第2話【真亜子と聖来】
悟は、直ぐさま服とシューズを脱いでシャワーへ向かった。 冷たいシャワーを浴びて、だいぶスッキリした悟は、ついでに強い紫外線で痛くなった目のコンタクトレンズも外して顔を洗いながら目の中も洗った。 さらにスッキリしてきた悟は、エレベーターから出た直後のふらつきが嘘のように元気になった。 元気になったら少しムラムラとしだして、やろうと思った。 ベッドは、ツインだが悟は、身体を拭きあげると裸のまま留美が向こう向きで寝ているベッドへ背後から潜り込んだ。 潜り込んで、身体を寄せて留美も裸であることに気づいた。
――なんだ、留美も待っていたのか。
悟は、両手を留美の前に回して両胸を左右それぞれの手で包みこむように触った。 微かに留美の身体の反応を感じ、更に両手を動かし愛撫を始め、留美の身体が段々熱くなるのを裸全身で感じ、ついに背後から襲った。 いつもなら背後はないが、新婚旅行中だから特別かなと構わずドンドン攻めた。 今度は身体の芯から留美が熱くなるのを感じ自分もオルガスムに達した。
その時である。 予期せず部屋のチャイムが鳴った。
ピンポーン
――あっ、チェーンかけたっけ? あっ、あっ。出ちゃった。
悟は、新婚旅行でもう失敗しても大丈夫という油断があったのか、思わぬチャイムの音に驚いたのか、射精してしまった。
「えっ?」
留美が慌てて振り向いて叫んだ。
「えーっ?」
今度は、悟が留美の顔を見て叫んだ。
――留美じゃない。 何、何、何が起こった? なんで? 今まで留美は化けてた?
でも化粧も普段してないしなあ。この方化粧してる。 どおりで甘い香りがしてた。あっ、留美がわざわざ慣れない化粧をして裸でぼくを待ってた?
そうこう考えているうちに留美は、いや違うかもしれない方は、ベッドを抜け出し、ドアのチェーンと鍵を開けて浴室に入り込んだ。 部屋のドアが開いて、今度は、ちゃんと服を着た、さっきの女性よりもやや若く見えるが、とてもよく似た可愛いい美人が入ってきた。
「まあこ、また自分ばっかりいいことして・・・ いつの間に連れてきたの?」
その子は、悟を見ながらドア近くにある浴室の中の方に向って言った。
浴室の中から何やら返事がしたようだったが悟には聞き取れなかった。 悟は薄い布団で前を隠しながら
「いや、連れ込まれたんじゃなくて、ぼくが迷って入って、襲っちゃったみたいです。 背後から。 すみません」
「どうでした? 気持ち良かったですか? 」
「そりゃもう、我慢できなくて出しちゃいました」
悟は、その若くて可愛い子の予想外の質問につい素直に答えてしまった。
「えーっ、子ども出来たらどうするんですか」
「嫁さんだと思ってたし、もう結婚したし、いいかと油断してしまってました」
その子は、やや苦笑しながら
「違うと気づかなかったんですか? 奥さんとは違うでしょう」
「オッパイを触った感じも同じだったし、嫁さんとは背後はしてないからこんなもんかと思ってました。 今思えば化粧の甘い香りがしたので、そこで気づけば良かったかもしれません。 嫁さんはあまり化粧しないので。 それに煙草の香りも一瞬したんですよね。 真亜子さんは煙草を吸われますか?」
「うん、少しだけ」
その女の子が少しタメ口になったところで真亜子が浴室からタオルを巻いて顔を出した。
「せいら、私の服、取ってくれる。ベッドの上にあるやつ」
悟は、コンタクトレンズを外していたためよく見えなかったが、真亜子も聖来もどちらも美形でとてもよく似ていた。
「あのう、ぼくもシャワーしてもいいですか? 真亜子さんの香りを落として帰らないと」
「ああ、間違えたとはいえ、新婚旅行中に浮気ですもんね。 言えないでしょう、 奥さんには」
聖来はまた苦笑しながら言った。
「はい、早く帰らないと」
悟は、真亜子が浴室から出てきたあと直ぐにシャワーをし、コンタクトレンズを付けて、ランニングパンツ、Tシャツにランニングシューズという部屋に入った時の姿に戻って浴室から出てきた。
