気になる木 ―ハネムーンインハワイ―

岩田へいきち

第1話【モンキーポッドの木】

「この木なんの木、気になる木、名前も知らない木ですから・・・♫」 


 悟は、この日立のCMソングを歌いながらハワイ動物園近くの芝生の公園にあるモンキーポッドの木、短い大きな幹の上に富士山を取り付けたような形の大樹の周りを時計回りに走っていた。 この木が日立のCMで使われている木そのものではないということは、三年前にハワイへ新婚旅行した山口先輩の土産話から分かっていたが、この木もとても大きく、枝葉の裾野は直径約40mほどもあった。 円錐形のバランスも良く、CMで使われている木よりカッコいいのではないかと思いながら回り始めた。 その木が作る大きな円形の木陰の縁を外に出たり入ったりしながら、ゆっくりと走った。 幹の周りでは記念撮影をする女性の二人組みや木陰に座り込むカップル、子どもが走り回る家族連れなどがいた。 木の枝には、小鳥がたくさんとまっているようだが、陰になっていて、鳥の色まではよく見えない。 しかし、鳥の巣らしきものもあるようだ。 木陰の外に出ると直接陽射しが当たって、やや暑いが木陰に入るととても涼しく感じる。 さすがは、ハワイだ。 空気が乾燥していて適度に風も吹いて気持ちいい。 悟は、調子にのって4・5周走った。 そしたら高校時代の陸上部の自主トレを思い出したのか、きつくなってもあと一周あと一周とついに10周を越えた。 この木の内側ばかり見ながら走るとまるでアマゾンのジャングルにでも居るかのようであるが、視線を外に向けると近くにヤシの木も有り、やっぱりハワイだと思い出す。


そんなことを考えたり、また『この木なんの木 気になる木・・・』と歌いながら更に二周三周と回っていると、高校時代の駅伝前のロード練習の場面が蘇ったり、留美と結婚するまでのたくさんの場面が一気に押し寄せてきた。

 そして過去から今までの事を一気に巡って、 そうだった。 ぼくは、留美とここハワイに新婚旅行に来ていたのだった。 結婚式の翌日福岡空港を出発し、大韓航空ソウル金浦空港乗り換え便でやって来たのだと今現在を思い出した。

 四時間も飛行機が遅れたせいもあってか疲れてぐっすりと寝ている留美を起こさず、ランニングパンツにTシャツ、高校時代に使っていたハリマヤのマラソンシューズレース用を履いて走って来たのだ。 あと一周走ったら留美のところに帰ろうと決め、悟は、合計14周も走って、また元来た芝生のコース、浜辺沿いの歩道を走って、留美がもう起きて待っているかもしれないホルデイインワイキキホテルの14階1422号室へと向かった。 休まず走ってきたせいかエレベーターで上がる時、少しめまいがした。 悟は、部屋へ帰ってシャワーを浴びれば治るだろうと部屋へ急いだ。 鍵は持って出てないが留美が開けてくれるだろうと部屋のチャイムを鳴らした。 中からチェーンを外す音がしてドアが開いたが、留美は、ドアを開けると同時に背を向けて、またベッドへ向かったらしい。


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