4話
「あ~~~れ~~~!!!」
さっきまでゲーミング的な光を放つ謎空間でテレポーテーションの瞬間を待ちわびていたと思ったら、いきなり空中から真っ逆さまに落ちていた。
え、なんなのこれ。もしかしてあのお姉さん座標間違えたとか?
「ちょっ、大丈夫かミ~コ~ト~……」
タマが袖を掴んで落下を防ぐ。エレベーターが急に止まったみたいな衝撃はあったけど助かった……。
「あっもうだめ」
「わーーーっっっ」
安息は一瞬だった。どんなジェットコースターでも味わえない恐怖がそこにあった。ていうか僕はジェットスター嫌いだ。むしろこれはバンジージャンプに近い。バンジーはもっと嫌い。
「わぶっっ!!!」
どこかの森に落ちたらしくいくつもの木の枝がクッションとなって落下の衝撃を和らげてくれた。こんな漫画みたいな落ち方して本当に助かるんだ……。
「あたたた……」
「大丈夫かい、ミコト」
「うん、ありがとうタマ。ところでここが魔法の森? ちょっと思ってた雰囲気と違うけど」
なんだかジメジメして蒸し暑い。森っていうか、
「えーっと、ここは黄金の谷だね。その崖の下、峡谷に落ちたみたいだ」
「黄金の谷かぁ……えっ?」
「おや待てよ。黄金の谷ってエルフの住むエレメンタリアにはないぞ」
そう、黄金の谷はエレメンタリアじゃない。
僕は木々の隙間から見える空を見上げる。真っ赤に燃える夕焼けのような空だけど、ここではそれが一日中続いている。
なんでそんなことがわかるかって。そりゃあもちろんゼノバースの設定は全部僕の頭の中に入っている。カードのルールテキストは覚えてないけど、世界観の設定は暗記してるからね。
遠くで何かの咆哮が轟く。狼? 鳥? いいや、違う。
あれは――
「そう、ここはきっと竜が支配する『炎の世界ミラージュレルム』なんだ!」
「ああ~、それオイラが言おうと思ってたのに」
「黄金の谷には財宝を守る竜が住んでいる。それが黄金の谷の前の由来である、でしょ」
「そうさ。そのお宝はどこかの洞窟に隠されてるって話だよ」
谷底から抜け出すためにひたすら歩き続ける。まったく整備されていない道はぬかるんでて油断すると足を取られる。運動靴よりも長靴の方が良いかもしれない。ここがエルフの森だったらエルヴンブーツみたいな魔法アイテムがもらえたかもしれないのに。
「ミコト見て、洞窟だ」
茂みの向こうに広い空き地のような空間が広がり、その奥には山を削ったような洞窟が現れる。
「もしかしてお宝の眠る洞窟かな? 入り口も結構大きいし」
「だとしたら危険じゃないの。近くに竜がいるんじゃ」
「おいおいミコト、冒険に危険はつきものだろう?」
タマは僕を危険な目に遭わせたくないのか遭わせたいのかよくわからない。
「見つかる前にここから」
言い終わる前にふっと視界が暗くなる。
「ここから――逃げられると思うか」
こだまするような声が響いたかと思えば、吹き飛ばされそうなほどの風圧が襲いかかる。目の前に巨大な何かが降ってきたみたいだ。
その正体は再び声を上げる。
「ここまで辿り着いたことは褒めてやろう。しかし、俺の財宝は誰にも渡さん!」
そう叫ぶ大きな口は、僕のことなんて丸呑みできそうなほど大きい。
ああ、せっかくゼノバースにやってきたのに、初日に僕の冒険は終わってしまうんだ。
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