真亜子と聖来、コンタクトレンズを付けて改めて見返すと、メイクのせいもあるのかほんとに良く似ていた。 しかもあか抜けている。
――ぼくは、こんな綺麗なお姉さんと浮気してしまったのか。 しかも新婚旅行の最中に・・・・・・ こりゃとんでもないことになったぞ。
悟は、嫁さんがブチ切れた時のことを想像して背筋が寒くなった。 そして、これはなんとしても早く帰って何事もなかったことにしないとと思った。
「ねぇ、奥さんって、綺麗なの?」
今度は、真亜子が鏡を見ながら尋ねた。
「はい、まあ、綺麗な方ですが、お姉さん達みたいにナウい綺麗さではありません。化粧もあんまりする方じゃないし」
「『ナウい』 何ですか、それ? 」
聖来が真亜子と顔を見合わせながら言った。
「あっ、言い方、気に障りましたか?」
「いいえ、『ナウい』の意味が分かりません」
真亜子が言った。
悟は、二人にからかわれているのかと思ったが、一応、真面目に
「みんなが使ってる通りの意味の『ナウい』ですよ。 新しいとか、かっこいいとかの」
二人はまた顔を見合わせながら笑って聖来が
「真亜子と男とハワイホルディインナウい?」
「あははは、あなたどこから来たんですか」
聖来が言った言葉や真亜子の問いの意図が悟には、よく分からなかったが、また素直に
「いや、九州ですよ。 佐賀」
と答えた。
「佐賀ではかっこいいことを『ナウい』って言うんですね」
「いやいや、佐賀は田舎ですが全国的にそうだと思いますよ」
「私たちも壱岐と博多だけど、そんな風には言いませんよ」
益々、悟は意味が分からなくなって困惑した。そんな困った様子の悟を見て、真亜子が
「そういえば、昔そんな言い方をする人もいたような気もします」
と言った。
悟は、ひとまずほっとしたが、先ほどの聖来の訳の分からない言葉に出てきたホルデイインというホテルの名前を思い出して、我に返った。
「あの、ここは、ホルデイインハワイの1422号室ですよね?」
「そうですよ」
「ぼくらもホルデイインハワイの1422号室に泊まっているんですけど、ホルデイインハワイって二つあるんですかね?」
「えーっ、そんなことないでしょう。オプショナルツアーの確認はホルデイインで通用しているし、ホルデイイン旧館とか新館とか聞かれたこと無いですよ。 部屋番号間違えているか階を間違えてるんじゃないですか」
「そうですかね、捜してみます」
「あっ、また来ますか?」
真亜子が悟に尋ねた。
「いや、部屋が見つかれば嫁さんといないといけないから帰って来ないと思います。今日は、ほんとにすみませんでした。 間違えたとはいえ新婚旅行の最中に襲ってすみませんでした。 出来れば訴えないでください。 もし、なんかあったら責任とります。 その時は連絡ください。 名前は東山悟と言います。 電話番号は、0954・・・ 」
「携帯教えてください」
真亜子は笑いながら言った。
「携帯はあいにくまだ持ってないんですよ」
「まだって?」
「まだ高いでしょ? ぼくらには手が出ません」
「ぼくら? 奥さんも持ってないんですか?」
「はい、ぼくも持っていないので、あまり持つ意味もないし」
「いやー、困るでしょう。 無かったらお店とかも調べられないし」
悟には、真亜子の言っている意味がよく分からなかったが、とにかく誠意をもって答えた。
「たいして困ってませんよ。 まあ、有れば何処にいても連絡つくし、便利でしょうけど、二人も持っていたらもったいないです」
「ケチなんですね。 まあ、いいです。 家の固定電話の番号を教えて下さい」
悟は、固定電話という言い方にやや違和感を覚えたがホテルのメモ用紙に電話番号と自分の名前をフルネームで書いて渡した。
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