第4話 【フロント】

真亜子と聖来の部屋を出た悟は、さっそく隣の部屋をノックした。 両隣、12号、02号室と聖来が言った通りに当たってみたが返事のない部屋も含めて留美の反応はなかった。 次に4階へ行こうとエレベーターに乗った時、悟は気づいた。


――そうだ、一階まで降りてフロントに聞けばいいのか。


 悟は、フロントへ行って、自分たちの部屋のことを尋ねることにした。 しかし、フロントに着いた悟は、やや違和感を感じた。


――あれ、見たことない人たちばっかり。


 フロントには、男性が二人、女性が一人と、朝ランニングに出かけた時と同じ組合せであったが、記憶に残る人がひとりもいなかった。


「サトル、ヒガシヤマ、ルームナンバープリーズ。すみません、部屋番号を忘れてしまいました。 アイジャストフォーガットアワールームナンバー」


 フロントの男性は、やや不審な目で悟を見たが、他の二人と顔を見合せて


「オッケイ、ジャストミニット、ユウアネームプリーズアゲン」


と言って、パソコンを見つめた。


「サトルヒガシヤマ」


悟は、もう一度名前を告げた。

フロントは、唇を横一文字にしたまましばらく画面を見つめていたが、そのうちカチャカチャとキーボードを打ち始め、やがて手を止めた。


「イエス、デーアーサトルヒガシヤマ。バッ、バット、有りました。 しかしこれは、1988年、28年前です。」


――なんだ、日本語喋れるじゃない。 うん? やっぱり間違ってるな。1988年は28年前なんかじゃない。 今年じゃないか。 しようがないなあ。 また片言英語で対抗するか。


「ノウ、1988 イズ ディスイヤー」


 フロントの男性は、変な、困ったような顔をして、また日本語で言った。


「今年は2016年でしょう。 1988年は28年前ね」


――せっかく英語で言ったのに、そっちはまた日本語かよ。 まったくハワイは変な所だ。 でもそれどころじゃない。 2016年? また和訳しそこなった? 


「2016、ディス イヤー?」


「イエス、ジャスト2016」


――うーん、さっきから感じていた、いや真亜子と聖来の部屋に入った時、いやもっと前、ホテルに帰った時から感じていた違和感は、それが原因? 


「アーユーフロム1988?」 


さっきから横で話を聞いていたフロントの女性が半分ふざけた感じで声をかけた。 しかし悟は、真剣に素直に、


「イエス、メイビ」 


と答えた。

 それを受けて最初のフロントの男性が更にふざけた感じで、


「アロハー 、ミスター1988、 ウエルカム ツー ホルデイイン ハ・ワ・イ」


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