第3話 【デジカメ】
「そうだ、写真を撮ろう」
と聖来が提案し、真亜子と悟を窓ぎわに並ばせた。
悟は、一瞬、二人の写真であとあと脅されるかもと思ったが、とてもそんな風な二人には見えなかったので素直に従った。 聖来は、手のひらサイズの超薄型カメラ、おそらくデジカメというやつだろうと思えるカメラを持って、片手で撮ろうとしたが
「ちょっと待って。逆光」
と言ってカメラを設定し直したように見えた。 しかし、とくに何処のボタンも触ってないようにも見えた。 シャッターの音がして写真が撮られた。 悟は、もう絶対に逃げられないと覚悟を決めた。
真亜子が『見せて』と言ったので、聖来がカメラを持って真亜子と悟の横に並んだ。
カメラいっぱいに画面があり、そこには逆光にもかかわらず、真亜子と悟の顔がはっきり写っていた。
――なんだ、このツルっとした感じは? 最新型はこんなに薄っぺらいのにこんなに綺麗に撮れるのか、絶対逃げられないなあ。
「今度は、私ので、三人で撮ろう」
真亜子が言った。
――えっ、それぞれが最新型を持っているのか。 どんな金持ちギャルたちなんだ。ホステス? うーん、そんな風にも見えないなあ。
何処にカメラを置いてセルフタイマーを使うのかと思いきや真亜子は大胆にも右手を伸ばしてカメラを逆さまにして、画面をこちらにして撮影しようとした。
――いやいや、それじゃ向こう側しか写らないでしょう。
そう思った悟は、カメラの画面を見て驚いた。 さっき写した写真の画像がそのままかと思ったら二人だったはずの画像が三人になっているのである。 そしてその次の瞬間、更に驚いた。
――映っているのは今のぼくたちじゃないか。どうなってんだ?
不思議そうにカメラを眺めているままの悟の顔を真亜子が『はい、撮るよ』と言って撮影した。
「見せて」
今度は、聖来が真亜子のデジカメを見せてもらった。 二人の間に立っていた悟もその画面を見たが、そこに写っているのは、派手で綺麗なお姉さん二人と間に挟まれて変な顔をした悟だった。
「どうなってるんですか? カメラは向こう側を向けてましたよね。 なんでぼくらが写ってるんですか?」
「自撮りしたじゃないですか。いやだ、まさかスマホ見たことないの。 やっぱりあなたどこから来たんですか」
「佐賀です。 スマホって言うんですか。このデジカメ」
「あははは、デジカメ、デジカメは、要らないでしょう。 充分綺麗に撮れるし」
「デジカメとスマホとどう違うんですか?」
「あははは、違うでしょう。デジカメで電話やネットは出来ないし」
「ええっ、電話が出来るんですか? 携帯電話? そんなに薄くて小さいのに。 ネットってなんですか? 」
「えーっ、インターネット、知らないんですか」
今度は聖来が半ば呆れ顔で答えた。
「インターネット、中の網? なんですか」
悟には本当に何だか分からなかった。
「網? いくら私たちが壱岐出身だからって網は持ってきてないわ。 いろいろ検索できるやつ」
「検索? 特許とかでは、検索しますね。 そんな事も出来るんですか。 凄いですね、最新の携帯は。知らなかった」
「携帯あった方がいいですよ。 携帯持ってないなんて信じられない」
「分かりました。 佐賀に帰ったら検討してみます。 それより部屋捜して帰らないと嫁さんに怒られます」
「そうですね。先ずは隣の部屋や12号室、02号室とかを当たってみたら。 それからここは24階とかはないから4階とか」
「はい、頑張って捜します。 ありがとうございました」
「あっ、ちょっと待って」
今にもドアを開けて出ようとしている悟を真亜子が呼び止めた。 真亜子は、悟に駆け寄ると悟の胸に頬を押し当てて
「またね」
――えっ、許してくれるんだろうか。
「さようなら」
悟は、真亜子の甘い香りにクラっとなって、そう答えるのがやっとだった。
真亜子は、さっき撮った写真を見せながら携帯を右手に持ったまま、にっこり微笑み、手を振った。
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