第3話 苦い記憶

その後、どうにか帰宅時間を迎え、自宅に戻った未菜は、母親とろくに口もきかずに二階の自室に飛び込んだ。


よりによって、なんで体育祭の実行委員なんか!ーー


陽キャ連中にハブられながら一緒に活動するとか生き地獄!ーー


制服のまま、ベッドで枕に顔をうずめていると、未菜の頭の中にはネガティブな思いが洪水のように溢れてきた。


入学後に親しい友人ができず、どこのグループにも入れなかったこと。


一人で食べるお弁当の味気無さ。


することがない休み時間の手持ち無沙汰。


教師にすら名前を覚えてもらえないほどの存在感のなさ。


勉強ができるわけでも、運動ができるわけでもない。


容姿にもコンプレックスがあり、何をするにも積極的になれない。


どうして私は、かわいくないのかーー


どうして私は、ダメなのかーー


どうして私は、変われないのかーー


ぐるぐると一枚の葉っぱが、悪い妄想の渦に吸い込まれていくようにして、最後まで落ち切ったとき、未菜は、ある光明を見た。


ーーそうだ、いっそ死んでしまおうーー


きっとこのまま私の人生にはよいことなどないだろうーー


体育祭まで頑張れたら、このときまでに変われなければ、もう楽になろうーー


引き出しから日記帳を取り出すと、未菜は決行する予定日に印をつけ、家族へメッセージを残した。


「ごめんなさい。そしてありがとう。

私はとても幸せでしたが、うまく生きれませんでした」


どうせ私がいなくなったところで、世界は何も変わらない。


両親は悲しむかもしれないが、このまま私が年を取って彼らのお荷物になるよりは、お互いに幸せかもしれない。


どうやって終わらせるかは、これからカウントダウンしながらゆっくり考えればいい。
























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