第2話 出会いは突然に
「おーい!榎本!こっち、こっち!」
ひょっこりと顔を出している男子生徒に馬場が手を振ると、こちらに招いた。
中学生とは思えない長身と引き締まった身体に、シャープな輪郭。
茶色い髪が朝の柔らかい日差しを浴びて、整った顔はより一層美しく見える。
「彼は、今年度の体育祭の実行委員長の榎本 快。分からないことは彼に聞いて、一緒に活動するように!」
「じゃあ、頼んだぞ」と快に言うと、馬場は忙しそうに去っていった。
いやいや、アンタ丸投げかいーー
絶望的な気持ちで顔を上げると、不思議そうな顔をした快と目が合い、
未菜は、急に恥ずかしくなった。
榎本 快ーー
同じクラスになったことはないけど、名前は知っているーー
運動神経抜群で、おまけにイケメン。
確かサッカー部のエースだ。
明るく誠実な性格で、教師からの信頼も厚く、女子生徒からの人気も高い。
まさに陽キャを絵に描いたような生徒。
少しの沈黙のあと、快は、目の前で俯いている未菜に話しかけた。
「南さん?…だよね? 馬場先生から話は聞いてる?」
「……はい。……なんかこんなことになってすみません。私これからどうすれば…」
明らかに困惑している様子の快に、未菜は地味に傷ついていた。
はいはい、そうだよね。私みたいな陰キャのブスとは関わりたくないよねーー
これまでの男子からの屈辱的な仕打ちを思い返し、ため息をつく。
「今度、体育祭の実行委員長をやる榎本です。早速、来週の放課後に今年度の実行委員で初顔合わせをするので、参加をーー」
快がすべてをを言い終わらないうちに、未菜は耐えられなくなってペコっと頭を下げると、その場を離れた。
ーーーーーーーー
カバンを固く胸に抱いて、呆然と廊下を去っていく未菜の後ろ姿を、快はいつまでもも見つめていた。
快は意外にも前から未菜のことを知っていた。
あれは入学式のあとーーーー
桜の下に女の子が立っている。
突然風が吹いて、桜吹雪が舞い上がると、その子は眩しそうに、空を見上げた。
快はなぜか、一瞬時が止まったかのような感覚に襲われ、そのシーンが今もくっきりと頭に残っている。
ただ残念ながら、その子と同じクラスになることはなく、なんとなく遠目に見かけるものの、二人の距離が近づくことはなかった。
そう、今日まではーー
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