第4話 窓越しの再会

人生からの旅立ちを決意した未菜は、いくぶん心が軽くなる気がした。


決行できるかどうかは、その時にならないと分からないけど、この灰色の生活に期限が付くだけでもマシだった。


家族も学校も誰も知らないこの計画があることで、未菜は妙にハイな気分になり、数日を淡々と過ごした。


そして、相変わらず登校したりしなかったりを過ごしていたある日の夕方、思いがけない人が訪ねてきた。


チリン、チリン。


繰り返し自転車の呼び鈴の音がする。


親は留守だし、どうしようーー


未菜は、二階の自室から、そっと音のする通りを見た。


制服姿で自転車に乗って、こちらを見上げているシルエットが見える。


「あっ!!!!」


それは、先日、会ったきりの榎本 快の姿だった。


快の太陽に焼かれたような茶色の髪からは、初夏の熱気が汗になって蒸気しているようだった。


快は、未菜を見つけると、小さく手を振った。


未菜は驚いて、窓を開けて叫んだ。


「どうして?!」


「突然、ごめん! 南さん、この間、話が終わらないうちに帰っちゃったから、来ちゃった…」


「なんか悪いことしたかなって気になって」


「連絡したいことがあったけど、学校でもなかなか会えないし。馬場先生が学校のプリントも届けてくれるならって住所教えてくれて……」


快は、赤面しながら矢継ぎ早に、言葉を続けた。


「………」


未菜が絶句していると、快はなおも続けた。


「あっ、なんか怪しいとか、そんなんないから!」


「来週の水曜日の放課後。視聴覚室で体育祭実行委員の初顔合わせをするから、よかったら参加して。もし、学校に来るの嫌なら、俺、また会いにくるから、じゃあ」


快はプリントを郵便受けに入れると、そのまま自転車で帰っていった。


心臓がバクバクしているーー


未菜は信じられない思いでいっぱいだった。


なんでこんなことまで?ーー


ちゃんと外に出て、話せばよかったーー


もっとお礼を言うべきだったーー


いろんな思いが、未菜の頭の中をぐるぐると回っている。


榎本 快が、なぜみんなに人気があり好かれているのか、未菜は分かった気がした。


実行委員長としての責任感からの行動だとしても、じゅうぶん嬉しかった。












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