2話

「やぁやぁ新たな挑戦者。君のような召喚士サモナーが現れるのを待っていたよ」

 混乱する僕の目の前で空間が歪んだかと思えば、胸の高さの位置で光に包まれた四足歩行の謎生物が現れて浮遊したまま語りかけてくる。

「……タマ?」

「おいおいなんだい安直な飼い猫みたいな名前は」

 いやだってどう見てもタマだし。

 飼い猫のタマにそっくりなそいつは背中に翼があり、羽ばたいてもいないのに宙に浮いている。うちのタマはどうしちゃったんだろう。


「ほーら、ヨシヨシヨシ」

「ゴロゴロ……だからオイラは猫じゃないっての! 君のような新人召喚士を手助けするポップでキュートなマスコットサポーターなのさ。開門ポータル領域ゼノバースへようこそ!」

「やっぱり、ここはゼノバースなんだ……」

 わかってはいたけど、言われて改めて実感する。


「は? ニホン? どこそれ。君がもともと住んでいた世界? まーそういうこともあるだろうさ。なんせここはありとあらゆる別次元とつながっている開門領域だからね。それじゃチュートリアルいっとく?」

 チュートリアル、という単語で思い出す。

 カードフォージバトルというカードゲームには初心者向けの入門デッキがあるのだけど、世界観の紹介や基本的なルールを記した説明書がついてくる。

 プレイヤーはゼノバースに迷い込んだ新人召喚士という設定で、彼とマスコットキャラクターとの掛け合いによる色んな解説が書かれている。つまりタマは説明書のマスコット役というわけだ。


「ここはゼノバースの中心部、多次元都市ポルタだ。ここから五つの異なる世界と自由に行き来ができる。そこに住む住人や君たちのように別世界からやってきた者が生成フォージされたカードを組み合わせてデッキを作り、年に一度開催される最強の決闘者デュエリストを決めるカードバトルに挑戦するんだ。優勝すれば王様がどんな願いでも叶えてくれるから、元の世界に戻りたいって言えば良いんじゃないかな」

「つまりカードバトルで優勝するのが一番手っ取り早いってこと?」

「そうだね。この頂上決戦は『マスターズリーグ』って呼ばれてるよ」

「えっ、マスターズリーグ!?」

 思わず聞き返す。タマはそうだよ、と繰り返す。

「なんで僕なんかがマスターズリーグに……」

 僕じゃなくて、タケルじゃないのか。

 そう言いたかったけど、言ったところで多分伝わらないだろうからその言葉を飲み込む。

 本当にただの間違いだったとしたら。僕はどうなってしまうのか怖くてそれ以上否定できなかった。


「さあ? ともかく君は選ばれたんだ。それじゃそろそろ、君の名前を教えておくれよ。僕と一緒にマスターズリーグのチャンピオンを目指そう」

 僕は――月読つくよみ海琴みことはどういうわけだか、異世界の地でマスターズリーグへ挑戦することになったらしい。

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