチャを入れても総は華麗にスルーしている。
「次、俺ね!3-Aの早川 那留!ナルって呼んじゃって♡面白そうなので参加しましたー!」
カワイイ系子犬男子として、マスコット的な人気を誇るナルは、小柄で童顔に大きな瞳をウルウルさせている。
「次は女子どうぞー!」
ナルに促されたのは、学年一の美女、近藤 愛花だ。
ストレートロングのポニーテールで、人形のような愛らしい顔をした愛花は、成績もよく、男子から抜群の人気を誇り、愛花に憧れる女子も多かった。
「3-Bの近藤です。みんなで実行委員長を支えて、体育祭をぜひ成功させましょうう。よろしくお願いします」
愛花が、あいさつをしながら、快へ目配せをしたのを未菜は見逃さなかった。
その後、愛花の友人であるりりあと柚季も自己紹介をした。
柚季は、スタイル抜群で将来のモデル候補。
りりあは、芸能事務所に所属し、幼いころから子役をしている。
三者三様に美しいルックスをしており、学園でも目立つグループだった。
その後も各クラスからの自己紹介が続き、とうとう未菜の番になった。
「……3-Cの南 未菜です。……よろしくお願いします。……」
消え入りそうな声に、あたりが沈黙すると、柚季が言った。
「南さん?聞いたことないけど。もしかしてC組の不登校の子?
実行委員なんて大丈夫なの?」
普段からズケズケとものをいう柚季が、さらに畳みかけようとするのを、快が制しようとした瞬間、横から愛花が割って入った。
「これから一緒にがんばればいいじゃない。南さん、よろしくね」
にっこり微笑む愛花は、未菜が思わず赤面するほどかわいかった。
「南さんって、ひらがなだと、みなみみな。ってことは、名前、『み』と『な』だけじゃん!うけるー!あだ名はミナミナでいいじゃん!」
ナルがそう言って笑い転げると、総が「しょーもなっ」とあきれ顔でつぶやいている。
様子を見守っていた快も一緒に笑っている。
「とにかく今日はみんな集まってくれてありがとう。近藤のいうとおり、これからみんなで頑張っていこう!」
こうして初顔合わせはお開きになった。
どうしよう……有名人ばかり……
未菜は、血の気が引くのが分かった。
ーーーーー
気分が悪くなった未菜が、トイレの個室で一息ついていると、外から女子たちの話し声が聞こえてきた。
どうやら愛花とその友人である柚季とりりあだ。
メイク直しをする音がする。
「それにしても、馬場先生もひどいことするよねー。あのこ完全に浮いてるじゃん。これからどーすんだろ?」
「なんかダサいし暗いし、とりあえず無視しとこ」
柚季とりりあの高い声が響く。
「やめなよ。快にも言われたでしょ?仲良く頼むって」
愛花の声も聞こえる。
「愛花のいい引き立て役になるんじゃない?快ったらほんとに鈍いんだから!」
「わざわざ同じ実行委員になったんだし、いくらでもチャンスあるでしょ!」
甲高い笑い声がだんだん遠ざかって完全に消えるまで、未菜はその場から動くことが出来なかった。
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