3話

 ここでカードフォージバトルの基本的なルールについておさらいしておこう。

 対戦型カードゲームといってもモンスターを召喚して相手のライフをゼロにする類の対戦じゃなくて、シンプルに言ってしまえばトランプのポーカーとかブラックジャックに近い。

 真ん中に召喚士サモナーとしてのカードがあり、その上下左右の四つのスペースにキャラクターカード三枚と魔法カードなんかの非キャラクターカード一枚を置く。自分と相手がお互いにカードを出し合って、最終的に四枚のカードの組み合わせで評価点を競う。

 最終的に設定された目標点に先に到達した方が勝ちとなる。目標点は大会の規模によって異なるのだけど、大きな大会ほど目標点の数字も大きくなってまぐれ勝ちは少なくなる。きちんとルールを把握して、カードの組み合わせによるシナジーやコンボを理解する必要がある。

 ……この辺りはタケルの受け売りだけど。


「ところで、デッキを組むためのカードはどこで手に入るの?」

「そりゃあもちろんカードショップさ」



「はぁ? タダでカードが手に入るわけないだろうが。舐めてんのかこのガキ」

 僕らは逃げるようにショップを後にした。

 ちょっとデッキに使えそうなカードを見繕ってそのまま店を出ていこうとしただけなのに。うん、冷静に考えたらただの万引き犯だ。

「まさかお金も払わずに出ていこうとするとはオイラも予想外だったよ……」

「……だって……ううっ」

 まだちょっと涙ぐんでいた。


「まぁどっちにしてもカードのシングル買いは大人がやることだからね。でも、ミコトみたいな子どもだって大会には出られるような仕組みがあるのさ。なんせこの世界じゃカードは生成フォージするものだからね。生成者フォージャーに直接会いに行って協力してもらうんだ」

「直接会いに、行く」

「そう。君くらいのお年頃だと好きでしょ、冒険」



 ゼノバース内で今居るポルタと各地を移動するための関所のような場所――ここでは開門ポータルと呼ばれている――に向かう。案内人ナビゲーターがいて、行き先を告げると一瞬で移動できるのだ……って説明書には書いてあった。


「あら、可愛らしい小さな召喚士さんね。いらっしゃーい」

 その案内人には見覚えがあった。

「美幸お姉さん!?」

「ミユキ? その人は知らないけど、きっと君の知っている人に似ているんだね」

 そうか、僕にとっては美幸お姉さんがカードフォージバトルの案内人のようなものだったからそんな風に見えているだけで、本物ってわけじゃないんだ。


「どこに行きたいのーって、初めてなんだったっけ。えーっとぉ、ここから五つの世界に飛べるんだけど、エルフがいる世界とかー、ドラゴンがいる世界とかー、格好良い機械だらけの世界とかがあってね、後の二つは忘れちゃったんだけど」

「後は『氷の王国』と『神秘の神殿』ですよね。僕のいた世界でもカードフォージバトルがあるんでわかります」

「おお~、私よりも物知り。すごいね少年! ……少年?」

「そこに疑問を持たないでください」

 大丈夫かなこの人。実は本物なんじゃないか。


「とりあえず初心者はエルフのところに向かうのが定石かなー。大会に出るって言えばみんな協力してくれるから、カードが集めやすいの」

「エルフがいる世界といえば『魔法の森エレメンタリア』ですね」

「そのとおりっ。大会までの準備期間も限られてるからね。全部の世界を回って全部のカードを集めるなんてのは出来ないから、自分の好きなデッキややりたいことを意識しながらカードを集めることも大切なのよ」

 そうか、全部のカードを集めている時間がないんだ。お姉さんの言葉ではっと気付かされる。さすが案内人、こういうところの説明はちゃんとしてくれるんだ。

「オイラも賛成。あそこなら命の危険もほとんどないから安全だ」

 タマが腕組みしながら頭を縦に振る。猫の腕組みって初めて見た。


「よーし、それじゃあ行き先は魔法の森に決定ね。そっちの四角い線が入ってる床に立ってて。その空間ごと移動する仕組みになってるの」

 碁盤の目みたいに線が入った床の上に立つ。七色に光っている場所が全部瞬間移動するという。つまりこれはテレポートマシンなんだ。ゲームの中の世界みたいで興奮する、っていうかここがゲームの世界そのものなんだけどさ。

「えーっと、これをここに動かして……よし、出来たっと」

 お姉さんが機械を操作して転移先を指定している。そんな簡単に出来るのかとも思うのだけど、それがゼノバースという世界なんだ。

「おっけー。それじゃ起動っと。いってらっしゃーい、頑張ってね~」

「はーいっ!」

 お姉さんに見送られて僕は最初の異世界、魔法の森エレメンタリアに出発する。


「あれぇ~……ぁ」

 というつぶやきが聞こえたのは、気のせいだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る